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ゲロムスの遺児(新版・改訂前)  作者: 粟沿曼珠
第一章 魔術師との邂逅
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第十七話 三人の旅立ち

 バイドーグシャ地方の名も無き草原に、ファレオの拠点がある。かつて魔術師の時代に、魔術師を暗殺する為の組織であったファレオは、身を隠す為に敢えて魔術師の奴隷たる人間の住むバイドーグシャ地方の草原に、しかも地中に拠点を作った。

 その付近で、ミーリィ、ダス、ポンの三人は、ポンの両親の遺体を燃やす。数ある魔術師の弔いの中で、彼の故郷で行われている方法がこれである。

「いやぁ、このようなこともあるのだな」

 三人にある男が話しかける。髭を蓄えた初老の男性、現在のファレオの長であるドライア・ルーモスだ。ファレオの上層部には、ゲロムスの魔術師が生きているということ、帝国が彼らを狙っているということを共有してある。

「帝国が戦争を起こし、人々を殺してまで魔腑を狙い、そしてその魔腑を悪用する可能性もある以上、我々が出るべき案件かもしれないな」

「同感だ……問題は、戦力差だがな」

 ファレオの団員は決して多いとは言えず、帝国の兵士に比べたら量も質も大幅に落ちる。今の状況では勝ち目が無い——そのような認識を、先程の事実を知っている人たちは抱いていた。

「……それでしたら」

 ミーリィはそう言って手をポンの肩に乗せる。

「魔術師の皆さんに頼んでみるのはどうです?」

「確かに、それならいけるかも——」

「いや、多分無理だと思う」

 申し訳なさそうな表情のポンがそう割り込んできた。

「ポン君、どういうこと?」

「今ラードグシャ地方で行われている戦争は、おれ達が手を貸せばすぐ終わるはずなんだ。だが、今の王であるスリーシャ・ゲロムスは戦争に手を貸そうとしない——それどころか、一切の戦いも、魔術の過度な使用さえも禁止している」

「禁止? 何故だ?」

 ダスの疑問の声を受け、ポンは続ける。

「スリーシャは、魔術師でありながら魔術の行使にはどちらかというと否定的な立場を取っている。曰く、『魔術師の時代の終わりと同じ惨劇を、二度と起こしたくない』とのことだ」

「成程、それなら納得はできる」

 ドライアは頷いて言った。実際、ダプナル帝国が滅び、魔術師の時代が終わった原因の一つに、力に溺れた魔術師達が己の利益の為に誰彼構わず魔術を行使したことがある。力を律することで、力に溺れなくする、という意図だ。

「まあでも、実際にやってみなきゃ分からない……二人共、どうせ話はするんだろ?」

「うん」

「勿論だ」

 ガースを出るまで協力するという約束だったが、今はその内容が変わり、『ポンの故郷まで送り届ける』という約束になっている。一人で故郷に戻る危険性、そして二人への信頼感から、この約束に至った。

「もし帝国と戦争をするのであれば、遠慮無く言ってくれ。たとえ力が無くとも、魔術の濫用は許してはならないからな」

「すまない、ドライア……お前には本当、色々と助けられているよ」

 その言葉にドライアは微笑んで応え、踵を返した。

「さて、そろそろ中に入るか。ここのところ色々あったから、お前らもまだ疲れているだろ」

「そうですね、お腹も空いてきましたし。ポン君も入ろう?」

「ああ」

 そう言って三人は拠点の中へと向かっていった。


 ポンはダスに拠点を案内され、最後に寝室に連れてくる。

「ここが寝室だ。一応掃除はしてあるが、しばらく使っていなかったもんでな。埃とか汚れとかが残っていたら申し訳ない」

「いや、そのくらいは別に気にしない」

 そう言ってポンは本棚を物色して気になった本を取り、寝台の上で横になって読む。

「……なあ、ポン。言いたいことがある」

「何だ?」

 突然切り出したダスに、ポンは本から視線を離さずに応じる。ダスは彼の横に来て屈み、小さな声で言う。

「……いいか、これだけは覚えておいてくれ……ミーリィの過去を、詮索しようとするな」

「え?」

 その言葉に、彼は本から視線を離してダスの方を向く。

「どういうことだ……?」

「ファレオに属する人間は、全員魔腑を持っている——だが、それはファレオに属した後に得るものだ。だがミーリィは、俺が初めて出会った子供の頃の時点で、魔腑を持っていた」

 彼女の光り輝く右腕を見た時の衝撃を思い出しつつ、ダスは続ける。

「そのことをあいつに聞いたが……答えようとしなかった。それと、世間一般の話になるが、子供の頃から魔腑を持っている事例は殆ど無くて、あったとしても分かっている範囲では虐待とかの何かしらの事件が絡んでいた」

「つまり……あいつは過去に何か辛いことがあったと?」

「断言はできないが、そうだと思う。まあ、人として当然のことをしてくれって話だ。人に聞かれたくないことは無理に聞かない、それだけだ」

 ポンは何となく心当たりがあった。ミーリィの言動には、時々意味がよく分からないもの——自分の命を顧みないこととか——もある。過去に何かあった結果、そのような言動をしたのだと、彼は心の中で結論付けた。

「分かった。注意する」

「悪いな、ポン」

 そう言ってダスは部屋から出ていった。ポンは再び本に視線を移しつつ、ミーリィのことを考えてしまう。

 ——自分の命を大切にしないことが過去の出来事によるのなら、どれくらい悲惨な過去を経験したんだ?


 拠点で休息を取った次の日、三人はファレオの仲間達に見送られる。

「ダス、ミーリィ、ポン、気を付けるんだよ」

「ああ」

「行ってきます、ドライアさん!」

 ドライアの声に、ダスとミーリィは返事をする。ダスは仲間達を見遣り、全員をその視界に映したら前を向いて進む。ミーリィは声を上げ手を振る仲間達を、地平線の向こうに消えるまでずっと眺め、彼らと同様に声を上げて手を振った。

「そんなにやらなくてもいいだろ」

 ずっとそれを続けているミーリィにポンが呆れて言う。

「次はいつ会えるか分からないからねー。今のうちに堪能しておきたいの!」

 微笑んでそう言い、また手を振り始めた。

「気が済むまでやらせておけ、ポン——それじゃあ、行こうか」

 煌々と輝く太陽に照らされ、三人は草原を進んでいく。ここから、三人の旅が始まるのであった。

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