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5話 謎の男

そこには伸び放題の白い髪をこさえた男が座っていた。年は若く見える。20代後半といったところだろうか。


「ごめんなさい!すぐに出ていきます!」


「いや、いいんだ。僕が呼んだようなものだからね。」


「え、それはどういう・・・」


「それはそうと!君は、今何かに困っているんじゃないかな?」


図星をつかれ、身体がギクっと反応する。彼が一瞬ラビを見たような気がするが彼には見えているのだろうか。


「ええ、困っているというよりは、もうどうしたらいいか分からず戸惑っている感じですが。」


「そうかい、そうかい。それは大変だ。どうだろう。私で良ければ話を聞かせてくれないかな?私は情報屋をやっていてね、少しは力になれるかもしれない。」


男は明らかに胡散臭かった。それにも関わらず、どうしても今の気持ちを抑えられなかった。見ず知らずのこの男に、ことの経緯を話してしまった。


「そんなことが。それは困ったね。彼女を支える道が閉ざされてしまったわけだ。」


「はい・・・。」


「あぁ!なるほどなるほど。そういう状況か!面白い、すでに面白いよ!」


男はおれのこれまでの話を聞いた上でその反応をしているのだろうか。だとしたら、かなり感情に難があるんじゃないか?


だが、今のおれに怒る気力はない。男はひとしきり笑い終えると諭すように尋ねてきた。


「でもそれなら、少し難しいが仲間にしてもらうだけならできるんじゃないかな。」


「いや、今の話をどう聞いたら・・・」


「君はハルティエッタに嫌われている。治癒術士にもなれないしギルドにも入れない。」


なんだ、この男はおちょくっているのか?


口には出さないが、不満混じりに睨み付ける。


「だが、それはリュート・オーファンの話だ。」


「・・・あ、そうか。」


男の言葉を聞いてふと思いついたことがある。突拍子も現実感もないことだ。


「正体を偽ることができれば仲間になれる?」


「いいね。なかなか頭が回るじゃないか。」


「いやいやいや。ギルドの職員とかはなんとかなるかもしれないけど、ハル姉から隠し通すのは無理だろう。え、無理だよね?」


男は厭らしい笑みを浮かべている。普段なら殴ってやりたくなるような顔も今は女神のようですらある。


「できるの!?」


「おっと、情報屋としては少し話し過ぎた気もするな。最後にせっかくここまで来てくれたんだ。一つだけヒントをあげよう。」


餌をもらう直前の犬のように、食い入って男を見る。


「この街にはね、絶対に捕まらない指名手配犯が住んでるんだ。騎士団や自警団があらゆる情報網を駆使しても尻尾すら掴めないでいる。もちろん、スラムの人間や使い魔を使ってもダメみたいだね。でも、必ずこの街に住んでいる。」


「え、なんの話?」


「さ、今日はここまでにしよう。また会える日を楽しみにしているよ。」


「ちょっと待って。もう少しっ」


最後まで言い終える前に男がパチンと指を鳴らす。景色がグラッと揺ぎ、視界が暗転した。気付けば初めに入った脇道の前に立ち尽くしていた。


「いや、何もかもがさっぱりわからん。最後のは事実か?それとも何かの謎かけ?」


どちらともとれるような男の言葉はおれの頭を混乱させた。


「そもそも、今のは本当に現実か?」


ラビといい、今の男といい、自分の何を信じればいいのかそろそろわからなくなってきた。


「もうやだ。とりあえず今日は帰って寝よ。」



あれから新しい家主にそれとなく聞いてみると男の話は事実だったらしい。それでもあの男の意図を図りかねて、考え続けているうちに夜が明けた。とりあえずその指名手配犯とやらを見つけ出さないことには始まらないと思い、街を練り歩くことにした。


「にしても、村と違って色んな人がいるんだなぁ。いかにも『戦士』って感じのマッチョに、鎧を着込んだ二人組。あ、獣人なんて初めて見た!うわっ、あの人の仮面なんてやたら黒いオーラがダダ漏れてるし。大丈夫か?あの人、仮面に呪われてない?」


