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最悪な4人

西暦22xx年。

世界的パンデミック、戦争、気候変動から人間様は生き残りやがった。

ゴキブリって知ってるかい?

必要とされてねえ生き物ほどこの世ではしぶとく生き残りやがるのさ。

人間様も同じさ。

危機を乗り越えた人間様は平和の為に手を取り合って生きようと誓ったのさ。

素晴らしい話だよなぁ?

でもよ、人間として認められるってのはどーゆー事かわかるかい?

そいつは金、名誉、血筋ってヤツが見事に揃った奴を人間って呼ぶのさ。

つまり金も名誉も血筋もねえ奴はなんなのか?

奴らはこう呼ぶのさ「ゴミ」ってね。

危機を乗り越えた人類は人間とゴミに分けられました、めでたしめでたし。

西暦ってのを生んだキリなんとかって神様も泣いて喜んでるだろうよ。

なんだっけ?

汝、左の頬を叩かれたら倍返しだっけか?

すまねえ脱線したな。

さてさてゴミの話を続けるぜ

手を取り合った人間は平和に暮らしたと思うかい?

違うんだよな。

奴らは結局裏切りあった。

やれ隣の国は食い物が豊富だ。

やれ隣の国は景色がいい。

やれ隣の国は金持ちだ。

結局人間は争いあったのさ。

その手足にされたのがそう、ゴミさ。

当時の環境学者が言ったらしいぜ。

「人類史最高のリサイクルだ」ってな。

そりゃあたくさんのゴミが地面の肥やしになったさ。

でも一つだけいい事があってな。

戦争を生き残ったゴミが人権を持つことができたのさ。

でも学もなけりゃ生きる術も知らねえゴミにできる仕事なんざ限られてる。

ゴミはゴミらしく汚れた仕事をするしかねえのさ。

おかげさまで世の中は犯罪だらけのパラダイスになったってわけさ。

警察?お前いつの時代の話してやがるんだ?

まあいいや、話すのもだるくなって来やがったけどよ。

おもしれえ話を最後に聞かせてやるよ。



Jack-of-all-tradesジャックオブオールトレダーズ



アジア第三州「ニホン」

かつて世界有数の先進国として栄えた国も今ではスネに傷がある者が集まる犯罪都市と化していた。

「ニホンは夜に太陽が昇る」

夜になると動きだす売人、売春婦、殺し屋、犯罪者。

享楽と興奮が入り混じるニホンの夜は朝日と共に静けさを増していく。

朝の光が安らぎを運んで来る。

しかしそんな静寂を切り裂く音が鳴り響いていた。

そう。なんの変哲もない目覚まし時計である。

カーテンも無く差し込む朝日を迎えるようにひっそりと埃の溜まったサイドテーブルに鎮座する。

定められた時に叫び声をあげ、持ち主に爽やかな朝を知らせる人類の友。

そんな友はより大きな破裂音と共に顔面に穴を開けてその生涯を終えた。

「…うっせえ…」

寝グセだらけの髪をかきながら友を殺した男は言った。

気怠げな瞳、不健康そうに痩せた体、よれたワイシャツ、結び目が固くなりすぎたネクタイは結んで何日経過したかわからない。

「あー、飲みすぎたわ。あったまいてえ…もうこいつはあれだよな。迎え酒って裏技を使うしかね……」

「クゥゥミイィィィンン!!」

気怠げな男と正反対な恰幅のいい男が叫び声を上げた。

クーミンと呼ばれた男とは正反対にキッチリと糊で仕上げられたワイシャツにシックなサスペンダー、そして怒り称えた瞳を奥にする曇りの無いレンズは彼の几帳面さを表していた。

「これで何個目の目覚ましが壊れたかわかりますか!?374個目です!!あなたは毎回毎回毎回毎回なぜ目覚ましを銃で撃つのです?なんですか?あなたは目覚ましに恨みがあるんですか?あなたは目覚ましに親でも殺されたわけですか!?」

