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ゲロムスの遺児(新版・改訂前)  作者: 粟沿曼珠
第三章 白熱の冷海
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第四十六話 ファレオの仲間

 セミアと別れた後、三人はある理由からクァヴァス内の宿を巡っていた。ある宿に入っては出て、入っては出てを繰り返し——六軒目。

「おう、らっしゃい」

 どこか機嫌の良さそうな、髭を蓄えた主人が言う。

「ダス・ルーゲウスだ、ファレオ所属の。クァヴァスに俺達以外のファレオが来ていると思うんだが、ここにいるか?」

「おおっ! 昨日のか! ファレオの奴ならここにいるぞ! そいつら、アンタの名前聞いたらすぐに宿から出ていってよ!」

 主人は豪快に笑って言った。

「そいつらに用があってな……部屋を教えてもらってもいいか?」

「おう! 奥から二番目の部屋だ!」

「分かった。ありがとう」

 そう言ってダスは廊下へと向かい、ミーリィとポンはそれについていく。部屋の前に着き、扉を叩いて中にいる人を呼ぶ。

「……ふぁ~い……」

 気の抜けた声が扉の向こうからし、少し経つと扉が開かれた。

「なんですか……」

 彼女は重い瞼を何とか開け、目の前にいる三人を視界に入れ——

「……って、ダス君じゃない! それにミーリィちゃんと……え? ミーリィちゃん子供産んだの?」

 驚いて瞼が一気に開いた彼女が、三人をそれぞれを見て言った。

「ち、違いますっ! っていうか、ナラさん来てたんですね!」

 顔を紅潮させて焦ったミーリィが咄嗟に叫んだ。

 彼女はナラ・レッケン——身長が低めな茶髪のファレオの女性であり、ミーリィとダスの先輩にあたる。

「あら、違った。えぇとねぇ、ほら、クァヴァスって奴隷や魔腑の売買が行われているって近年噂になっているじゃない? それの調査——なんだけど、未だに尻尾を掴めていないのよねぇ」

 何年か前に、ゴーノクル全土で奴隷や魔腑の取引が行われている、という噂が流れた。その場所の一つと目されているのが、ここクァヴァスである。

 またクァヴァスには人攫いの噂もあり、それが奴隷市場に繋がっているのではないか、というのがファレオの見立てである。

 ファレオはクァヴァスに——否、クァヴァスだけでなく奴隷や魔腑の売買の噂がある街に定期的に団員を向かわせ、調査させている——のだが、どの街でも未だに「見つけた」という報告が無い。

「本当、ファレオって不便よねぇ……昔みたいに帝国直属の組織だったら、特権やら何やらで家とかに簡単に入れたんだろうけど、どこにも属さない自警団だからそんな権利も無いし、協力してもらおうにも民間人からしたらよく分かんない組織だしねぇ」

 溜息を吐いてナラは不満を零した。実際、ファレオは民間人からすれば『魔術濫用を取り締まる組織』であるが、同時に『本部の場所も分からない、支部を持たずにゴーノクル各地を転々として活動する、正体不明の組織』という側面も強く、故に協力の要請が断られたり、「なんか怖い」と恐れられたりしている。

「それで、どうしたの?」

 疑問の表情のナラに、ダスは答える。

「市長秘書のセミアが言うには、市長のヨンドが帝国に金を献上して何かをしているらしい。彼女の見立てでは今日取引があるらしいから、そこで市長を捕まえてくれ、と言われた」

「帝国、ねぇ……大丈夫? 今追われているんでしょ?」

 セミアは不安そうな表情でそう言った。

「だからだ。クァヴァス南東の森に行くんだが、そこで何かあったら水の柱で合図を送る。そしたら支援に来てくれ」

「あ、そういうこと。ちょっと待ってねー」

 そう言うと彼女は黙り、目を閉じた。その状態が少し続き、目を開ける。

「……うん、報告完了。クァヴァスに来ている子達全員は回せないかもだけど、それでも大多数は来てくれると思うよ」

 セミアの奇跡魔術は、自分の思考を相手に飛ばすことである。自分の想像した人にだけ飛ばすこともできれば、自分の周囲にいる人に無差別的に飛ばすこともできる。

「分かった、ありがとう……それと、」

 彼女に感謝の言葉を述べると、ダスはポンの方を向いて彼に尋ねる。

「ポン、お前はどうする? 来るか?」

 そう尋ねられ、ポンの心臓は強く鼓動を打った。そして思い出す——エトロンでの、魔獣『ボスカルの獣』との戦い。獣の攻撃で体が消し飛び、激痛に襲われた、あの瞬間。

 それを思い出し、彼は苦しそうな顔で黙って俯いた。彼の心中を察し、

「……ナラ、ポンを預かってもらえないか?」

 彼女の方を向いてダスはそう言った。

「うん、任せて」

 それに彼女はにこやかに応じた。そんな彼女をポンは見て、少し怯えたような表情をする。

「大丈夫だよ、ポン君。ナラさんはファレオの中でも特に優しい人だから」

「む、知らない人が怖いと見た。安心して大丈夫だからねぇ、ミーリィちゃんとは違って男の子を眺めるような真似はしないから」

「あ、あはは……」

 怯えているようなポンを宥めたミーリィであったが、ナラの言葉を受けてそっぽを向いて苦笑いした。自分の行為が知られている——というのは何となく察していたが、その行為が暗に「男児から恐れられている」と言われたような気がしたからである。

「それじゃあ、ポンを頼む。俺達はもう行く」

「うん、頑張ってきてね、ダス君も、ミーリィちゃんも」

 そう言ったダスに、ナラは微笑んで言った。

「はい! 行ってきます! 終わったらすぐ戻ってくるからね、ポン君!」

「……ああ、頑張れよ」

 にこやかに言うミーリィに、ポンは申し訳なさそうな表情で応えた。そして

ミーリィとダスの二人は踵を返し、宿から出ていった。

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