first love
ある日、人形で巨大なゴレムというのが町に訪れました。意思表示をしないゴレムだが、町はゴレムの事を受け入れ町で一緒に過ごし始めました。
ある晴れた日だった。
人里から離れた山奥に一つの大きな工場があった。
大きさだけは立派だが、外装はところどころサビて手入れが施されていない建物だった。
その工場の煙突から珍しく煙が空に向かって上がっていた。
「ゲホッ、ゲホッ。やっとできた。希望の生きた砦が」
工場の中――大きな窯のある部屋の中、そこには顔中に真っ黒な煤を付けた小さな男のご老体がいた。
ご老体の手には白い札のような紙があり、その目の前にはそれが立ちあがったらご老体を遥かに超える、およそ5メートルほどの大きさの泥のように茶色く人型の塊が石畳の上に合った。
それは見る限りただの銅像のような置物にしか見えなかったが、ご老体は人に話しかけるような目線を送っていた。
「お前の名前はゴレム。あの町を守り給え――」
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ある日、その町に大きく泥で作られた巨人が訪れた。
彼の額にある札に書かれた文字を見た町の民は「ゴレム」と呼び、その巨体を町へ受け入れた。
子供達は「ゴレム! ゴレム!」と慕い、ゴレムの大きな身体を活かし遊んだりした。
肩に乗ったり、太く頑丈な腕にぶら下がったり、腕から垂らしたブランコで遊んだ。
子供がバランスを崩して落ちそうになったけど大きな手でキャッチした。
彼を慕ったのは子供達だけではなく、大人たちも慕った。
数年にわたって人口が増えて行った町では建築の役に立った。
人の家だけに限らず、住民たちの集会できる施設や整備されていない地面を整えたりもして人間の暮らしやすい環境を作る手伝いをした。
気付けばゴレムは町にとって町の発展の象徴になっていった。
ゴレムは何も栄養も必要とせず、ただ、人間に求められるだけ尽くし続けた。
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それから30年程時が経った頃だ。
町は栄え、町も広くなっていた。
その分人間達に頼まれる作業が増えていた。
午前中1時間ごと働いて午後は皆の優しさであとは休むか子供たちと遊ぶかをしていた。
ゴレムは相変わらず表情を変えず、人々の苦労を手助けし続けていた。
そんなある日、その町にとある離れの町の住人から襲撃を受けた。
彼らは槍を持ち、弓を持ち、とにかく武器という武器を持っていた。
まず初めに弓がまとめて撃ち込まれて偶然にも外に出ている者はおらずけが人は出なかったが、屋根には散々なほどその弓が刺さって住民のみんなは怒りを抱いた。
勿論臆病になってしまう人たちも大勢いた。
住民は言葉で訴えようと、ある一人がその襲撃の前に出て行くと、聞く耳も持たない彼らは容赦なく無防備な彼を殺してしまった。
家の窓から傍観するしか出来なかった住民たちは憤りをあらわに一人一人飛び出そうとした瞬間だった。
そこに大きな影が襲撃者たちの前に現れた。
ゴレムだ。
一瞬で相手は怯んだ。
しかし、すぐに敵対心を取り戻すと弓を放ち、槍で薙いだ。
ゴレムの足元で襲撃者たちはありのように見えた。
ゴレムの堅い身体にはまるでその人間の作った武器は敵わなかった。
ゴレムはどんな意思を持っているの分からないが、その襲撃者の攻撃を指で弾いた。
人が額にデコピンをするように、ゴレムはピンっ、と人の身体を弾いた。
弾かれた身体はコンクリート塀にぶつかって転がると地面で呻いた。
その状況に怒り更に襲撃者たちはゴレムに乱暴をした。
しかしやはりゴレムは一切怯まなかった。
襲撃者の一人がゴレムの足元から離れ町の一人を捕まえてナイフを突き付けながらゴレムの目の前に戻って来た。
人質のつもりだった。
そんな彼は呆気なくゴレムの指に頭を掴まれた。
「潰される!」と思った彼は臆病になり人質を手放してしまい、更にはおもらしまでしてしまった。
人質が逃げたのを見るとゴレムは潰すことなどせず手を離した。
安心した彼は尻もちをして膝が震えて立ち上がれそうにはなかった。
「クソっ!」
襲撃者の一人が怒鳴った。いや、嘆いたというのが正しかったかもしれない。
襲撃者たちはゴレムには敵わないと思いそこから逃げ去ってしまった。
尻もちをついた仲間は膝を震えたままで仲間に引きずられながら遠ざかっていった。
町がやっと落ち着き、影から、家から見ていた住民たちがゴレムの前に現れた。
恐らく町の民の殆どがゴレムを囲んだだろう。
そして、感謝の言葉を送った。
何か恩返し出来ることは無いかと皆は考えて彼に食べ物を供えた。
柔らかいものは潰してしまったが、それでもみんなは笑顔でゴレムを慕った。
子供達は泥で作ったゴレムに似た像や、様々な動物のぬいぐるみをゴレムに上げた。
その日の後は更に住民たちはゴレムを慕ったのだった。
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ゴレムには感情は無かった。
町の子供と遊んだのも、町の発展を手伝ったのも、町の襲撃者から町を守ったのもゴレムの意思ではなかった。
一切、ゴレムにはゴレム自身の意思はなかった。意識はなかった。人間の持つような意識はなかった。
ただ、ゴレムには託された役目があった。
この町を守るという事。
町の民を守るという事。
何故、襲撃から町を守ろうと身体を動かしたのか、その意思は無かったが、ただ、その時にゴレムの身体は自ずと動いた。ただそれだけだった。
町の民は誰も勿論そんなことは知らない。
民から見れば守ってくれたゴレムの事は町の救世主に見えた。
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襲撃があった日から20年後、60歳を超えた住人の一人が「そういえば50年前にゴレムがこの町に来たんだ」と孫に話したところ、孫が「それじゃゴレムを祝おうっ!」と言った。
他の住人達に言うとみんなも賛同し、ゴレムを祝う事になった。
初めの一ヶ月目はゴレムがこの町に来た時から一度も手入れのされていない苔だらけになっていた身体を洗った。ゴレムの身体が大きすぎて一週間掛かった。
それから残りの週は新しい遊具をゴレムに取り付けたり、町を出て隣の町へ散歩したり、ゴレムを祝うと言ってもどちらが楽しんでいるのか分からなくなる感じだったが、ゴレムは勿論イヤな顔一つ見せず住民に言われるままに従った。
それがゴレムの役目だったから。
ゴレムの周りに集まる住民の誰かが悲しい顔や辛い顔をしていたらゴレムは不器用な手つきで花を上げて笑顔を取り戻した。
そんな日々が続き住民とゴレムの関係は更に深まっていった。
それから何年、何十年を越えて町の何世代も跨いでゴレムは町のみんなに慕われ、毎年、新年の一日目はゴレムのおかげで町の平和が保たれているという事でゴレムを称えるのが町の風習になっていった。
数年が経った頃、普段町の外の広い場所で夜長を過ごしていたゴレムの為に町のみんながゴレムの家を作った。
当然嬉しいのかどうかは町のみんなには分からなかったが、その日からゴレムがその家で夜長を過ごすようになり、喜んでいると信じて町で共に暮らした。
朝になれば人間達と共に家を作り、道を作り、町を作っていった。
それからも何年、何十年もゴレムの生活はその町で続くのだった。