Extra episode~特別な存在~
「授業参観?高校生にもなって?」
「笑っちゃうだろ?でもさ、うちの兄ちゃんが言うには結構な数の人が見に来たらしい」
「へー」
「うちは母ちゃんが今から張り切ってんだぁ~うぜ~」
「あははは、大変だなー」
ということは、奏多も知ってんのかな?
“授業参観”なんて体験したことがなかったし、どう感じるのかも実際には分からなかったが、オレ に植え付けられた「知識」が高校では珍しいことだ、という感情を生み出していた。
“授業参観”は正式には“公開授業”というらしく、何日かの設定日の中から保護者たちが好きな日を選んで参観する、というものだった。
奏多は仕事が忙しいだろうし、そもそも「家族」でもない訳だし。…特に言わなくてもいいか。
オレは学校から渡された“公開授業”のプリントをゴミ箱に捨てた。
「じゃ、いってきまーす」
「気をつけろよー」
“公開授業”初日。
午前と午後のそれぞれ一回ずつで自由に見学することが出来る授業には、聞いていたとおり沢山の人が集まった。
「えー、あんたのお父さん、わかーい」
「あそこの人かっこよくない?」
「うわ、お前母親そっくりだな」
そんな声で賑わう中、後ろから友人に話しかけられる。
「なあ陽羽 、お前んとこ誰か来てる?」
「…ううん、まだ初日だしね」
当然誰も来るはずはないのだか、きょろきょろと辺りを見渡して「家族」を探すフリをする。
そんなことが繰り返される日々が幾日か過ぎていった。
初めの何日かは心のどこかで期待していたオレも、後半になってくると、やはりそんな訳ないという気持ちに侵略され、“公開授業”もいつものなんの変哲もない授業に変わっていった。
“公開授業”最終日。
「いってきまーす」
「待て陽羽、今晩は遅くなるかもしれないから弁当でも買ってくれ」
「はぁーい」
やっぱり、ね。最終日には!なーんてドラマみたいな展開なんて今更気にしてないけど。そこで家族を見つけた友人たちの顔が浮かぶ。ううん、ちゃんとしろ!オレは奏多の何者でもないんだから。
午前はなんてことない“授業”を受け、午後のなんてことない“授業”が始まった。
10分、20分、と時間が経つ。初日ほど盛り上がってはいないが、相変わらずいろいろな席で噂が流れる。…あと、10分か。窓から時々入り込んでくる心地よい風にウトウトしていると、後ろの席の友人が肩をつつく。
「なあ陽羽、お前んとこ誰か来てる?」
数日封印されていたその質問が復活を果たす。
「…いや、誰も…!」
「どうした?」
「ううん、母さんかと思っただけ。そういや、公開授業今年は誰も行けないって言われてたんだった」
「なんだよー、お前の母さんどれだけの美人か見たかったのに」
ちぇー、と言って後ろに引っ込んだ友人と、たった今見つけた「その人」に見られないよう、机に教科書を立てその中で笑みを浮かべた。
ふ、ふふふふふふ。
用事があるから、と友人の誘いを断り、廊下をとぼとぼと歩く奏多に追いつく。
「今日はもう終わりだから。外まで一緒に出ようよ」
「陽羽」
「残業。今日これを見に来るために抜け出して来たから、なんでしょ」
「バレたか」
はは、と奏多は困ったように笑う。奏多のくせにカッコいいことすんなよ。
「でもこれって前からある行事みたいだし元々知ってたんでしょ?」
「いや、俺が通ってた時は無かったよ」
「じゃあどうして?」
「…実は昨日の夜、捨てられてたプリントを見つけて。お前は俺に来られるのが嫌で捨てたんだと…だからこっそり見て帰るつもりだったんだ」
そう言いながら奏多はスマホを取り出し、一つの画像をオレに見せる。
そこには授業を受けるオレが写っていた。
「お前は嫌がるだろうけど、今は俺の家族なんだから。それぐらい許してくれ、な」
バカ。
また、笑みがこぼれそうになるのをバレないよう、奏多から一歩下がって歩く。数歩歩いたところで周りに誰もいないことを確認して、もう一つの姿へと変身する。
「ありがと、奏多」
女子高生の姿で、後ろから奏多に抱きついた。
「は!?陽羽!?ど、どうしてお前!!!!」
「私ね、本当に嬉しかったよ。だから…私のこと、好きにして♡」
「えっ、えっと!!…お、俺もほんとはっ!」
「何欲情してんだよおっさん、葵さんはどうしたんだよ。まあ?こんな美少年に、そうなっちゃうのも分かんなくはないけどねー」
「!?陽羽!?いや陽羽ちゃ、え、えええ???」
真っ赤になった奏多が、依然抱きついたままの男子高生のオレを振り返る。だからオレは、にやっと笑ってみせた。
それが本当は「奏多がここに来てくれたこと」に対する笑顔だったんだけど、オレの家族がその真意に気付くことは、恐らく無い、だろう。