Extra episode~奏多’sバースデー~
「奏多くん、お疲れ様です」
その日の会社からの帰宅途中、同じく会社帰りの葵さんと一緒になって、二人揃ってマンションへと帰ってきた。
ひとつも疲れを感じさせない葵さん…さすがだなぁ…今日もいろいろあったけど、もう全てがどーでも良い可愛さっ…
「そうだ。明後日の夜って空いてますか?」
ふわふわ幸せ気分で部屋に帰ろうとした俺に、葵さんがそう問いかけてきた。
「へ。あ、明後日、ですか?んーと、残業だとは思うんですよね、いつもと変わらず。…何かあるんですか?」
「誕生日パーティー。今度は私がお祝いしたくって。それなら、別の日のほう」
「本当ですか!!??それなら俺、定時にあがれるよう頑張ります!!っと、す、すみませんっ」
「ふふ。いえ、良かったです。でもあまり無茶はしないでくださいね」
舞い上がってしまい、思わず葵さんの手を握ってしまう。そんな俺に、葵さんはいつもと変わらない眩しすぎる笑顔を向けてくれた。
ああ…かわえぇぇ…
そして、待ちに待った誕生日当日。
「奏多くん、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます!!!」
予告した通り、定時で仕事を終わらせた俺は、速攻で帰宅し着替えを済ませ、葵さんの部屋を訪れた。
「うん!美味しい!!」
「ふふ、良かった。沢山食べてくださいね」
乾杯を終えた後、俺は目の前の葵さんの手料理を堪能する。
「残念だな~陽羽は。ぁ、いや、あいつがいるときっとうるさくするし。でしょ、葵さん?」
「え。えっと、うーん…どうなんでしょう?」
「プレゼント、私の勝手なイメージで選んだんですけど…開けてみてください」
「わぁ、これ、ちょうど欲しかったんです!!ありがとうございます!大切にします!」
葵さんから受け取った長方形の箱を開けると、中には自分が欲しいと思っていた腕時計が収められていた。
「それから」
「何で」
俺が言い終わらないうちに、背中を柔らかい感触が支配した。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
「いつもありがとうございます。……はい、これで全部です」
そう言って、葵さんは少し恥じらいながら、俺から離れた。
ハ??イマ、アオイサンニ、バックハグ、サレタ???
「葵さん突然どうし、!?」
ドキマギしながら、葵さんの方に向き直った。
「私からの感謝のきも…ち、っあ、あれ?」そう言う彼女の頬を涙が伝った。
「お、俺!何かっしてし」
「違う、違います!そうじゃないんです!そうじゃ、なくて……今日奏多くんの誕生日がお祝い出来て良かったなって。本当に、ほんとに良かったって。そう思ったら…」
「葵さん…」
「っ。お茶っ、お茶入れ直しますねっ!」
「…」
必死で涙を隠す葵さんがとても愛おしかったが、何も出来ずただじっと見つめることしかできなかった。
「もう、大丈夫ですか?」
「はい。ごめんなさい、こんな日に」
「いや、そんなに思ってもらえるなんて、俺嬉しいです。お邪魔しました、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「あの!葵さん!来年も!来年も一緒にお祝いしましょう!絶対!」
「はい、是」
「すみません、ちょっと電話が。…もしもし。うん、わかった。今ちょうど帰るとこだから。うん、じゃあな」
「…陽羽くんですか?」
「ですね、夕飯食べてないらしくて早く帰ってこいって。おかず分けてもらってて良かったです。プレゼントもありがとうございました」
すっかり泣き止んで穏やかな笑顔になった葵さんに見送られ、俺は扉をそっと閉めた。
来年も。絶対に。
自分の部屋の扉の前で立ち止まり、自分の手首に光る「葵さんからのプレゼント」を見る。
確か去年の”今日”はまだ葵さんと知り合ったばかりで、挨拶をするだけで、話しかけるなんてとても出来なくて…。これからの”今日”を二人はどう迎えていくのだろうか。
ああ。誰かに対してこんな気持ちになることがあったんだ。
俺の身体は、葵さんへの想いでいっぱいになる。
もっと葵さんのことを知りたい。ずっと葵さんの隣に居たい。葵さんの一番になりたい。
そして。
彼女と共に人生を歩みたい-。




