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1 そして俺の平凡な日々は終わった

帰宅して部屋に入ろうとした時、隣の部屋の扉が開いた。

それに気づき、その中から出てくるであろう女性を待つ。

「あ、小野塚くん、こんばんは。こんな遅くまで、お疲れ様です」

「!こんばんは。まあいつものことですよ、ハハハ。葵さんは…ゴミ捨てですか?」

彼女の両手に握られた大きなゴミ袋を見て問う。

「ええ。私も帰りが遅くて」

葵さんは少し困ったように笑って、そう答える。

この可憐な美女は、隣の部屋に住む野中葵さん。その美しい容姿と親切な言動に俺は密かに恋心を抱いていた。

「えっと…お疲れのところ申し訳ないんですけど、ゴミ捨て付き合ってもらえませんか?やっぱり怖くなっちゃって」

「!も、もちろん構いませんよ!」

こんな夜遅くに女性が1人で外を出歩くのは物騒だと思っていたのと、単に好意を寄せる相手の役に立ちたい気持ちがあり、葵さんの言葉に大きく頷いた。


「俺一人で平気だったのに。逆に付き合わせたみたいで…」

「全然大丈夫です、助かりました。それに、私が小野塚くんと一緒にいたかっただけだし」

「え」

「本当にありがとうございました。ゆっくり休んでくださいね、おやすみなさい」

ワタシガイッショニイタカッタダケ…?

その言葉に思考の止まってしまった俺を余所に、葵さんはペコリとお辞儀をして自分の部屋へと帰っていった。

しばらくの間その場に立ち尽くしていたが、ふと我に帰り、部屋へと入った。

葵さんが俺なんかと一緒にいたかった?……いやいやいやそんな訳、お世辞というやつだろう、あれは。

深く考えるのは止めにして、いつものように惰性で夕食と風呂を済ませた。


そして、“彼女”の眠る寝室へと静かに向かう。どんなに遅くても疲れていても彼女の寝顔を見なければ、1日は終われない。寝室へと入りベッドの脇に座った。“彼女”の顔にかかっている髪に、そっと触れた。

「ん…あ、奏多、おかえんなさい」

「起こしちゃったか…ごめんな」

「ううん、何か作るね」

「いやそれより」

俺はベッドから起き上がろうとしていた彼女を元の場所へ押し倒した。

「ちょっとだけ…いいだろう?」

「もう、奏多ってば…」

頬を赤く染めた彼女の唇に俺のそれを重ね…


「いやぁ〜、今日も美人だなー陽羽ひいろは♡!」

そう言って彼女の体を丹念に、丁寧に磨く。机の上でポーズをとるフィギュアー少しウェーブのかかった長い髪を風になびかせ、セーラー服を着ているーの彼女を。

これだけは、やっておかないと寝られない。



「奏多、朝だよ♡早く起きて♡」

耳元でそう囁かれ、びっくりして飛び起きた。当然だが周りには誰もいない。

陽羽ちゃん…?そんな訳がない。だってあれは俺の妄…いや、想像なんだから…。

夢を見てたんだ、と自分に言い聞かせ心を落ち着かせた。目覚まし時計をセットしている時刻まで数分あったが、二度寝したい衝動を抑えいつものように支度をしようとベッドから下りた。

その直後


   カラッカラン


キッチンから何かが落ちた音が聞こえた。

「な、なんだ」

泥棒…?いや、陽羽を愛でた後、戸締りはしっかりしたはずだ。

……ただ単に物が落ちるなんて良くあることじゃないか奏多……よ、よし!い、行くぞっ…

そう思って俺はそろりと寝室を出る。扉を挟んですぐのキッチンを恐る恐る進んでいく。

と、そこに誰かがいた。薄暗い中で辺りを物色している。

!?な!だ、誰だ!と、とにかく通報しないと!

手に持っているケータイを…ってあれ今までこの手の中に…

何かあった時のために握りしめていたケータイが何故かその手の中に無かったのだ。

「この家何もないね。オレお腹ペコペコなんですけどー」

そんな言葉と同時に部屋が明るくなった。瞬時に壁のスイッチに目をやる。そこには俺のケータイを弄ぶ、えらくスタイルの良い美少年がいた。

「それは俺の…ってか誰だ、お前!」

「まあまあ。そんなことより早くご飯作ってよ。奏多だってのんびりしてるヒマないでしょ?」

「何言ってんだ!おいそこを動くなよ!今から警察」


   バギッ


嫌な音がして、机の上に粉々のものが撒かれた。

「大人しくオレの言うこと聞いてりゃいいんだよ、おっさん。…ね、だから早く作って☆」


何が起きたのか思考が追い付かず、ただ茫然と粉々に砕かれたケータイを見つめるしかなかった。

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