Extra episode~変わっていくもの 変わらないもの~
「ふふ。お兄ちゃんくすぐったいよぅ」
「あぁこれこれ♡久々の陽奈の匂い♡すぅはぁ、すぅはぁ♡」
「きゃはは」
その日、気づいたら再びお兄ちゃんのとこにいて、お兄ちゃんが帰ってきてからずっとベッドでじゃれ合っていた。
「そういえばさ、この前見つけたんだけど」
お兄ちゃんはそう言ってベッドから離れ、クローゼットを開けた。
「ほら、これが希。素敵なおじいちゃんになってるだろ?」
「わ、ホントだ。希、嬉しそう。……奏多さんにはまだ伝えてないんだっけ?」
「うん。だって奏多ってばまだ全然葵さんに自分の気持ち、伝えられそうにないからさ」
古いアルバムには、幼い頃の奏多さんととても嬉しそうな希の写真が何枚も飾られていた。
そういえば、あの言葉を奏多さんも言われてたのかな……
「はぁ~♡お兄ちゃんの匂い♡すぅ~はぁ~♡んーたまんない♡」
私は一人、脱衣所で至福の時間を過ごしていた。手には、お兄ちゃんがお風呂に入る前に脱ぎ捨てたシャツ。それを鼻に押し当て、思い切り『香り』を堪能する。
え?変態だって?それなら皆だって変態じゃない?だって大好きな人の身に着けてるもの、絶対嗅いでるでしょ?(※個人の感想です。)
「こほん。陽奈ちゃん。父さんたちがいないからって何してんの」
ぽややんとした気分でその場にいると、腕まくりをした希が現れた。
「ち、うっせぇな、黙ってて」
私の敵意むき出しの威嚇を特に気にした様子もなく、希は皆の汚れた衣服を捌きだした。
「……はー。もう陽奈ちゃんも高校生でしょ?そういうの止めたほうがいいと思うよ。他にも素敵な男子は沢山いるよ?いつまでもそんなんじゃ」
「だからうるさいっていってんの。ほっといてよ」嗅ぎながら、希に噛み付く。
「はー…………このこと母さんに話したらなんて言うか。いや。仲が悪くなければ上等、とか言うなあの人は」
洗濯前の衣服の山から、それを見つけ、ポケットへ忍ばせる。
「……陽奈ちゃん。それ。陽羽お兄さんの下着ですよ」
「だったら何?何か文句ある?」
「あのね、あちょっと…………全く」
希が何かを言い出そうとしたが、聞こえないふりをしてその場をあとにした。何と言われようと、お兄ちゃん以外に興味なんてないし。
全ての家事を終えたのであろう希が、居間に入ってきた。
「ふぅ。うわ珍しい。君らが家にいるなんて。そうか、やっと僕らと」
「ちげーよ。オレらの勝手だろ、な、陽奈」
「そーそ。希にはかんけーないもーん」
「そう。それよりそれは暑いの?寒いの?」
そう言って希は、下着姿で抱き合いながらくつろぐ私たち兄妹を指さした。
「なんだよ?オレらが何しようと希にはかんけーないだろ」
「関係はないんだろうけど……でもさ、そろそろ君たち兄妹も大人になった方がいいんじゃないかな?兄妹が仲良いのは褒められたことだと思うけど、そこまで仲良いのはさ?この前陽奈ちゃんにも言ったけど」
「いいんだよ。オレらはずっとずーっと一緒に居るんだから。なぁ陽奈?」
お兄ちゃんは希にそう返し、私をさらに抱き寄せた。
「うんっ♡お兄ちゃん♡」
「はあ。相変わらず病気だね。さ、今からお昼食べるんだけど、君たちも食べない?」
希は私たちへの説得をやめ、台所に向かう。
「誰がお前みたいなダサい奴と食べるかよ。ほら陽奈、行くぞ」
「少しは規則正しい生活を心がけなきゃ、特に僕ら高校生は」
「一人でやってろ。じゃあな」
希、遅くなっちゃったけど、あのときはごめんね。私もお兄ちゃんもバカでさ。希の寂しさ、分かってあげられなかった……
強く明るい光が、それまでの薄明かりの暗さを、一気に切り裂いた。
「おい、まだ起きてたのか」
「あ、奏多。おかえんなさ~い」
「お邪魔してます、奏多さん」
「陽奈ちゃん、来てたんだ。いらっしゃい。けど、もう25時近いぞ?」
「ええー?もう少しいいじゃんか。陽奈がいるんだしー」
「……お前がいつも心配してる肌の調子にも影響するんじゃないのか?特に成長期は」
「「規則正しい生活を心がけなさい」」
「!?」
「そうですよね。お兄ちゃん寝ようよ?じゃあ、奏多さんのベッドお借りします」
私と言葉が重なり驚く奏多さんと、私を見て、お兄ちゃんも何かを思い出したのか頬を緩めた。
「もぅ、しょーがないなー。あ、待って待って。下にタオル敷かないと!」
「なんで今……っておい。俺はそこまで不潔じゃないぞ」
「ちっがぁう!これは後で奏多がベッドをクンカクンカしないようにだよ!明日は朝イチでシーツ洗ってよね!!!」
「へぃへぃ。仰せのままに」
彼には沢山悲しい思いをさせてきた。
だから。
”あの頃”守れなかった約束を守ることで、少しでも彼を弔うことが出来ているだろうか。




