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ゲロムスの遺児(新版・改訂前)  作者: 粟沿曼珠
第三章 白熱の冷海
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第三十九話 騒がしき男

 宿に荷物を置いて三人は商店街へと向かう。そこで首巻きと耳の隠れる帽子を買い、すぐに身につける。直に冷気を感じる面が減り、温かくはならずとも先程よりはましになる。

「ふう、ようやくまともに街を歩ける……ダスさん、これからどうします?」

 ミーリィがダスに問い掛けると、彼は「うーん」と唸ってから、

「まあ、特にやることも無いしな……自由行動でいい——」

「了解です! では!」

 ダスが言い終わったとほぼ同時に彼女は返事し、そそくさと立ち去った。その様子をポンは訝る。

「……あいつ、何するの?」

「少年観察、と言ったところか」

「うわ……」

 突然告げられた彼女の生態に困惑の声を零す。自分もそういう目で見られているのではないかと考えると、思わず気持ち悪さがこみ上げてくるのであった。


 彼女は周囲をきょろきょろとしながら早足で歩く。石畳の街路は雪で覆われ、さくさく、と踏む度に小気味良い音が鳴る。

 ——どこかに可愛い男の子は——

「ちょっと、そこの君!」

 少年を探していると、突然後ろから声を掛けられた。振り返ると、金髪で煌びやかな服に身を包んだ、かっこつけた男がいた。

「あの、何か——」

 そう言葉を紡ぎ——その途中で、男はぐっと距離を詰め、その顔を彼女に近づける。思わず彼女は腰を曲げて距離を取る。

「遠くから君を見つけた時、僕は君に惚れてしまってね——これから、食事でもどうだい?」

 ——ッ!?

 その姿に、その発言に、彼女は過去のある出来事を思い出す。途端に彼女の呼吸は荒くなり、冷えた肌に汗が流れる。

「あ、いや、その、結構で——」

「ん? どうしたんだい? 体調が悪いのかい? それとも僕に惚れたのかな?」

 男は顔をぐい、と寄せ——彼女は距離を取ろうとするも、落ちるように尻から転倒してしまった。

「本当に大丈夫かい? 医者に診てもらった方が良いんじゃないかな?」

「あの、本当に、ごめんなさい、やめて——」

 男の手が彼女へと伸びていく。狼狽し、腰を抜かしてしまった彼女は抵抗もできず、恐怖に満ちた顔の目を閉じ——

「おい」

 巨槍の穂先が、彼の横顔に向けられる。ミーリィは目を開け、声の方を見遣る——そこには、怒りの形相のダスがいた。彼の側にいたポンが彼女へと駆け寄り、すぐさま彼女を守るように障壁を展開する。

 その突然の状況に、男は苦笑いする。

「や、やだなぁ……僕はこの子を食事に誘っただけで——」

「俺の連れに、何するんだ」

 ダスは男を睨んで吐き捨てた。

「…………そうか」

 怯んだ男だったが、何かに気づいたようにそう零す。

「君は嫉妬しているんだな!? 僕に!」

「……………………は?」

 長い沈黙の後、ダスは思わず困惑の声を零した。ミーリィとポンも、声に出さないが内心困惑している。

「僕が強くて格好良いから嫉妬してるんだ! そんな僕に彼女を取られまいと、こうして格好良いところを見せて独占しようとしてるんだ! そうに違いない!」

「うわこいつ自分で自分を強くて格好良いって言った」

 男の叫びに、ポンは呆れて思わず突っ込んでしまう。

「だったら、君! 僕と勝負しろ! 闘技大会で決着をつけよう!」

 男はダスを指さして叫んだ。ダスは肩を竦めて嘆息し、

「ミーリィ、ポン、帰るぞ」

 そう言って彼女の元へ向かい、彼女は彼の肩を掴んで立ち上がる。

「ちょ、どこへ行く!? 僕と戦え!」

 三人は男の叫びを無視して進み——

「逃げるのか!? 臆病者め! 負けるのが怖いんだろ!? 僕に負けて恥を晒し、彼女を取られてしまうのが怖いんだろ!? この腰抜けが! その槍は飾りか!?」

 ——ダスの足が止まった。

「え、ダスさん……?」

 彼は彼女を優しく起き、男に詰め寄る——その顔は笑いながらも激しい怒りに包まれていた。

「……ここまで虚仮にされると、流石に黙ってられないな」

 その言葉に男は「ふ」と笑う。

「ようやくその気になったようだね……じゃあ、彼女を賭けて勝負だ!」

 そして二人は闘技場の方へと歩いていった——ミーリィとポンを置いて。

「…………あいつ、意外と子供っぽいな。エトロンの時も、今も」

「……エトロンの時もだけど、わたしもこんなダスさん初めて見たよ」

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