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ゲロムスの遺児(新版・改訂前)  作者: 粟沿曼珠
第二章 千変万化の魔獣
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第十九話 統治者の救援要請

 三人とマートは議事堂の小さな会議室へと場所を移す。全員が椅子に座ったところで、マートが話題を切り出す。

「さて、繰り返しになるが、君達にはある魔獣を倒してもらいたい」

「待て。さっきも思ったが……ヴォレオスの猟獣はどうした?」

 魔術師の時代が終わった後、ゴーノクルでは魔獣の数が急激に増え、その対策をする必要があった。そこで生まれた魔獣討伐を専門とする組織がヴォレオスの猟獣だ。今では各地に支部があり、ここも例外では無い。しかし——

「ああ、それがだな……この魔獣は、ブライグシャ戦役の時に帝国が解き放った魔獣の一体だ。討伐しきったと思っていたのだがな」

「……それが、どうした?」

 ダスは疑問の声を零す。

「帝国が、それを取り戻そうとしている。そのせいで、魔獣を討伐しようとした猟獣の戦士が帝国の兵士に殺されてしまった。他の所から戦士を派遣してもらおうと思ったが、どうも各地で魔獣絡みの事件が起きているようでな。お陰で人員不足で、今まさに君達にしているように、傭兵やファレオの団員のような強者に協力を要請してきた。君達のことは知っている。あの帝国と一戦交えた、とな。多くの国では憎まれているだろうが、少なくともエトロンで憎まれることは無い。ヘローク教団など誰も入信していないからな」

 彼が最後に言った言葉に、ミーリィ達は驚く。

「え、それ広まってるんですか?」

「まあ当然だろう。あのジャレンも殺されたのだしな。寧ろ知らなかったのか?」

 あんな裏の顔を持っているとはいえ、民衆には信心深く、多くの善行を積んできた姿しか映っていない。そう考えるとミーリィも納得できた。

「まじですか……」

「いやそこまで落ち込まなくても大丈夫だと思う。顔は載ってなかったから、槍と棍を隠しておけば問題無い——っと、話が逸れたな」

 マートは咳払いをし、話を戻す。

「そういう訳で、君達に協力してもらいたい。魔獣の暴れまわっている地域を封鎖し、その地域の住民をここに避難させたが、死傷者はどんどん増えていく。それに、ここもいつ襲われるか分からない。頼む」

 マートが頭を下げて頼む。ダスは——余程怪しい理由でない限り——どういう理由であれ受けようと思っていた。北にあるヴァザンに向かうには魔獣を倒す必要があるし、何よりここは彼の故郷だ。

「……ミーリィ、ポン、お前達はどうだ? 正直、厳しい戦いになると思うが」

 二人の方を向いてダスは尋ねた。

「勿論やります! やってやりましょう!」

「同じく」

 彼らは二つ返事で答えた。それを聞いてダスは微笑み、マートの方を向く。

「だそうだ。それで、戦力と魔獣について教えてくれ」

「……自分で頼んでおいてなんだが、帝国に狙われているのに受け入れてくれるとは思わなかった。本当にありがとう」

 彼は再び礼をし、頭を上げてから続ける。

「戦力としては、ヴォレオスの猟獣の戦士が約五十人だが、うちの軍隊も動員するのなら、魔獣に対抗できるかはともかく、人数不足に陥ることは無い。加えて、君達と同様に駅で雇った傭兵などもいる。合計はおよそ千人、といったところか。勿論ヴォレオスの猟獣の兵器や軍隊の兵器も導入する——のだが、正直勝てるか分からない。実は既に今言ったのと同程度の人員と兵器を導入しているが、この有様だ」

「帝国の介入があったとはいえ、そんなに犠牲になったのか」

 マートは魔獣討伐に送った部隊が壊滅したことを聞いた時の絶望感を思い出して歯を食いしばり、そして口を開く。

「……相手は千変万化の魔獣……私達は『ボスカルの獣』と呼んでいる」

「ボスカル? あの絵本のか?」

 ポンがその名前に反応する。ボスカルとは、絵本『ボスカルの冒険』に登場する主人公や、魔術師の時代に存在したとされる伝説の種族『千変万化するボスカル』を指す。

「その通りだ。自由自在に姿を変える魔術を使うからな……変化し力を得ることの素晴らしさを説くボスカルの冒険を考えたら、皮肉な命名だろうがな。これじゃ原典のボスカルの冒険通りだ——っと、また話が逸れたな」

 マートはまた咳払いをし、話を元に戻す。

「ボスカルの獣の大きな特徴は、あらゆるものに変化する力と、二十年以上に亘って人間や動物、果ては魔獣までも喰らったことによる巨体と魔術の質だ」

 魔獣とは魔術を行使できる獣で、往々にして人間より巨体である。魔腑を喰らうことでより強大な魔獣となるが、ボスカルの獣は特に強大な個体となっている。

「ただ、詳細なことはよく分からない……遠くから援護をしていて、幸い生き残れた者が言っていた特徴だからな」

「いや、知らないよりはましだ。以上か?」

「ああ、すまない……もう少し協力者を募ったり、戦闘の準備をしたりするから、それまではこの街でくつろいでくれ。それと、議事堂のすぐそばにある宿に泊まってくれ。協力者には無料で貸し出している」

 そう言うとマートは紙を取り出し、そこに署名をしてダスに手渡す。

「これを見せるといい。他に聞きたいことはあるか?」

「いや、今のところは特に」

「そうか。聞きたいことが出てきたら、私かヴォレオスの猟獣の戦士に聞いてくれ。あと、こちらの準備が整い次第そちらの部屋に向かう」

「分かった。ありがとう」

「いや、感謝したいのはこちらの方だ」

 礼をするマートを見て三人は立ち上がり、会議室を後にした。

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