ボールペン
ハイハイ!いらっしゃい、いらっしゃい!
物語を書いてみたい人いませんか!
物語を書きたい人はいませんか!
本日ご紹介するこのボールペン!
なんと文豪の愛用したボールペンでございます!!
こちらのボールペンで、100の物語が綴られました!
湧いて出るのは摩訶不思議な物語!
毎日毎日、物語を綴った実績のあるボールペンでございます!
書きたいと願うのに、ペンがぜんぜんすすまない方にぴったりのお品でございます!
いかがですか!いかがですか!
早い者勝ちですよ!!
「いただきましょう。」
ありがとうございます!
それではこちらをお渡しいたします。
良い物語が書けるといいですね!
期待していますよ、がんばってください!
僕は先日、不思議な店で、不思議なボールペンを買った。
何でも、物語を書きたいと願う人にぴったりの品らしい。
僕は作家志望なんだけど、イマイチ語彙力に自信がなくて、うまく物語を完結させることができず、途方にくれていた。
もしかしたら、このボールペンが、僕に何か、スランプを打破する何かを与えてくれるかもしれない、そう思って買った。
ボールペンを握り、文字を書き出す。
何を書こうか。
…!!!
ボールペンが、文字を綴りだす。
…………。
「なんだ!!これは!!!!」
正統派純文学を志す僕が書いたとは思えないような、下品な言葉と、恐ろしく低レベルで醜い文章運び。
稚拙な表現に、情緒の欠片も無いくせに、遠慮のない感情をただぶつける、作法を知らない恥知らずな物語。
僕はおぞましさのあまり、ボールペンを叩き折って、ゴミ箱にすら入れたくなくて、窓の外に放り出した。
「手、手を洗わねば!!こんなもの触って、僕の手が穢れてしまう!!!」
皮がめくれてひりひりするまで、僕は手を洗った。
新しい鉛筆を一本下ろして、血をにじませながら、自分の物語を綴った。
僕は初めて、自分の物語を完結させることができた。