プロローグ
ーアヤカシセカイー
むかぁし昔、だけど、昨日の事かもしれないお話。
ここは妖怪の達が暮らす国。
人々はこの世界の事を様々な名前で呼ぶが、ここの住人達はこの世界の事をーアヤカシセカイーと呼んでいた。
アヤカシセカイで暮らすある少女の名前は前田華子。
人間の世界では彼女の事を「トイレの花子さん」と呼ぶ。
「だぁかぁらぁ!!花子じゃなくて華子だってば!!!」
アヤカシセカイ、曇り、午後4時過ぎごろ、絶好のうらめし日和。
華子は怒っていた。
「華ちゃん・・・そんな怒らないで。ね?」
華子の怒りに対し正反対にオドオドと華子を宥める気の弱そうな長身の美しい女性はマスクを付け、その美しい顔を半分ほど隠している。
彼女の名前は前田麗子、華子の2歳上の姉である。
人間の世界では彼女の事を「口裂け女」と呼んでいるらしい。
アヤカシセカイで暮らす妖怪達は人間界でその存在をはっきりと悟られる事なく、それでもしっかり存在感を示し、人間達の生活を退屈させないよう自身を主人公とする「都市伝説」を演じ生きる事を生業としていた。
「私はちゃんと都市伝説を作る時にちゃんと「トイレの華子様」って提出したの!」
「でも・・・ほらっ、人間達に漢字までは伝えられないから・・・。」
「お姉ちゃんはいいよね、名前まで伝わってないもんね。」
「わ、私は提出した内容が大人しすぎたから口が裂けている事と包丁で綺麗って言わなかった人を襲う事が付け加えられちゃったから、それはそれで大変なんだよ?」
「雨の日にコート着て立ってるだけなんて変態のおっさんじゃん、ダメに決まってっしょ。」
「えぇ!華ちゃん、それはひどいよぉ・・・」
ぽろぽろと涙を零す麗子に華子が大きな溜息をつく。
「お姉ちゃん、もっと妖怪である自覚持ちなよ。そんなんだと稼げないよ?」
アヤカシセカイの妖怪達はこうやって人間達を怖がらせたり驚かせたり、自身の都市伝説の噂が広がるたびに印税が入ってくる。
「でも、ほら、うちは華ちゃんがとっても有名人だから。」
「お姉ちゃんだって人の事言えないでしょ。」
「私は設定に恵まれただけだよ。自分でここまで作り上げる華ちゃんはやっぱりすごい。」
姉妹が暮らす家はとても豪華で見るからにお金持ちだと窺える。
それもそのはず、人間界で最も有名な都市伝説として超売れっ子の「トイレの花子さん」と「口裂け女」の姉妹を、人間界どころかアヤカシセカイでも知らない者はいなかった。
これはそんな妖怪達の日常のお話。
むかぁし昔、だけど、昨日の事かもしれないお話。
はじまり、はじまり。
続く