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それはそれは

マイペースに書いてるので遅かったらすいません。

俺たちはペコラに教えられた通り、通りを左に曲がり、月明かりに照らされた石畳を踏みしめながら歩き出した。


日が沈み、城下町の空には無数の光る石が浮かび、街灯代わりにぼんやりとあたりを照らしている。見上げると、まるで星屑が落ちてきたようだった。


「……異世界って、思ったよりちゃんと文明あるんだな」


カイが感心したように呟く。


「ファンタジーって言葉だけで、もっとこう、原始的なもの想像してたよね」


白も、どこかほっとした表情で言った。


しばらく進むと、宿「銀」の看板が見えた。銀細工のような細い文字で、美しく『銀』と彫られている。


「ここか」


重厚な木の扉を押し開けると、カラン、と小さな鈴の音が鳴った。


中はこぢんまりとしているが、清潔感があり、暖かな灯りが室内を包んでいた。


「いらっしゃい」


穏やかな声が響く――だが、その声とあまりにも不釣り合いな存在がそこにいた。


オシャレで落ち着いた空間にそぐわない、圧倒的巨躯のスキンヘッド女将(?)が、カウンターの奥に仁王立ちしていた。


「ぺ、ペコラの紹介で来たんですけど、お、女将さん……で合ってますでしょうかです?」


あまりの迫力にカイの口調が迷子になる。


「あらぁ、ペコラちゃんの紹介ね。私は体は男だけど、心は女将よ」


(((おかまの間違いでは)))


長年一緒にいるが、ここまで三人の心の声が一致したことはなかった。


「そ、それは失礼しました。部屋を借りたいんですけど……」


天井に届きそうな身長。耳から首が生えてるんじゃないかってレベルの首の太さ。

失言すれば殺されるか、最悪、貞操の危機まである。


「そんなに畏まらなくても、とって食べたりしないわよ。うふふ」


女将(?)は長いまつ毛をバシバシとさせてウインクした。


「お部屋は三人一緒でいいの?」


「そ、それでお願いします」


卒倒しそうになるのを我慢しながら答える。……一人になったら命が危ない気がする。そこはかとなく。


「じゃあ、十日分で抑えておくわね。はい、これ部屋の鍵」


意外なほど手際がよく、業務はテキパキしている。


「あの、代金は……」


俺たちはまだこの世界の貨幣を持っていない。


「え、ペコラちゃんの紹介ってことは異世界から来た子たちでしょ? お金は目処がついてからでいいわよ」


女将――見た目以外はすごくいい人だった。


「じゃ、ごゆっくり~」


俺たちは部屋へと向かった。






部屋には三人分のベッドとクローゼット、それに簡易的な設備が小綺麗に整えられていた。


「ペコラちゃん、ちゃんとした場所を紹介してくれたみたいだな」


 カイは猫耳を思い出すかのように、空中で手をワシワシと動かしながら言った。


「……女将さんを除けばな」


 あの女将さん、絶対にただ者じゃない。誰が見ても分かるだろう。


「でも、人当たりは良かったよね」


 白は「ちょっと怖かったけど」と小さくつけ加えた。


「それにしても、いろんなことがあった一日だったなぁ」


 カイがぽつりとつぶやく。


「そうだな。こうして三人で寝るのも昨日ぶりなのに、ずいぶん昔のことのように感じる」


 俺たちは幼い頃に両親を亡くし、施設で出会って以来、共に育ってきた。もはや、血は繋がっていなくても家族のような存在だ。


「本当だね……異世界に来たんだね」


「…………」


「なんで俺たちなんだろうな」


 カイがふと漏らした疑問。


 確かに、あの時教室には他にも生徒がいた。その中から、なぜか転移したのは、俺たち三人だけだった。


 ランダムな選択だとするには、偶然とは思えない偏りだ。――何かの意図を感じる。


「……親がいない子だけが狙われた、とか?」


 白が、ぽつりとつぶやく。


 親がいない――もしかして、親が行方不明の子どもだけが転移したのではないか。


 いや、それ以上に――親が異世界転移を経験していて、俺たちも“それ”を引き継いでしまった可能性はないか?


「突拍子もない話だ。聞き流してくれて構わない」


 思いついた仮説を、俺はどうしても口にせずにはいられなかった。


「言ってみろよ」


 カイは神妙な面持ちで、続きを促す。


「……父さんたちは、この世界に転移してしまったんじゃないか?」


一瞬、部屋の空気が止まったような静寂が流れる。


 カイが目を細めて俺を見る。白は手をぎゅっと握ったまま、何かを言いかけて飲み込んでいた。


「……転移って、遺伝するもんなのか?」


 カイが小声で問いかける。信じがたい話だが、頭のどこかで納得してしまいそうになる。


「分からない。でも、親がどこに消えたのかずっと分からなかった。警察も、施設の職員も、何も掴めなかった」


「僕の両親もだよ。事故でも事件でもないのに、突然いなくなって、それっきりだった」


 白が静かに言った。


「まさか、異世界転移なんて……。でも、それなら説明がつくこともある」


「もし本当にそうなら……この世界のどこかに、俺たちの親が生きている可能性があるってことか」


 胸の奥に灯る、希望とも不安ともつかない熱がゆっくりと広がる。


 会える保証なんてどこにもない。けれど、この世界で生きていく理由が、今ここに一つ加わった。


「……見つけようぜ、空。もし本当にここにいるなら、俺は会いたい」


「俺も、だ」


 白も強く頷いた。


 静かな決意が、三人の間に共有される。


 異世界に放り出された理由はまだ分からない。


 けれど、ここに来た意味を、自分たちの手で見つけてやる――そんな思いが、夜の静けさの中で確かに結ばれた。


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