4 陽羽との生活
「じゃ~ん☆はい!デートで使ってよ☆」
リビングで読書をしていると、陽羽が何かを持って現れた。
「…これ、確かなかなか手に入らないはずじゃ。どうしたんだ?」
渡されたそれは、今大人気のプラネタリウムのチケットだった。まるで空を飛びながら星を眺めているような感覚が楽しめる場所で、連日大賑わいだ、とニュースで紹介されていた。
「そ、結構大変だったんだよ。おじさんに下着売ってー、おばさんとデートしてー」
陽羽は明らかにおかしい言葉を言いながら、俺の横に座る。
「待て待て。…普通に買ったんじゃないのか?」
「そんな訳ないじゃん。すぐに手に入らないかもだし、それにお金も使いたくなかったし。だからちょっと、ね☆」
「ね、じゃないだろ…。怪しいものじゃないんだろうな?…いや、怪しい匂いしかしないが」
「もー、大丈夫だってば。おじさんとこに女陽羽で行ったときはちょこっと怖かったけ」
は?陽羽ちゃんが下着を売った?そんな危ないこと…そもそも俺に売るべきとこだろ!?
「は?陽羽ちゃんが下着を売った?そんな危ないこと…そもそも俺に売るべきとこだろ!?」
ヤベ。つい本音が。
「はあ。ほんと奏多って変態おっさんだよね…。おじさんとおばさんに協力してもらっただけ。あ、おばさんはめっちゃ優しかったけど、ホテルはね…さすがに逃げるよね~」
「違う!そっちじゃなくて!陽羽ちゃんに下着売らせたのかって聞いてんだっ!」
ポテチを頬張る陽羽に、俺はものすごい勢いで迫る。
「何、急に。怖ーい。オレだって(自分の)下着を変なことに使われるのはヤだよ。だから、下着はダミー。使用済に見せかけたら簡単にチケットくれたよ」
「とにかく陽羽ちゃん(とその下着)が無事で何よりだ!ほんとっ危ない目に会わなくて良かったっ。ああ神様ありがとう!………そ、そもそも、なんでそんな奴がこんなもん持ってたんだ?」
泣いて喜ぶオタクを横目に、陽羽は淡々と答える。
「わかんない。女の子でも誘おうと思ったんじゃない?ってか奏多、気持ち悪い」
「とにかく!今後、陽羽ちゃんの姿で外に出かけるのは禁止だ!今回だってどんなエロ、いや、危険な目にあってたか…」
「まあ、何かあればこっちでフルボッコにしたけどねー」
「とにかく!今後はここでしか陽羽ちゃんにならないこと!いいか!」
「しょうがないなー。はいはい、むっつりスケベの奏多にしかご奉仕しませんよー」
「ごほ…そそそそ、そういうことじゃなくてだな!」
陽羽ちゃんがご奉仕…っていやいや!オレがこんなことになってるのはむっつりって言われたことへの怒りで、だからその決して陽羽ちゃんにいやらしいこと…じゃなくて…ああ、陽羽の視線が痛い…。
「…何考えてんの。そんなことより、それいつ行ける?葵さんにはまた連絡するって言ってるんだけど」
顔を真っ赤にして悶える俺に、陽羽は冷静(というか確実に引いてるな)に問いかける。
「あ、ああ…土日なら俺は大丈夫だが」
「オレも土日なら大丈夫だよ」
「は?デートって二人で行くもんだろ!?なんで」
「だってまだここでご飯食べただけじゃん?そんな奏多が初デートでいきなり素敵なエスコートできるわけ?どうせまたなーんにも喋らないで葵さんを困らせるだけだよ」
「そんな訳…ある、か」
あの時も陽羽がいてくれて、少し…いや、だいぶ助かったからな。
連絡交換した日から、葵さんはほぼ毎日俺のとこに手作りのおかずやお菓子を届けに来てくれていた。そして一昨日の夜、陽羽の助言もあって、お礼に葵さんを夕食に招いたのだった。
「奏多ぁ、全然会話出来てないじゃん」
葵さんが洗い物をしに席を立った後、しばらくして陽羽が小声で俺に突っ込んだ。
「しっ、してるだろ…少しは。」
「オレだって鬼じゃないんだし、流暢に、とは言わないよ?いつもの挨拶とかみたいな感じでいいんだからさー」
「あのちょっとした会話と今のこれは俺にとって全く別物なんだよっ」
「ふふ、二人とも本当に仲が良いんですね」
「そっ、そうですかねー。あはははは」
戻ってきた葵さんに話しかけられて、少し驚いてしまう。今の聞かれてないよな…。
「それよりすみません、お客さんなのに気を遣わせてしまって」
何か気まずくて、咄嗟に言葉が出てしまう。
陽羽見ろ、ちゃんと話せてるぞ!
「全然です。私が好きでやってるんですから、気にしないでください」
「葵さん!どれがいい?」
陽羽は、食後に用意しておいたケーキの箱を開けながら、葵さんに近寄る。
おい、近いぞ。
俺の視線に気づいた陽羽がニヤリと笑い、さらに葵さんに近寄った。
「オレのオススメはねー♪」
くっ、このくそガキッ…!ってこんな時に!
「えっと、先選んでてください、俺ちょっとトイレ行ってきます」
後で覚えてろよ。
「おい、陽羽、先に葵さんに選ばせろよ。葵さん、ゆっくりしててください!」
「はいはい、レディファーストねー」
「ありがとうございます」
バタン
「美味しいねー☆」
「先に頂いてて大丈夫なのかしら?」
「大丈夫大丈夫、なんか長そうだし。ところで、オレ一つだけ葵さんに聞きたいことあったんだよね~。奏多もいないしちょうどいいや」
「何かな?」
「えっとね。葵さんて……この世の者じゃないよね?」
「な、何言って」
「奏多と会うまでどんな生活してたか、見ちゃったんだよね~☆」
「!!!貴方、何者?………彼に話すの?」
「言わないよー、オレはただ葵さんの願いを叶えたいだけなんだから。さあ、食べて食べて☆」
「ちょっと飲みすぎたなー…あれ?葵さんは?」
先程まで二人のいたリビングに、葵さんの姿が見当たらない。
「なんか急用思い出したって帰ったよ。それより奏多最後までほとんど喋ってなかったよねー。」
「…お前は喋り過ぎだ」
「えー。オレ気ぃ使って度々奏多に話振ってただけだし。ほんとっヘタレだよね」
「くっ、まだ本気を見せてないだけだ」
その言葉を待っていましたと言わんばかりに、目の前の美少年は怪しく笑った。
「じゃあさ、次は奏多の本気見せてよ、葵さんをデートに誘ったからさ」