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ゲロムスの遺児(新版・改訂前)  作者: 粟沿曼珠
第三章 白熱の冷海
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第五十四話 集う戦士達

 手をついて立ち上がるポン、そして激流に乗って落下し、着地するミーリィ。彼女は嬉々として彼へと駆け寄る。

「ポン君! ありがとう! でも、どうやってここに?」

「……ダスの水が見えた。それで開いた穴から入ってきた」

 荒い呼吸混じりにポンは言った。

 魔獣と戦っている時にダスが生み出した、激流の柱。それが信号となってポン、ひいてはファレオの面々を呼び寄せた。

「……氷壁隊の魔腑かァ? 成程、流石に分離できないか」

 ——だったら、魔粒を全部使わせればいい。

 ロインは光の翼でダスを掴んだまま二人へ跳躍し——

 銃声が響いた。

「ッ!?」

 ロインは咄嗟にダスを放り投げて光の翼を広げ、自身を包むようにして守る。降り注いでくる銃撃を弾き、止んだところで上方を睨む。

「……誰だァ?」

 落ちてきた穴の縁に数人の銃を構えた人が見えた。

 ——ダス君、ミーリィちゃん、ナラだよ。

 ナラは自身の魔術でダスとミーリィの脳内に語りかけた。

「え!? ナラさん!?」

 ミーリィは咄嗟に上を見遣る——弾丸を装填し終えたナラが手を振って反応した。彼女の周りには、同じく銃を構えたファレオの仲間達がいる。

「多対一か……まあでも、コイツらならオレ一人でいけるか」

 ロインは舌打ちを零したが、周囲を見回してにやりと笑い、自信と殺意に満ちた声で言った。光の翼を広げ、紐の剣を握り——

 どどどどど、という音が上方から聞こえてきた。次第に大きくなっていくその音に彼は上を見遣り——

「おっらあああぁぁぁ————————ッッッ!!!」

 雷霆の如き一撃が、ロインを急襲した。直撃すると共に爆発が起こり、激しい衝撃がこの空間を震わせる。爆発と共に生じた煙が段々と晴れていき、そこに現れた者の姿が露わになる。

「……テメーか。厄介なのが来た……」

 攻撃した者をロインは睨んでいる。光の翼を折り畳んで重厚な盾とし、また冷や汗が額を伝う。あのロインにそうさせる者は——

「ま、あんたを殺すのがワタシの役目みたいなもんだしな、ロイン」

 ——オッディーガ・ミッシャー、ロインと並んでゴーノクル最上位の実力を持つ傭兵であり、ダスの師匠である女性。

 彼女は受け止められた巨槍の穂先を爆発させるようにして巨槍を抜き、床に着地する。睨んでくるロインに、彼女はにやりと笑って挑発する。

「やるか? 最強さんよぉ。正直きつくないか?」

「……は」

 そう言ってロインは笑いだした。一瞬苛立ちを覚えたが、そんなものは彼の本懐に一瞬にして打ち消された。

 ——人数差? 実力者揃い? そんなこたァどうでもいい。

「はははははッ! いいぜェ! 最強ならこのくらい乗り越えないとなァッ!」

 光の翼をばさっと広げ、紐の剣を握り、己を奮い立たせるように咆哮する。悪意、殺意の塊でありながら神々しさと力強さを感じさせる威容に皆が身構え——

 ——ロイン。私だ、()()()()だ。

「——ヴィラス?」

 新ダプナル帝国皇帝にして、ヘローク教団ネドラ派魔皇であるヴィラス・ノルバット。彼がロインの脳に語りかけてきた。

 戦意と殺意に満ちた笑顔だった彼の表情が、一瞬で崩れた。苛立ち、歯痒さ——そういった感情が湧き上がり、舌打ちを零す。

「……やめだ。また別の機会に殺すとしよう」

 そう言うと彼は屈み、全力で跳躍する姿勢を取る。

「ッ! 待て、ロインッ!」

 ダスが叫び、激流に乗って襲い掛かる——が、

「安心しろ、次こそはテメーを殺してやる」

 嗤いながらも、どこか名残惜しそうな表情のロインは、それだけ言って跳躍した。光の翼による加速が合わさって、一瞬のうちにこの地下深くから脱出した。

「……クソッ、逃げられたか」

 ダスは舌打ちを零し、苛立ちの表情で言った。そんな彼のもとにオッディーガが寄ってくる。

「本当、ようやく殺せると思ったのになー」

 彼女はある理由から、ずっとロインを追い、殺そうとしている。彼女はそれを己の願いだと、責務だと感じているのだ。

「……ヴィラスって言ったな、あいつ。帝国お抱えの兵士……面倒だな」

 彼女は眉間に皺を寄せた。帝国はカロン・ファンや『屍騎士団』ヴァーランド・ピークといった実力者を擁している。それらを敵に回してしまうことに加え、戦争が起きたら彼によって大きな損害が発生してしまう。

「ああ……って、そういえば、上の魔獣はどうなった?」

 ふと思い出し、ダスは彼女に問い掛ける。

「それなら大丈夫。私達がやっといたよ」

 彼女の代わりに答えたのは、穴の縁から降りてきたナラだった。

「うちの子達皆駆けつけてくれたからねー、余裕余裕。それと、ポン君を連れてきて正解だったよ。行きたいって言うから最初は躊躇ったんだけどね」

「そうなのか?」

 ダスはポンの方を向いて問い掛ける。

「あ……うん、まあ……」

 どこか照れ臭そうな表情で彼は答えた。そんな彼に近づき、ダスは言う。

「そうか……ありがとう」

「お、おう……何か、変な気分だな」

 悪い気はしないものの、面映ゆい気分なポンであった。

「ポンく————————ん……!」

 そんな彼に、ミーリィが抱きついてきた。

「おい! やめろ!」

「ほんとありがとうぅ————……もう駄目かとぉ……」

 彼女は泣きながら安堵の表情で言った。ポンは彼女の腕を外そうと、当ててくる顔を遠ざけようとするが、子供の膂力ではどうにもならず、魔術で膂力を強化してやっと話すことができた。

「クソッ、子供だからって抱きつきやがって……!」

 いぢけたポンは集まった人々から離れ、瓦礫に腰掛けた。苦笑してポンを眺めるダスに、ナラは近づいて言う。

「私達は調べることがあるから残るけど、ダス君達は頑張ったし、戻って休んで。それと、オッディーガさんも」

「あー……分かった。そうさせてもらう」

 彼は仇との突然の再会と激突に、肉体的にも精神的にも疲れていた。オッディーガを見て彼は言う。

「行くぞ」

「いや、ワタシは残る。何あるか分かんないし……ああ、見られるとヤバいもんだったら戻るがな」

「あ、いえ、問題無いです。寧ろ助かります」

「分かった。んじゃ、早速行くか。じゃあな、ダス。後で会おう」

「はい、オッディーガさん! ダス君、ミーリィちゃん、ポン君、お疲れ様!」

 そう言ってナラは歩き出し、ファレオの仲間達とオッディーガは彼女についていった。それを見届け、ダスはミーリィとポンへと歩み寄る。

「ミーリィ、ポン……お疲れ、そして、ありがとう。まあ、殺すことはできなかったがな」

 二人への感謝と、ここでロインを殺せなかったことへの自嘲が込められた微笑みで、彼は言った。それを聞いてミーリィもにこりと笑い、ポンも微笑んだ。

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