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ゲロムスの遺児(新版・改訂前)  作者: 粟沿曼珠
第一章 魔術師との邂逅
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第十三話 熱狂

 階段を下っていくと、三人は薄暗い廊下に出た。何かが燃えていたかのような焦げ臭さ、そして仄かに感じられる熱が廊下を包んでいる。

「この感じ……さっきまで誰かがいたみたいだな。気を付けろ」

 ダスのその言葉に二人は頷き、廊下を歩いていく。石でできた扉がいくつもあり、ダスがその中の一つの小窓から中を覗く——が、その中には誰もいない。壁に打ち付けられた手枷がぶらりと下がっている。

「誰もいない……別の場所も見てみる」

 そう言ってダスは他の部屋を覗いてみるも、先程と同様に誰もいない。

「この様子だと全員が別の部屋にいるか、既に別の場所に連行されたかのどちらかだな」

 その言葉にポンは落胆する。それと同時にそうなって当然だという思いや、二人に対する申し訳なさが湧き上がってくる。

「……分かった。じゃあ前の大きな扉——」

 そう言ってポンが正面の扉を指さした時だった。

「——あああああああああああ!!」

 その分厚い扉の向こうから、微かに悲鳴が響いてきた。この空間とその音から察せられる状況は一つ——拷問だ。その声に、ポンは呆然自失の状態に陥る。ミーリィも耐えられず、耳を塞いで目を伏せてしまう。ダスだけが、怒りの感情と共にその現実を受け止めていた。そしてすぐに、最悪の結末がポンの脳裏を過った。

 ——父さんと母さんが、殺される。

 そう考えるや否や、ポンは思わず駆け出し——そんな彼を、ダスが押さえた。暴れまわるポンの力は弱く、彼の腕から抜け出すことができない。そんな彼をダスは小声で、しかし力強く諭す。

「気持ちは分かる……! だが今行ったら、お前も危ない……!」

「だからどうした! 今度はおれが父さんと母さんを助ける番だ!」

「馬鹿か……!? 声がでかい……! 両親に生かしてもらった命だろ……! それを無駄にする気か……!?」

 しかしポンはダスの体を殴っては蹴ってを繰り返す。それが目に余ったダスは彼を気絶させようと拳を握り——

「敵だ!」

 先程のポンの叫びに気づいた教徒が衛兵を伴って階段を下りてきた。教徒が笛を鳴らすと、仲間や衛兵がさらに階段を下りてくる。そして、大きな石の扉からも人が出てくる。そこにはジャレンと彼の二人の側近の姿があった。

「ダスさん!」

「クソッ、厄介なことになった……!」

 その突然の出来事にダスが動じている隙に、ポンはダスの腕から抜け出した。

「ああクソッ! おいポン!」

「ポン君!?」

 二人の叫びを意に介さず、ポンはジャレンの元へ向かって彼に相対し、怒りと憎しみに満ちた目で睨む。

「父さんと母さんは……どうした!?」

「ご安心下さい。この部屋の中にいらっしゃいますよ」

 不敵な笑みを浮かべたジャレンが言うや否や、ポンは彼の側を通って部屋の中へと入っていく。そして、先程感じた焦げ臭さと熱がこれによるものだとすぐに理解できた。そこにあったのは、石の机に縛り付けられ、燃やされて焼け焦げた人々であった。その狂気的な状況に彼は戦慄し、思わず涙を流してしまう。

「それらはまだ死んでいませんよ。死なない程度に燃やし、魔術で癒し、また燃やす。何度も、何度も」

 ジャレンがポンの耳元で囁く。それを聞くや否やポンは飛び出すように走り出し、机に拘束された人を一人一人確認する。最早原型を留めていない右腕と顔を一人ずつ見て——確信し、怒りと憎しみがより一層増した目でジャレンを睨んで言う。

「……ここに、いないだろ。ふざけやがって……!」

「部屋の隅から隅までちゃんと見ましたか? まあ、分からないのであれば、私が教えましょう。その前に——」

 ジャレンが側近を見遣ると、一人がポンを拘束した。

「おいクソ! 離せ!」

 じたばたと激しく動いては殴るポンに、もう一人の側近が銃口を向ける。それに戦慄し、彼は動くのを止めた。すると、部屋の外から衛兵に拘束され、いくつもの銃口を向けられているミーリィとダスが入ってくる。

「…………酷い」

 燃やされた人達の悲惨な光景と、拘束され銃口を向けられているポンを見て、思わずミーリィはそう零した。

「今後の行動次第では、貴方達もそうなりますよ」

 ジャレンは憎たらしい笑みを浮かべて言う。

「さて、貴方のご両親なのですが——あちらの布の向こうにいらっしゃいます」

 そう言って、ジャレンは掌を壁全体を覆う布に向ける。ポンは怒りの形相でそれを見る。

「会いたいですよね? では、会わせてあげましょう」

 ジャレンは布を掴み、布で塞がれていたその先の光景を見せる。

「あ、ああ——」

 その光景に、ポンは絶望した。言葉を失い、涙を流し、呆然自失となる。ミーリィとダスも、その狂気に理解が追い付かず、愕然としていた。ジャレンの本質を理解していた教徒や衛兵ですら、その光景に戦慄する。


 煌々と輝く腕と、ポンの両親の頭——その二つが、いくつもの人の頭と一緒に並んでいた。

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