雑な言葉の中にも几帳面さが滲み出る男、モチは矢継ぎ早に捲し立てる。

「…うっせえぞモチ…いいか?だりいから単純にわかりやすく言うぞ?だりい、ねみい、うるせえ、だまれ。以上。」

ヒートアップするモチを尻目に二日酔いの痛みを誤魔化すようにクーミンは再度タバコに火をつけた。

「クーミン!!目覚まし時計代はあなたの給料から引かせてもらいますからね!」

「引いたら殺す。」

壁紙は所々剥がれレンガは剥き出し。

薄い窓は少しの風でカタカタと揺れる殺風景と言う言葉を体現したような狭い部屋に響き渡るように二人が言い争いをする中、間の抜けた明るい声が会話を遮った。

「朝から元気っすねえええ!あれっすね!ケンカするほどロックユー!!うーん!!ナイスな朝っすね!」

開けっぱなしの閉まりの悪いドアから弾丸のように飛び込んで来た男は険悪な空気を無視して叫んだ。

「うるせえぞバカ。どんな間違いだバカ。殺すぞバカ。」

「ひどいっすううう!モチ!クーミンがいじめるっす…オイラ…オイラ泣きそうっす…」

「バルガス…今のは僕から見ても…いや残念ながら…バカだと…」

二人は諦めたような表情をしながら筋肉質な男…バルガスに呟いた。

バルガス、その少年のようにクルクルと変化し間の抜けた声とは裏腹に服の上からもわかる鍛え抜かれた体、そして彼の足元から消し去られた音は彼が今までどんな道を歩んで来たかを雄弁に語っていた。

「ひどいっす!悲しいっす!ダイラー!みんながいじめるっす!」

バルガスが向けた視線の先には天井に頭がつくかのような大男がいつの間にか無言で立っていた。色褪せた深緑のコートは一般的な体格の成人なら二、三人は簡単に隠せるほどの大きさだ。大男ダイラーは厳しい顔とは対照的にかわいらしいフリルが着いたエプロンを付け立っていた。

「…コーヒー…砂糖は?」

その手には体に比べて小さな銀のトレーがありその上にさらに小さなカップ。中には朝を迎える最高の飲み物、コーヒーが注がれていた。

「…ブラック。ミルクもいらねえ」

「僕はミルクだけでお願いしますダイラー。」

「俺は砂糖三個!ミルクたっぷり!コーヒー牛乳っす!!」

手際よくダイラーは注文通りのコーヒーを作る。

「ふう…やっぱりダイラーのコーヒーは最高ですねえ…」

「ブッサイクなツラしてるくせにこーゆーのはうめえよな」

「こーしーぎゅーにゅー!こーしーぎゅーにゅー!」

「……そろそろ…オープンする…」

「もうそんな時間かよ。だりい…まあしゃあねえ…douchebag incデューシュバッグインク…ゆるーく行きますか」




「…で、お仕事は?」

バルガスが無邪気な笑顔を向けながら残酷な現実を突きつけた。薄暗い部屋に更に暗く思い空気が張り詰めた。

「ねえダイラーお仕事は?」

幼子のような視線に応える為にダイラーはゆっくりとドアに向き返しながら静かに呟いた。

「茶請けにちょうど…お前の好きなチョコレートバーがあった…持ってくる…」

「え!?やった!チ・ョ・コ・レ・エ・ト!バーーー!!あ、そうだそうだ仕事仕事!!仕事はー?ねえクーミン仕事ー!!」

問いかけられたクーミンはハッキリと、迷いなく、余裕を持ちながら答えた。

「ダイラー、俺はいらねーぞー。甘ったるい菓子なんか食ってらんねえかんな。

あ?仕事?知らねえよボケ。俺の役目はこう…ズガーン!!とエレガントに、シュバババ!!っとスタイリッシュにだろ?そんな地味ーな事はそこに転がってるベイブちゃんに聞け。」

