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ゲロムスの遺児(新版・改訂前)  作者: 粟沿曼珠
第三章 白熱の冷海
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第五十話 あの男

 目が覚めると、あの灰色の世界にいることに気づく。ミーリィは横たわった体を起こして周囲を見回し——しかし、自分しかいなかった。

「シャール……?」

 彼女は彼の名を呼ぶ——が、返事は来ない。彼女はある考えが思い浮かんだ。

 ——わたしの体を乗っ取って、虐殺を……?

 そう考えると彼女の顔は青ざめ——


「——え?」

 突然世界が一変し、視界には暗い廊下が映った。そして自分が何故か走っているということに気づく。

「え? え? 何これ?」

 困惑して立ち止まり、彼女は周囲をきょろきょろと見回す。見たことも通ったことも無い廊下は、まるでずっと続いているようで、何かが現れるのではないかという恐怖も感じ——

 ——まあ、虐殺をしていないと言えば嘘になる。

 突然、脳内にシャールの声が響いた。

「え!? シャールッ!?」

 ——取り敢えず、向いている方に走れ。

「う、うん!」

 そう言って彼女は訳も分からず走り出す。

「っていうか、何でこうして喋れるのっ?」

 そのことに気づいたミーリィは、すぐ口にした。

 ——正直、魔術師の体のことなど、魔術師でもよく分からないのが実際だ。まあ、あくまで予想だが、先程まで私が貴様の体を動かしていたから、なのかもしれない。

「っそう! それっ! 動かして何したのっ!? それにどうして体を乗っ取ったのっ!?」

 疑念を感じさせる表情でミーリィは叫ぶ。

 ——まず、私達は嵌められた。

「えっ!? 嵌められたっ!?」

 驚愕と困惑の表情でミーリィは叫んだ。

 ——誰によって、というのは未だに分からない——が、ここにいた兵士の言い分を考慮するに、嵌められたと考えるのが妥当だ。しかし、ある程度の推察はつく。

「えっ!? 誰っ!?」

 ——それは——

 その時だった。シャールが先程見た時のように、壁が溶けるように崩れた。

「——ッ!?」

 そして中から、猛獣のように乱れた金髪の男が現れる。不意の来訪に、彼女は驚愕した——普通ならあり得ない場所から、あり得ない登場をした、ということに対してだけでは無い。

 その男に、見覚えがあったからでもある。

「終わりだァッ!」

 男は紐の剣を振るい——

 ——奴を凍て殺せ!

 シャールがミーリィの意識はそのままに、願った。辺りはすぐに極寒の冷気に包まれ——

「——ッ!?」

 それを肌で感じ、その攻撃の意味を理解した男は、咄嗟に床を向いて願う。すると床に穴が開き、男は落ちるように逃げていった。

 ——……察しが良いのは、流石と言うべきか。

「……シャール、あの人……」

 ——ああ。あの男だ。

 ミーリィは勿論、彼女の目を通してその存在をシャールも認知している。その男はゴーノクル全土で——主に悪い意味で——有名で、知らない人は殆どおらず、多くの人がその名を聞いて戦慄する。そして——

「早くダスさんのところに行かないと……!」

 ——ダスの仇である。

 焦った表情のミーリィは、再び駆け出した。

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