第三十六話 獣を討ち、三人は進む
宴の余韻が残る次の日の朝、三人はマートとイギティと共に駅へと向かう。ダスが持つ革の鞄の中には多額の報酬金が入っており、三人の背嚢には沢山の食料が入っている。
「君達には本当に世話になった。正直これでも足りないくらいだが……」
「いや、常時資金不足で、食事は最低限度しか取れない身分としては非常にありがたい」
「……ファレオの暮らしは厳しいって聞いてたけど、本当のようね……」
イギティのその言葉に、ミーリィは苦笑いする。
「でも、それでもわたし達がやりたいことですから、心配には及びません! まあ正直お金も食べ物も欲しいのは否定しませんが……」
「そうか……君達は、強いんだな」
駅の入り口の前に着くと、マートとイギティは足を止める。それを受け、三人も足を止めて彼の方を見る。
「列車が出るまで見送りたかったが、色々仕事があるのでな、申し訳ないがここでお別れとさせてもらう」
「私も、宿の仕事があるから」
マートとイギティの二人は、三人をじっと見つめる。そしてマートが言う。
「君達のやりたいこと、成し遂げたい願い——それはきっと叶うだろう。君達の旅路に、祝福があらんことを。そして、君達の願いの成就を、切に願っている」
マートは晴れやかな表情で言った。
「次ここに来た時は、沢山ご馳走してあげるからね! 宿にも無料で泊めてあげる!」
彼に続いてイギティも微笑んで言った。
三人も微笑んでそれに応え、駅の中へと入っていった。
駅の中は足止めを食らっていた人達でごった返していたが、入り口を入ってすぐの所で待っていた駅員に案内され、三人はすぐに列車へと行き着いた。
「これがヴァザン地方行きの列車です」
「ありがとうございます! さあダスさん、ポン君! 入りましょう!」
ミーリィはそわそわしているが、それはこの列車の車両に原因がある。
三人が列車の中に入る——その一つの車両全体が豪奢な宿のような様相を呈している。派手で煌びやかな内装に、ふかふかな布団が掛けられた大きな寝台、目の前で料理してすぐに提供する為の台所——普通なら味わえないような贅沢な暮らしが、そこにはあった。
これもマートの計らいの一つで、折角なら一番良い車両に乗ってもらいたかった、とのことである。
「いやー、こういう所で一度暮らしてみたかったんですよー!」
ミーリィだけが興奮している——という訳では無く、ダスもポンも表にはあまり出していないだけで、内心興奮しているのであった。三人は豪奢な車両の中を徘徊し——
「皆さーん。そろそろ出ますよー」
駅員が扉の向こうから現れ、三人に告げる。
「あ、はーい! ——取り敢えず座って、またお祝いでもします?」
微笑んでミーリィは言った。
「そうだな」
ダスも微笑んでそう言い、ふかふかの長い椅子に座っているミーリィの横に腰掛ける。ポンも彼についていき、彼の隣に座る。
少し待つと、列車はゆっくりと動き出した。段々速くなっていき、列車は煙を上げながら緑の大地を疾走していった。
ミーリィ達はマートから貰った飲み物と食べ物で、三人だけのささやかな宴を開くのであった。