「オイ山猿。いいかげんにしないと本気で消しますよ?僕の広い心にも限界があるのを教えてあげましょうか?もちろん君の命を代償にしてね。」

「あ?豚語が聞こえんぞ?ブヒブヒブヒブヒうるせーなあ?」

「ははは!山猿にはもっと簡単な言葉で言わないとダメでしたね!失礼しました。言い直しますね。ブチコロスぞこの猿が」

「あ?やれんならやってみろや」

「おやおやあ?理解できてるんですねえ?成長しましたねえ?」

クーミンとモチはバルガスを放置しいつもの日常を繰り広げていた。

「ねえ、仕事はー!?オイラ肉食べたいんだよ!!」

バルガスの叫びに部屋に戻ったダイラーが怒りを含めながらつぶやいた。

「…肉ばっかりは良くない…バルガスはただでさえ野菜を食わない…」

「いーやーだ!!肉肉肉!ってゆーかチョコレートバーは!?チョコレートバー!!」

「…野菜を…食わない奴には…やらん…」

事務所が阿鼻叫喚の地獄と化し、意味のわからない単語が行きかう。

「豚!!」「殺す!!」「肉!!」「やってみろ!!」「猿!!」「野菜!!」「チョコレート!!」「デクノボウ!!」「あのー…」「チビ!!」「デブ!!」「あのー…依頼」「今度こそ消す。」「オムライス!!」「ピーマン」「消されんのはてめえだ」「ビタミン」

「あの…依頼をしたいんですが…忙しいみたいなんで帰ります…」

依頼。なんと甘美な響きだろう。

言うなれば天使の囁き。今ならば四人はその単語だけで汚れを知らない生娘のように堕ちるだろう。

その囁きを呟いた女性を四人は凝視し、打ち震えた。

このチャンスを逃してはならない。四人は今まで争っていた事が無かったかのような連携を見せた。

「バルガス!!こちらのチャーミングなお嬢さんに椅子を準備しろ!!ダイラー!!紅茶だ!やすもんじゃねえ、一番リッチなヤツだ!!モチ!!お嬢さんのお話をお伺いしろ!!もちろんスマートにだ!!」

クーミンがソファから微動だにせず全員に指示を出した。

「…こないだもらった…高い紅茶…お前が飲んだ…」

「ラジャ!!いすいすいす…えっとどのいす?」

「…いきなり仕切るのをやめてください。…とりあえず僕がお話をお伺いします。あ、申し訳ありません。僕はこの事務所の依頼受付、交渉などをメインに担当するモチと申します。次にあの大きいのがダイラー。あそこにいる筋肉がバルガス。最後にあのソファにいる山猿がクーミンです。お見知り置きを。」

「テメ!!誰がやまざ…」

「シー!!依頼を聞くんですから静かに。」

クーミンへ勝ち誇った視線を飛ばしながらモチは言った。

クーミンは舌打ちをしながら背を向けソファへ横たわった。

「…で、依頼はどんな内容ですか?内容によって報酬が変動しますのでまずはお話を…ああ!もちろん守秘義務はお任せください!依頼達成ももちろんでございます!我々、腕には多少自信がございますのでどんな依頼も必ず達成いたしますよ。」

モチがさながら政治家のようににこやかな笑顔で流暢に説明をした。

「私はクレアと申します。依頼は……私の身辺警護をお願いしたいんです…最近、誰かに後をつけられたり…常に誰かに狙われてるような気がするんです…」

依頼人…クレアが俯きながら呟いた。

「ストーカーかなあ?女の子を怖がらせるなんて悪いヤツ!」

カウンターの上に座ったバルガスが言った。

「ストーカー…なんでしょうか?私怖くて…私みたいななんの取り柄もない女になんで…」

クレアを見つめながらモチが身を乗り出した。

「なるほど…お任せ下さい!当社の身辺警護は他社と比較しても顕色ない、いやむしろこの辺りでも指折りの成功率と安全性を誇っております!先日もストーカーに怯える可憐な女性をそこにいるダイラーとバルガスが…」

「…ちょい待て」

モチがする炎を吐くように熱のこもった説明をクーミンの眠たげな声が遮る。

「クーミン!!なんなんですか!?」

モチの声はクーミンに届かない。

クーミンはクレアを舐めるように観察をした。

年の頃は20を過ぎた辺りだろう。

長い亜麻色の髪は艶やかで良く手入れをされている。

一般的に美しい顔立ちだ。この当たりで良く見かけるアジア系の顔立ちではなく白人系の血筋が強く感じられる。しかし顔の凹凸ややや黒みがかった瞳孔からアジア系の血が入り込んでいる事も予測できる。

やや細身の体は装飾の無い質素なワンピースに包まれている。質素ではあるが彼女の立ち居振る舞いから貧相さは感じられず、むしろ古い時代のモデルや女優のような清楚さを感じさせた。

