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8話 猪突のエリス

主人公が前話でもらった名前を『シンク』から『ヒーロ』に変更しました。驚かれた方は申し訳ありません。

「ようこそ、こちらギルド受付になりまぁす。」


以前と変わらず、可愛らしい感じの女性が出迎えてくれた。前回と異なるのは、仮面を見た瞬間にあからさまに眉をひそめたことだ。


「ご用件は?」


「登録をしに。職種は治癒術士です。」


「では、資格証を拝見致します。」


経験済みの流れなので、戸惑うことはなかった。それにしても、資格証に『リュート』とあるのに全く気に止める気配がない。仮面の下を確認されるのではないかと内心不安ではあったのだけど。


資格証は記憶石という初めに記憶させた魔力のみに反応する特殊な素材でできている。その助けもあって、自分の身元は保証されたようでもあった。


「リュート・ヒーロ様ですね。承りました。では、これから簡単にギルドについての説明をさせていただいた後に登録をしていただきますね。」


そう言って受付嬢はギルドについての説明を始めた。

ざっくりした概要はこうだ。


一つ、悪さをしたら登録抹消!

一つ、会員同士の喧嘩は正式な手続きを!

一つ、案件の受注にはそれぞれの条件を満たすこと!


最初の二つ目はまだよかった。だが、3つ目がいただけない。どうやらギルドにはランク付けなるものがあるらしく、基本的には上から第一級から第十級まで存在する。そして勇者一行は歴代と同様に特級が適用されているらしいのだ。


まず最上位の第一級になるにはどれだけ実力があったとしても、最低5年はかかるらしい。最初の1年を除くと昇級試験が半年に1度しか受けられないからだ。なのにハル姉達が受けている依頼はどれも最上位ばかりだという。


ここまで来るのに5年もかかったんだ。さらに5年なんか待てる訳がない。


「今すぐ最難関の依頼を受ける方法はありますか?」


受付嬢は質問に対して言葉に詰まった。教えていいものやらという表情だ。つまり、答えはイエスだ。


「お願いです!あるなら教えてください!」


「わかりました。方法は教えます。ですが、絶対にやめた方が良いというのが私の本音です。」


受付嬢は躊躇いがちにその方法を教えてくれた。ギルドにくる依頼は必ずしもギルド会員しか受けられないわけではない。つまりはフリーランスとして、依頼を受注すればよいということだ。それでも治癒術士の同行は必須ではあるらしいが、その点本人が治癒術士なので問題はない。


「だけどフリーランスには、我々からの支援物資はありません。その分、報酬の取り分は多いのですが、どうしてもお金に執着する酷い輩に見られることは多いです。フリーランス自体、そういう方々が多いのも事実ですので。」


会員に与えられる保証や支援は見込めず、対外的にも印象は悪い。それを納得した上で、本当にフリーランスとしてやっていくのかと、そういうことらしい。


「考える余地はありませんね。説明してもらっておいて申し訳ないけど、登録は辞退します。」


「かしこまりました。またのご利用をお待ちしております。」


受付嬢に別れを告げるとこれからのことを考える。今後、フリーランスとしてやっていくなら、お金がより大事になるのだとか。受付嬢が丁寧に教えくれたが、移動や宿泊、装備の点検も自腹になるらしい。


今、ハル姉たちは大型の依頼で遠征に行っている。戻ってくるのは当分先のようだ。それまで、次の依頼に同行できるようにお金を貯めないといけない。他のフリーランス同様、お金目的でのギルド通いが始まった。


---------------------------------


「なぁ、あいつまた来てるぜ。」

「どう見ても変人だよな。」

「いつも仮面つけてよ。よっぽど酷い顔でもしてるんじゃないの?」


一週間もギルドに通っていれば、かなり話題になっていた。覚悟はしていたが、周囲からの目が痛い。まぁ、フリーランスの治癒術士が一人で依頼を受けていれば、しかも常に仮面をつけていれば白い目で見られるのも必定というものだ。


「どうしても会員にはならないんですかぁ?」


「なりません。それではどうしても時間がかかりすぎますので。」


ここ一週間、受付嬢とは毎日同じようなやり取りをしている。いつも通りの受付嬢にはとても安心感を覚えた。


「あのぉ、私初めから気になっていたんですが、なぜ仮面を外されないのですか?あ、嫌なら全然答えて頂かなくても大丈夫なんですが。」


「それがですね。おれってすっごくブスで、他人に顔を見られるのが凄く嫌なんですよ。昔なんてね、『横に並べたら轢き潰したブタの顔ですらイケメンに見える』と言われたほどです。」


「うわぁ、それは御愁傷様でしたぁ。」


なんて軽く会話をしながら受注の手続きをする。それが日課になりつつあるのだ。今日もまた一人でギルドを出て、一人で依頼の魔物を討伐して、一人で帰宅して・・・。そう思っていた。


「その依頼、私も受ける。」


なんとも感情を感じない棒読み口調だった。他に依頼を受けようとしている人はいないので、間違いなく話しかけられているのは自分だ。


声の主を見ると、手入れをしてなさそうな金髪が顔半分を隠している獣人だった。頭部に生える野性的な耳がすぐ目に入る。


「あの、どちら様?」


「エリス。」


「・・・。え?それだけ?」


続きを期待したのだけど、なんと名前を名乗るだけとは。呆気にとられていると受付嬢がぱぁっと明るい顔をみせる。


「エリスさぁん。今回はこの方ですか?」


獣人の少女はこくっと一度小さく頷いた。どういうことかと受付嬢を見やるとものすごく満足げな表情をしている。


「仮面さんの依頼、手伝うから。私の依頼も手伝ってほしい。」


彼女から発せられる言葉は、細く口調に抑揚がない割には痛々しい叫びのようであった。それに『仮面さん』という聞き慣れない呼び名に少し恥ずかしさを覚える。


「あのぉ、私から説明させていただきますね?」


受付嬢は口下手らしいエリスを気遣ってか、できる限りの詳細を説明してくれた。


どうやらエリスは訳あってパーティを転々としていたらしい。だが、どのパーティメンバーも彼女の戦いにはついていけなかったそうだ。彼女と組んだメンバーは口を揃えて、こう言ったという。『命がいくつあっても足りない』と。そして、ついたあだ名が『猪突のエリス』。


そして、そんな彼女の戦い方はランクを気にする治癒術士にとっては災いの種だ。一つは、治癒が間に合わなくなるということ。そしてもう一つは仲間が死んだ場合、治癒術士の経歴に傷がつくからだ。誰も貧乏クジを引きたくないのである。同行してくれる治癒術士がとうとういなくなったらしい。


「それでフリーランスの仮面さんの出番というわけか。」


「はい、そのようです!あ、そう言えばリュートさぁん。人の治癒は慣れてないって言ってませんでした?あれ?こんなところによく怪我をするエリスさんが!?」


受付嬢はなかなか面白い煽り方をする。確かに言わんとしていることは一理どころか千理くらいある。


エリスの前髪の奥からチラチラと綺麗な瞳が見え隠れする。懇願するようなそういう目には弱いのだ。


「あー、そうだね。断る理由はないわけか。じゃあ、ついでに治癒の練習にも付き合ってくれるとありがたいんだけど。」


エリスは再びこくっと頷いた。


このときはまだ、想像もしていなかった。

おれはこの後、驚愕することになる。

生死争う本物の戦場に。

そして、戦場での苛烈を極めた彼女の姿に。

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