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7話 与えられた名は

爆発する寸前、力づくで包囲から抜け出した。だか、あまりの発動の速さに、間に合わずいくらか体が焼かれる。


「は?本当に死ぬっ!」


焼かれた部位は腕と背中。いつもの工程で火傷を治す。爆発で巻き上げられた砂埃で周囲が見えない中、左方に新たな種火が出現。咄嗟に反対方向に跳び退いた先、地面に足がつくと同時に地面の下で魔力が蠢いた。


「地雷!?」


爆音が鳴り響く。反射的に地面を蹴り飛ばしたあと、空中で衝撃に身を任せながら吹き飛ばされる。身体に負担がかからない形で受身をとりながら地面を転がった。


攻撃は止まない。絶えず繰り出される爆撃からなんとか逃れているが、少しでも集中力を乱せば直撃は免れない。


「姉御の攻撃をここまで避けるか!」

「なぁ、開始からどれだけ経ってるんだ!?」

「もう、1時間はこうしてるぞ!」


視界の端に捉えた団員たちは驚いているような、戸惑っているような顔を浮かべている。正直、爆音を近くで聞きすぎて耳鳴りがする。何を喋っているのかは全く聞こえない。


いつまでも続くかと思われた試験の終わりは呆気ないものだった。そこには微塵も油断などなかったはずだ。


地雷を感知し、跳び退いた先が既に起動準備が整った爆撃地帯だった。成すすべなく、直撃を受けたのだ。爆発のエネルギーを前に軽々と吹き飛ばされる。


「誘導された!」


思い返してみるとグレンはいつでも止めをさせたのかもしれない。そう思いながら力の入らなくなった身体をそれでもなんとか持ち上げ、地に腰をつける。そのとき、カチッという金属音が微かに聞こえた。振り返るとグレンが取っ手のついた筒をおれの頭に突きつけていた。


「これはな、『銃』ってんだ。アタシがこいつの内部で小型の爆発を起こすと、その衝撃で中に詰まった鉛玉が飛び出る仕組みになってる。で、鉛玉はあんたの頭を貫通する。」


これって試験だよね!?なんて言える雰囲気では決してない。明らかに殺気と呼べるものを感じとり、体温が一気に下がった気がする。


殺される!どうする!?たぶん避けるより発動の方が早い!少しでも動けば頭に穴が・・・。どうしたらいい!?


「これで終いだね。よくもったとは思うけど・・・。さよなら。」


冷たく言い放つグレン。僅かばかりの魔力が一点に集まる。まさかとは思ったが、本当に発動させるようだ。


死を覚悟した。そして死の間際、希望にすがるように思いついてしまった。賭けだ。上手くいかなければ頭には穴が。上手くいったとしても二人とも無事ではいられないだろう。だが、生き残るためにはこれしか思い浮かばなかったのだ。


「・・・っ!」


突然、グレンは焦った顔で『銃』とやらを上空に放り投げる。しばらくして、『銃』は空中で爆散した。


「なっ、あんた!」


グレンは爆発を確認すると戸惑いにも似た声を発した。だが、既に彼女の視線の先におれはいない。最後の力を振り絞って死角に入り込み、彼女を押し倒した。


上にまたがり、両腕を押さえ込みながら覆い被さる形になってしまったのは全く意図していなかったことだけど。


「・・・。すごい力。全く動かせないよ。」


グレンは腕をほどこうと力を入れるが、押さえ込む力が強くて動かせない。諦めたようにくたっと力を抜いた。おれはその姿を見て、気が抜けてしまったのか急に全身から力が抜けた。


緊張の糸が途切れてしまったのだろう。そのまま倒れこんだ。何か柔らかいものがクッションとなったけど、意識が朦朧としていて何も考えられない。


「姉御ーっ!大丈夫ですか!?」

「なっ、こいつ姉御のむ、上でくたばってやがる!羨やま許せねえ。」


「あぁ?てめえは後でしばく!」


グレンは駆け寄ってくる男たちに相変わらずの返答。男たちは何が起こったのか気になって仕方がない感じだ。


「姉御、それにしても最後は・・・?」


「あぁ、こいつな。最後の最後でアタシに魔力を送り込んで、銃の中で起こす爆発を増幅させやがった。下手すりゃ共々危ないってのにとんでもねえことするもんだ。」


「本当に殺されると思ったんじゃないっすかね?姉御の殺気、まじ怖えから。」


「うるせぇよ。あの場面で、降参するかどうかの試験のつもりだったんだがね。足掻くどころか形勢をひっくり返しちまった。」


グレンは嬉しいそうにため息をつくと、横たわる少年の頭を撫でる。その瞬間、彼女の中で言い知れぬ感覚が膨れ上がるが、彼女はその身悶えるような本能的な感覚の名前をまだ知らない。


「だが、痛みに対する恐怖心が少な過ぎるのは心配なとこだな。ま、とりあえずようこそ。我らが『』へ。」


グレンが耳元に囁きかける。それは母が子どもに『おやすみ』を言うように。おれの意識はいよいよ消え去る。最後まで残っていたのは何度も頭を撫でられる感覚と柔らかなクッションの感覚だけだった。



目が覚めた後に聞かされたことだけど、どうやら治癒術士の試験は無事合格だったらしい。団員になる試験も兼ねていたそうで、そちらも問題なくということだ。


そのあと、グレンにネコババしていた仮面について相談すると『ああ、別にいいんじゃない?』と呆気ない返答だったので安心した。ついでにどうしても気になっていたことを聞いてみる。


「グレンさん。おれは資格取得を禁止されているのに大丈夫なんですか?」


「大丈夫じゃないな。」


「えぇ、じゃあどうするんですか!?」


『任せときな』みたいな返事を期待していたのがあっさりと裏切られてしまった。その代わりか、グレンから予想外の申し出があった。


「あー、あんたが嫌じゃなければなんだけどな?『ヒーロ』の名前をやろうと思っている。」


「ヒーロ?」


「あぁ、身内になった証としてな。だから、リュート・ヒーロとして生きていく。どうだ?」


一考する。団員としての証ならば受け取らない訳にはいかないだろう。しかし、どうしても譲れないものがあった。


「オーファンを名乗ることはできませんか?リュート・ヒーロ・オーファンとか。」


「んー、ちょっと不自然だがぎりセーフだ!」


グレンはひとしきり考えると、面倒臭くなったようで快諾してくれた。自然か不自然が何を意味するのかはわからなかったけど、グレンがセーフだというのだからいいのだろう。


というわけで、今日からおれの名前は『リュート・ヒーロ・オーファン』になった。ただ、余計な詮索を他人からいれられないように治癒術士としては『リュート・ヒーロ』として登録されるようだ。これで『リュート・オーファンの資格取得を禁じる』問題は解決ということになる・・・らしい。国にはグレンの信用書付きで申請されたらしく、問題なく受理されたそうだ。


ようやく治癒術士としてハル姉の力になる準備は整った。新たな名前を引っ提げて、仮面と資格証を手に意気揚々とギルドへと向かうのだった。

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