この辺りで身辺警護を依頼してくるような商売女とは違う、この女はそれなりの身分がある。

「で、金持ちのお嬢ちゃんがなーんで俺達みたいな無名の何でも屋に依頼をしてーんだ?金持ちならもっと大手に依頼しても余裕だろ?」

観察から生まれた疑問はそのまま脳から舌へ伝達され放たれた。

「え…?私は決してお金持ちなんかでは…」

クレアが戸惑いながら答える。

「…隠してえならかまわねえよ?あくまで俺の想像でしかねえわけだし。」

推し黙るクレアに対してクーミンが続けた。

「俺達はどんな奴からでも依頼は受けるぜ?殺人犯だろーが商売女だろーがな?でも二つだけ条件がある。

その一つ、嘘をついたり隠し事をするようなヤツからの依頼は受けねえ。」

クーミンはクレアから目を逸らさずに言い切り、そして口を閉じた。

沈黙が部屋を包む。

ゴトリ

交渉には参加せずいつの間にか銃の手入れをしていたダイラーが静かに銃を机に置いた。

「…沈黙は…言葉より真実を告げる…」

ダイラーの言葉に決意を促されたかのようにクレアが口を開いた。

「わかりました、お話をします。…みなさんイースト家はご存知だと思います。」


イースト家。

元はゴミ溜めを漁り金になる物を見つけては横流しをするスカベンジャーの元締めだった家だ。

しかし数代前の党首が新たなビジネスを始めた。

この糞溜では年間にして数百の身元不明の死体が発見される。

流民、犯罪者、もしくは被害者。

この町にも警察のような組織は存在はする。

しかし奴らは支配階級の犬。もしくは私設軍隊のようなものだ。

飼い慣らされた犬は野良犬を嫌悪し、見下す。

そんな犬が町の糞溜で起きた事件をどう処理するのか?

答えは簡単だ。

痕跡を無くせばいい。

つまりイースト家の新しいビジネスとは…

死体の処理。

ゴミ漁りから始まり死体の処理、そうして稼いだ金を支配階級とのコネクション作りに使いイースト家はどんどんと成長し…現当主、ウィン・イーストはとうとう支配階級へ上り詰めた。


「ハッ!…錬金術師のイースト家がどうしたんだ?この町に住んでりゃヤツらの名を知らねえ奴はいねえぜ?」

クーミンが言った錬金術師とはイースト家の数あるあだ名の一つだ。

死体を金に変える錬金術師。クーミンはあくびをしながら問いかけた。

「そのウィンが死亡したのはご存知ですか?」

バルガスは理解できない話に飽きたのか外を眺め、ダイラーは銃を磨く手を一瞬止めた。

クーミンは興味なさげにタバコをふかし、モチは目を見開きながら問うた。

「…ありえません!そんなビッグニュースなら私の耳に入らないはずはないし、何より町の噂になっでいるはずだ!」

「…その理由をご説明させていただきます。

私はクレア…クレア・イースト。ウィン・イーストの…娘です。」

クレアはまっすぐな瞳でそう言った。

「あなたがウィンの娘?…ありえません。ウィンに娘がいたなんて初耳です…なによりウィンの娘なら問題が発生したならお抱えの兵士なり、もっと実践のある上流階級向けの何でも屋なりに依頼すればいい話だ。」

モチが自分に言い聞かせるように呟き、額の汗を白いハンカチで上品に拭った。

「…この事実は私もウィンが…父が亡くなるまでは知りませんでした。先日父が亡くなり、その際に遺書が発見されました。その遺書に記されていたのがウィンが私の母と言う愛人がいた事。そして二人の間に娘がいた事。そして自分の地位、財産をその娘に譲る…と言う事です…」

声のトーンを落としながらクレアは最後にゆっくりと言葉を足した。

「そして、私を狙っているのはイースト家の人間です」

「つまり、俺らに上級階級の兵隊とドンパチしろって事かい?」

紫煙をゆったりと吐き出しながらクーミンはつぶやいた。

「いえ!!多分ですが私を狙っているのはイースト本家の人間ではありません。だから彼らには私設軍隊を動かす事はできません。だから街のゴロツキなんかを雇ってるんだと思います。それに護衛期間はイースト家の会合で私が後継者としてお披露目をされるまでの三日間…そんなに長い期間ではありませんし、報酬も通常の数倍はお支払いするつもりです!!」

クレアは震える手を握り締めながら必死な眼差しでクーミンを見つめ返した。

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