第二十二話 ミーリィ・ホルムの恋
「さて……」
空いている部屋に案内され、ミーリィとイギティの二人は相対するように座る。ダスとポンはこの部屋にはいない。終始にこやかなイギティに対し、ミーリィは状況が飲み込めず困惑している。
「えっと、どうしたんですか?」
「……うん、思い切って聞いちゃうね。ミーリィちゃん、ダスのこと好きでしょ?」
突然放たれたその言葉を一瞬のうちに何度も何度も頭の中で反芻し、理解した瞬間に彼女の頬は爆発したかのように紅潮する。
「え、え、え。な、とと突然何ですか? そそそそりゃ好きですよ! だってダスさんは大切な仲間で——」
「そういう友人、仲間に対する『好き』じゃなくて、恋愛的に『好き』かどうか」
その追撃で逃げ場を失い、ミーリィは萎れて白状する。
「……………………はい。でも……イギティさんには敵いっこないですよ……幼馴染ですもんね」
「…………ん? 私別にダスに恋してないけど」
顔を紅潮させたまま呆然とするミーリィを見て、にやけながらイギティは続ける。
「しかし、あのダスのことが好き、ねぇ……昔は大人しくて、私がいないとずっと一人でいて、誰にも興味を持っていないような感じだったけど、どこに惚れたの?」
「ダスさんは……子供の頃に身寄りの無かったわたしを拾ってくれたんです。そこから今までずっと育ててくれて、わたしが大変な時や辛い時は助けてくれたり、手伝ってくれたりして……それで、好きになった、と言いますか……」
それを聞いたイギティは、かつてのダスとの違いに驚く。
「へぇ、あのダスが! ファレオにいることも驚きだったけど、そんなことまでしているとは……さっき話した時は言ってなかったんだけどなぁ」
そう言って彼女は目を閉じて何かを考え、そして目と口を開く。
「…………きっと、あの日なんでしょうね、そのきっかけは」
「あの日……あの戦役ですか?」
ミーリィは疑問の声に、イギティは答える。
「そうね。ブライグシャ戦役……あの時、私とダスは家族や友人、故郷の仲間達さえも失った」
彼女の脳裏にあの日の光景が浮かび、彼女の目が涙で潤う。
「私も、ダスも、目の前であの魔物に……ロイン・ヒューに皆が切り裂かれて、首が落とされるのを見て……!」
悲惨なことがあった、とはダスから聞いていたものの、自身が聞いていた以上の悲惨さに、ミーリィは愕然として声が出なかった。
「……それで、生き残ったのは私とダスだけ。あの魔物がいなくなった後、私は一人で逃げたけど、ダスは誰かに拾ってもらったみたい。きっと、その経験が、彼にそうさせたんでしょうね」
涙を拭い、少し黙って落ち着いてからイギティは続ける。
「……あの出来事は、悲惨すぎる出来事だった。だけど、それを経て今のダスになったって考えると、不幸中の幸いだなって。他人に興味の無かったダスが、誰かを助ける仕事に就いて、ミーリィちゃんを育てたんだもの。幼馴染としては、嬉しい話かな」
感慨深げに瞼を閉じて彼女は微笑む。
「しかし意外ですね。あの優しいダスさんが、大人しくて他人に興味が無い……」
「ん、ああ、どうやってダスに振り向いてもらうかって?」
その言葉に頬を紅潮させたままのミーリィは咄嗟にイギティの方を向く。
「別に特別なことはいらないよ。今まできっとそうしていたように、ダスに話しかけたり、一緒に何かをしたりすればいいだけ。私もそうやってダスと仲良くなったの。誰かを追うことは多分無いけど、来る者は拒まないからね。もしかしたらもう惚れているかも!?」
「流石に惚れてはいないと思いますが……とにかく、ありがとうございます」
ミーリィは苦笑いしつつ感謝の言葉を述べる。
「いいのいいの! さて、それじゃあやることは一つね!」
「え? やること?」
呆然とするミーリィに、イギティはにこにこしながら続ける。
「うん、そういう訳で——」