寝ていないせいか、少し高めのテンションで散策を続けた。ラビも一緒なのか耳の動きが騒がしい。美味しそうな匂いのする小洒落た飲食店に閉められた酒場。少し怪しげな道具屋、厳つい雰囲気の武器屋などなど、村ではお目にかかれない様相だ。


お昼時になると露店が増え、つい匂いにつられて蒸かし芋を一つ購入。大通りは朝に比べて賑やかさが増した。


夕暮れまで散策を続けていると、酒場や宿屋の明かりが目立ち始めた。目新しい物ばかりでさすがに気疲れしてしまった。暗くなったので家に帰ろ、と来た道を引き返す。


「はぁ、何やってんだろ。」


ぼそりと呟いてみる。すると、急におれの中で何気なく呟いた疑問が膨らんでいく。


「あれ、本当に何やってるんだ?最初は指名手配犯を探そうと思ってたのに、何普通に楽しんでるの!?」


ラビのため息が聞こえる。わかる。おれもため息をつきたい気分なのだ。


「そうだよ!指名手配犯を探さないと!あれ?そもそも、何で指名手配犯を探すんだっけ。」


そう言えばどうして指名手配犯を探さないといけないんだっけ。

情報屋との会話を思い出す。あの時おれは正体を偽る方法を知りたかった。その答えにたどり着くヒントとして指名手配犯の存在を提示したのだとすると・・・。


例えば、そいつは魔法で姿を変えることができるとか。ただ、おれに魔法の適性がないことを話した上で彼は不可能ではないと言ったのだ。まさか、犯罪者を仲間にして姿を変えてもらえ、なんてことは言わないよな。


「もしかしたら、魔法には頼らない方法があるのかも。そして、魔法でもないその手段はおれにでも使うことができる。ぱっと思いつくのは・・・。」


すぐ目と鼻の先にある怪しげな道具屋が視界に入る。


「魔道具か。」


つまり、魔道具を身につけたやつを片っ端から調べてみればいいのかな?あれ、待てよ。魔道具、魔道具、魔道具・・・。


「あ!今朝のあいつ!」


そういえば黒いオーラ漂う仮面をつけたやつがいたぞ!何であんなにあからさまに怪しいやつを疑いもしなかったんだろう!


慌てて近くの道具やに入ると、店主らしき小太りのおっさんが商品の魔道具をいじっていた。


「すみません!少し聞きたいことがあるのですが!」


「はい、なんでしょう?」


おっさんは見事なまでのキョトン顔で出迎えてくれた。


「この街でおかしな仮面をつけた人を知りませんか?」


「おかしな仮面ですか。あぁ!1人よく見かける方がいますね。」


「ちなみにその人の素顔とかはご存知だったりしませんか?」


「いや、そう言えば知りませんなぁ。あの人いつも仮面つけてるから。気にもしませんでしたよ。」


店主に礼を言い、店を後にした。家までの道すがら、得た情報について考えをまとめていた。


『気にもしませんでしたよ』か。つまり、自分の正体について興味を持たせないようにする魔道具と言ったところだろうか。はたして、そんな犯罪者に都合のいい物が存在するのだろうか。それに、店主の話だと指名手配犯が標的としている者は何れも・・・。


「リュート・オーファン。」


突然名前を呼ばれたので立ち止まる。背後から嫌な気配がする。こんなにも早いのかと驚いた。だっておれが王都に来たのはつい昨日のことなのだ。


「さすがに早過ぎない?」


「キッヒヒヒ。もう噂は聞いているみたいだナァ。」


振り返ると案の定、黒いオーラ漂う仮面の男が立っていた。王都に上京してきた孤児ばかりを狙う連続殺人鬼。

謎の情報屋「随分と早かったね。噂の中身を詳しく話さなかったのは些細なサプライズだと思ってくれたまえ。」

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