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77話 思わぬ再会

「それで、まだ続ける?」


まんまと幻覚に陥った男がよくもまあぬけぬけと…なんて文句を言いたげなブルー。


「なに勝ち誇ってんだか。一度解けたくらいで調子に乗らないでよね。ピンクちゃん、もう一回だよ!」


「うん!」


再度、魔力がピンクから放たれる。だが、タネはもうわかっている。そう何度も何度も同じ手にやられるほど馬鹿じゃない。それにしても…ハル姉の太ももは白くてスベスベで柔らかい!


パカーンと痛快な音が響き渡る。ラビから二度目のビンタを頂いたようだ。しかも一度目より強烈な一撃を。


「やられてるじゃないですか。」


「ばかな!」


気づかぬ間に再び幻惑に囚われていたようだ。ラビが哀れむように目を細める。


「な、何さその目は!断じてもう一度膝枕を堪能しようだなんて…。」


「しようだなんて?」


「…。」


「続きをどうぞ?」


「くっ。あの魔法、不可避とでも言うのか!なんて凶悪な!」


ラビは呆れて鼻をフンと鳴らす。華麗に本音を誤魔化したつもりだが、通用していなさそう。それに白けた視線を送ってくるブルーと懸命に手を突きだすピンク。恐ろしくいたたまれない空間が出来上がっていた。


でも、仕方ないではないか。抗いがたい誘惑のせいで魔法を回避しようとする意思すら阻害されるのだから。ハル姉の膝枕は萬金に値するのだ。お金を払ってしてもらえるのであれば、おれは破産も辞さない。


とは言っても、回避方法がわからないのもまた事実。何が起こるかわかっていても、回避する手立ては持ち合わせていなかった。


「有効範囲は彼女の魔力が及ぶ領域全てです。」


ラビは心の声に答えるように、あっさりと教えてくれる。対抗策は反射的に理解できた。


三度目。ピンクの魔力が周囲の空間を蝕んでいく。ここでおれがとれる対抗策は二つ。一つはピンクから放たれる魔力から全力疾走で逃げること。正直こちらでもよかったが、体力の温存のためにはもう一つの方が都合がよかった。


「力勝負だ。」


おれは彼女の魔力が周囲を満たす前に、自らの魔力で押し返した。ここからは魔力の押し合いだ。先に底を尽きた方が負け。だからこそ、おれに負けはない。なんたって自分の特異体質はグレンのお墨付き。放出したと同時に同量の魔力が体内で生成される。


「うそ!?ピンクちゃんが魔力勝負で押されるなんて!」


焦るブルーの気持ちもわからないでもない。確かにピンクの魔力総量だけ見ればメタンフォードにも匹敵し得る。彼女が魔力の押し合いで負ける相手など、そんなに簡単に現れるとは思えない。だからこそ…


「相手が悪かったと言っておこう!」


さらに勢いの増す魔力の大瀑布をおれは難なく押し返した。


「そん…な…。」


やがてピンクは全ての魔力を出し尽くし、地面にヘナヘナと座り込んだ。肩を上下にさせ、疲労の色が見える。


「ピンクちゃんの魔力を圧倒しても変わらない魔力量…。意味分かんない。どこの化け物よ。」


「もう一度聞くけど、まだ続ける?」


ブルーは諦めの嘆息を吐き、参ったと言わんばかりに両手を上げた。


「はいはい。負けでいいです、負けで。こうさーん。一番強いピンクちゃんで勝てないなら、勝てるわけないじゃん。」


「え、それって…。」


「うおおおおおおおお!ふっかぁぁぁつ!」


おれが言葉を詰まらせた直後、第三者の雄叫びとともに背後から熱風が吹き荒れた。


「ぬぁにを勝手に敗北にしとるんだぁああ!」


目を向けるとレッドが再び立ち上がっていた。全身に炎を纏って。


「ヒーローとは、一度強敵に倒されても再び立ち上がるものだ!」


レッドはさらに熱量を上げ、炎を大きくする。


「それを…ブルー!お前は戦う前から降参などと!あってはならん!そこな悪漢無頼に、降参などありえぬっふぅぅんっ…。」


レッドの声が苦悶の唸りと共に不自然に萎んでいく。もちろん「ぬっふぅぅんっ…。」は気張った末に漏れ出た声という訳ではない。単におれが、視野が狭まっているレッドの背後に回って股間を蹴り上げただけのこと。


その痛みは想像に難くないが、原因となる張本人に同情されるのも迷惑かろう。故に黙って合掌。


笑いを堪えながら一連の出来事を傍観していたブルーは、おれと目が合うと清々しいまでのサムズアップ。おれもつられてサムズアップで返した。ここにある種の友情が芽生えた瞬間である。


「って、それでいいの!?」


「いいの、いいの。こいつ暑苦しいんだもん。」


「ええ…。一応仲間なんじゃ…。」


「片腹痛し。」


ブルーはニマニマした顔を抑えられないまま、慰めるようにピンクの頭を撫でた。どうやら本当にこれ以上争う気はないらしい。


「じゃあ、ここ通るけどいいかな?」


「あ、ちょっと待って。あの二人の所に行きたいんでしょ?」


あの二人とはもちろんエリスとガブリエラのことだろう。おれは首を縦に振る。すると、ブルーはよいしょと膝に手を付きながら立ち上がった。


「なら、ついてきて。連れてってあげる。」


「え?」


あまりに都合のいい言葉に驚きを隠せなかった。罠か、などとも思ったが敵意らしいものは感じられない。


「それとも道案内はいらない?私としてはそっちの方が助かるけど。」


「い、いや。お言葉に甘えます。」


「そ。」


ブルーは短い返事だけ返すと戸惑っているおれを背にして、屋敷へ向かって歩き始めた。おれは戸惑いながらも彼女の後ろを付かず離れずついていくのみだった。


暗い屋敷の中はおよそ人が住める状態にはなかった。壁は所々剥がれ落ちているし、床は埃や煤で真っ黒。廃墟のような景色の中、蝋燭だけが唯一の光源になっている有様だった。


「あの二人は一体どこに…。」


そうした疑問は自ずと解消されることになった。大広間を抜けた先の突き当りにある小さな書斎。ブルーはその中にある書斎机に敷かれた絨毯を捲ると床面に魔力を流した。


すると、床面がズルズルと沈み込み、大人の肩幅二つ分ほどの広さを持った地下への階段が現れた。


また、地下通路か…と言いたいところだが今回はガブリエラが造ったものではないだろう。それにしてもメタンフォードの邸宅といいこの屋敷といい、お金持ちはなぜ地下を造りたがるのだろうか。


ブルーは明かりが灯された階段をずんずんと進んでいく。おれは警戒心を強めながらも彼女の後ろをついていくが、罠や攻撃があるわけでもなく二人の足音だけが反響を繰り返した。


階段の終わりには木製の扉があり、これを通る以外に道は見当たらなかった。ブルーは迷わず木の扉を押し開いた。


驚いたことに、中は完璧に整理整頓された応接間になっていた。洒落た長机に細かい彫刻がなされた椅子。鮮やかな絨毯に壁面に並ぶショウケースには酒らしき瓶がずらりと並んでいた。


そして、屋敷の主人が座るべき席には、本来ここにいるはずのない、つい最近見知った年配の姿があった。初対面の時とは印象がガラリと変わっていたが、見間違いではないと思う。


「ミロワール村の村長さん!?」


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