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ゲロムスの遺児(新版・改訂前)  作者: 粟沿曼珠
第二章 千変万化の魔獣
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第三十七話 幕間~殺しの意志と少女~

 作戦が終わり、宴を二度し——彼女は笑顔を見せていた。

 しかしその実、彼女は作戦での自分の行いに苦悶していた——シャールを呼ぶべきだったのか、どうして殺意を抱いてしまったのか、他に方法は無かったのか、彼を受け入れるべきなのか——

「昨日ぶりだな、ミーリィ」

 ——だからこそ、シャールが夢の中に現れたのだろう。今回は以前彼と会った場所では無く、暗闇に包まれたメロートルの中であった。

「……………………何でいるの?」

「夢とは思い、願いの発露であり、故にこそ願いの化身たる私も姿を現した——などと、たった今それらしい理由を考えてみた。どうだ?」

「うーん……まあ、言われてみれば、そうかも……? とはなるね」

 それを聞くと、彼は嬉しそうに微笑む。

「……もしかして、暇?」

「当然」

 彼はきっぱりと答えた。

「そもそも私は何千年も魔腑に閉じ込められて、死のうにも死ねず、永遠と思えるような苦しみを味わってきたのだ。それでようやく貴様の腕に宿り、こうして貴様と話せるようにもなった。故に、今まで暇だった分、全力で暇潰しをするのだ」

 子供っぽい理由と言動に、思わず彼女は噴き出す。

「意外と子供っぽいんだね」

「まあ、今回出てきた理由はそれでは無いがな」

 先程の柔和な雰囲気が一瞬で消え、緊張が彼女を包む。彼女の顔からも、すぐに微笑みが消えた。

「イギティ——昨日のあの女の言葉、覚えているか? 一歩一歩、着実に強くなろう——だったか?」

「……そうね」

 シャールは暫し沈黙し、そして諭すように言う。

「……貴様も、一歩一歩、だな」

「……え?」

 その言葉の意味が理解できず、彼女は困惑の声を零す。

「どういうこと……?」

「一歩一歩、ありもしない罪から解き放たれていけ、一歩一歩、殺すべき敵を殺せるようになれ、といったところだ」

 その言葉に、彼女は強い語気で反応してしまう。

「だから、私は——!」

「これは、貴様の精神と、貴様がファレオで生きていく為だ」

 彼女の言葉を遮るように、彼は言った。

「ファレオの先輩として、言わせて貰う——殺しを躊躇えば、真に守るべき存在を失ってしまう。そして誰かを守る立場の人間がその過ちを犯してしまえば、その悲しみは広がっていく」

 彼は彼女へと近づいていき、彼女のすぐ目の前に立つ。

「いいか、誰も犠牲にならない、誰も死なない、なんて綺麗な世界は無い——この世界は穢れきっていて、故にこそ、手段を選ばない必要が出てくる」

 そして振り返り、彼女から遠ざかっていく。

「今のうちに、一歩一歩学んでいけ——()()に相対した時、嫌でもそれを理解するだろうからな」

 彼は彼女の方を向かずに、そう締めた。そして彼は闇へと歩を進め——

「シャール」

 黙っていたミーリィが、彼に声を掛けた。

「正直、まだ受け入れ難いけど——それでも、ありがとう。貴方なりにわたしのことを思ってくれて」

 ——確かに、()()に相対した時、わたしは今のわたしではいられないかもしれない。

 誰も苦しまない世界があるはず。彼女はまだそれを信じている。しかし今の彼の言葉は、今までの彼のどの言葉より彼女の腑に落ちたのだ。

 彼女の言葉を聞いたシャールは、振り返らずに微笑んで闇の中へと消えていった。

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