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ゲロムスの遺児(新版・改訂前)  作者: 粟沿曼珠
第二章 千変万化の魔獣
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第三十二話 決戦

「ダスッ! メロートルはすぐそこっ!」

 ポンの叫び声が、ボスカルの獣とそれが生み出した鳥の獣達と交戦するダスに届く。

「了解ッ!」

 ダスは戦闘を止めて激流を生み出し、己をそれに呑み込ませる。ダスはそのまま進み、氷の板に乗って進むミーリィを掴んで引き上げる。

「ダスさん!?」

「これの方が速い」

 激流に乗った二人はすぐにポンに追いつき、彼が座っている氷の床へと着地する。さらに激流を加速させ、メロートルとの距離を詰める。

 それを認識した獣は鳥の獣達を集めて一体化し、さらに体を蠢かせて形を変え、己の姿を翼の付いた巨槍のような形に変える。

「ダスさんあの獣凄い速さで迫ってきます!」

 ミーリィにそう言われ、ダスは激流をより加速させる——が、その距離はじりじりと詰められていく。

 メロートルへと入る門が、三人に迫ってくる。また、後方からボスカルの獣が迫ってくる。

「門の目の前に来たら、急上昇する! 奴はポンを狙っているだろうから、奴の気は俺とポンで引くから、お前は上昇中に飛び降りろ!」

「了解です!」

 ダスは氷の床から三本の水の柱を発生させ、ミーリィはそれを凍らせる。先端が枝分かれしたそれらは、急上昇中に吹き飛ばされないようにする為のものである。

 三人はどんどん門へと進んでいき、目前に聳え立ち——

「捕まれッ!」

 ダスが激流を急上昇させる。その勢いに吹き飛ばされそうになりながらも、三人は氷の棒をしっかり握って堪える。

 ボスカルの獣は街を破壊しながら突っ込んでいき、何とか踏ん張ってその勢いを消して空高く飛ぶ激流を見遣る。獣はその大きな翼をばさっと掲げると、そこから鳥の獣達を生み出し、それを伴って飛翔する。

 急速に迫ってくるそれを後目で捉えたダスは、

「ミーリィ! 行けッ!」

 激流から枝分かれするように別の激流を生み出す。

「はいっ!」

 彼女は手を離し、それに飛び込む。その姿を認めた獣達は、数十体の鳥の獣達に彼女を追わせ、ボスカルの獣はダスとポンを追う。

 激流は水神エヴリアの祭壇へと落ちていく。激流の中で彼女は振り返り、後ろに数十体の鳥の獣達がいるのを認める。

 そして、願う。

 ——()()()()()()()()()()——

「——まさか、今日また呼び出されるとはな」

 ミーリィ——否、()()()()はにやりと笑う。鳥の獣達をその視界に捉え——

「任せろ、ミーリィ。貴様の望む通り——鏖にしてやる」

 激流から飛び出したシャールは冷気を願い——一帯が、極寒の冷気に包まれる。一瞬にして激流が凍り、鳥の獣達もひとつ残らず凍り、その体は落下して着地と同時に粉砕される。

 その光景が視界の端に映ったダスは、愕然とする。

 ——あれが、ミーリィの魔術の本来の力——

 そう考え、すぐに気を取り直す。シャールが水神エヴリアの祭壇の縁に着地したのを認めると、ダスはポンを掴む。

「いいか、ポン! 俺が投げたらすぐに障壁を展開しろ!」

「……分かった!」

 体の震えを抑え、彼は力強く返事をする。

 二人は街が小さく見える高さまで上昇し——そこでダスは激流を止め、二人は氷の板ごと投げ出される。

「ポン、後は俺とミーリィに任せろ!」

 そう言ってダスはポンを放り投げる。

「——おう!」

 投げられたポンはすぐに障壁を展開し——たまたま彼の真下に広がる大地が視界に映り、猛烈な恐怖心が湧き出てくる。

「うわあああああああああああああああああああああああっ!!!???」

 情けない叫びを上げながら、ポンは落下していった。

 そんな彼を、しかしボスカルの獣は追尾しない。獣は激流と共に急降下するダスを狙い、同様に急降下する。

 ——このまま落下すれば、作戦はほぼ確実に成功——だが、俺が死ぬかもしれない。


 時は少し戻る。

「メロートルにあった祭壇を使って、奴を凍らせて生命活動を止める——か。確かに、合理的だ」

 ミーリィの説明に、彼は好意的な反応を示す。

「問題は、どうやって引き付けるかです。あの水の中に突っ込ませるのは、一筋縄ではいかないかと」

「そうだな……奴を引き付けつつ空高く飛んで、そこから急降下して水の中に突っ込ませる——これならいけるんじゃないか? 俺が奴を引き付ける」

「そうですね——」

 そう言い、彼女は考えてしまう。その作戦の危険性を。

「……でも、ダスさんが危ないです、この作戦だと」

 ボスカルの獣に追いつかれ、或いは急降下を避けきれず、最悪の場合死ぬかもしれない——彼女はそう考えたのだ。

「俺は大丈夫だ。お前が凍らせ、俺が引き付けないと、この作戦は成功しないだろうしな」

「……分かりました」

 彼女はどこか暗い顔でそう応える。

 一方で、ダスもミーリィを心配していた。ウルスでの彼女と二人きりでした会話——彼女が彼に死んでほしくないということもあるが、それだけでは無い。

 彼女が提案した作戦だと、彼女は水だけでなく獣自体も凍らせる、とのことである。そしてその魔術の使い方が、()()()()()()()()()()()()()()()彼は理解していた。

「ミーリィ——大丈夫か?」


 急降下しつつ彼はそう考え——

 ——ダスさんに、死んでほしくないです。ずっと、生きていてほしいです。

 ふと、ミーリィの言葉が彼の脳裏を過った。そして彼は思わず失笑を零してしまう。

 ——俺は何を考えてるんだか。あいつの為にも、自分は強いのだと、自分は決して死なないのだと思っていないとな。

 そして彼は激流を加速させる。そして祭壇の中央部へと着地し、一瞬のうちに迫りくる獣を睨む——その巨体は、彼のすぐ上にまで迫り——

 獣は祭壇を破壊しながら堀の奥深くへと突っ込んでいく。水飛沫は天高く上がり、メロートルの街全体を濡らす。

「——私の出番か」

 雨のように降る水飛沫を一身に受けつつシャールは跳躍し、祭壇の堀へと手を伸ばす。

「冷気よ、その水を、その獣を凍らせ——そして殺せ」

 ボスカルの獣の巨体を余裕で収めてしまう程に深く掘られた堀の水、その全体が刹那のうちに凍る。その冷気は獣をも包み込む。

 シャールは氷の大地の上に着地し、じっとそれを見つめる——時間が経っても、氷の大地はぴくりともしない。

「……作戦成功、と見て良さそうだな」

 さて、と声を零してシャールはある場所へと歩いていく——とある崩れた家、そこに下半身と左腕が吹き飛ばされたダスがいた。彼は体と服を再生させている。

「あの獣が眼前に来た瞬間に水を生み出して脱出、か——先程の戦闘、この女の中でずっと見ていたが、貴様ほど魔術を上手く操る奴は、生粋の魔術師でもなかなかいない。流石だ、ダス・ルーゲウスよ」

 そう喋るシャールを、ダスが睨む。彼は作戦の成功を察したと同時に、その口調、その雰囲気がミーリィのものでは無いとも察した。

「……そういうことか。ミーリィ自身が殺す訳じゃないから、この作戦ができた、という訳か」

「ご明察。自己紹介が遅れたな。私はシャール・ウェイス——この女の、殺しの意志だ」

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