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27話 家を背負うということ

「改めて。アルダン・スオウ・アカルージュ。既に第一線は退いているけど、ある程度顔は効く。いつでも頼りにしてくれていいよ。」


予想以上に優しそうなお義父さんだった。大胆にガッハッハと笑っている感じかと思ったが、ニコニコと微笑むタイプの人のようだ。


「あ、あの。この度は養子として迎えて頂き・・・」


「あぁ、そんな畏まらなくてもいいよ。ささ。遠慮なく。」


机に置いたお茶とお菓子を勧めてくれる。


「食べながら聞いてくれればいいんだけどね?早速だけど選定について話しておくことがあるんだ。」


おれはお菓子にのびかけていた手を止める。選定の話となれば、お菓子を食べながらなんて気軽さではいられない。


「選定とは誰もが気軽に出られるものではない。」


お義父さんは優しい声色ながらも、真剣に話を切り出した。


「冒険者の場合はいい。失うものがほとんどないからね。だが、貴族は違う。選定されなければ家の恥、選定されても序列によって格付けがなされる。じゃあ、参加しなければいいと思うかもしれないが、しなければ臆病者のレッテル。理不尽極まりないがね。」


立場の強い貴族にとっては格を下げるリスクしかない反面、立場の弱い家は力を示すチャンスでもあるわけだ。強者を同じ土俵に引っ張り出して公平に格を決定するいい仕組みになっている。



お義父さんは現在次の選定にエントリーが確認できている者達の名前を並べた。その中でも有力視されているのは三人。



ドロー・メルフォンセ。

紺青の一族、分家のメルフォンセ家が長男。騎士団『海を裂く鰭(マーレ・スクアーロ)』の一番槍で水属性魔法の使い手。前回の選定で、惜しくも十二席の座を逃した。十三席が解放されていれば、この男がその座に就いていたと言われている。



エメラルダ・ヴァンヴェール

深碧の一族、本家のヴァンヴェール家の次女。さらには最強の剣士セルヴェールの弟子にして『天を背負う大翼(チェロ・アークイラ)』の一員。


そして、最後の一人がメタンフォード・ブラン。

今回の最有力候補だ。『大地を穿つ爪(テラ・タルパ)』の若き団長で『お立ち台の騎士』とも呼ばれている。由来は『最強の騎士は誰だ論争』でセルヴェールと並んで必ず名前があがる最優秀に数えられる騎士であること。加えて、土属性使いで地面を自由自在に操ることからその名で呼ばれることになった。


では、なぜ前回の選定で選ばれなかったのかと言うと、単純に参加していなかったらしいのだ。


メタンフォード率いるブラン家は紅の一族と黄金(こがね)の一族の間にできた家で、陣営としては黄金側らしい。ただ、純血から遠いため黄金の一族の中でも立場は弱く、専門としている錬金術も貴族界への影響が少ない。今回の選定で本格的に家の地位を上げるべく、気合いが入っているだろうということだ。



このように、選定とは一族を代表し家の格を背負う覚悟でなければ務まらない。おれではその意味の大きさを理解しきれはしないだろうが、どのみち目指すのはハル姉の配下。目指す場所はなんら変わらない。


「つまり参加するからには、結果を残せってことですね。」


お義父さんに眼を見られると、見透かされているような気持ちになる。本性、のようなものを探られた感じがする。


「とまぁ、脅かしてはみたが。なに。うちにはガーネットがいるからね。アカルージュ家はそれだけでお釣りが来る。気楽にとまでは言わないが、あまり気負い過ぎなくても大丈夫だ。」



試されたのかな、と思う。


貴族の(しがらみ)を聞いた後だと、グレンの存在がいかに反則級なのかが分かる。国の根幹に関わる国防のレベルを一つ上げているとまで言われている『紅蓮の暴姫(テスタロッサ)』。彼女が現役中はアカルージュ家の安泰は決まったも同然だ。


なんかとんでもない人に認められてしまったな、と今更ながら恐れ入る。



「よろしい。選定が執り行われるのは三日後だそうだ。今回はあまりこちらでゆっくりできないだろうが、今度またおいで。次はパートナーも連れてくるといい。」


さて、パートナーとはどちらを指す言葉だろうか。戦いのパートナーであればエリスになるし、将来のパートナーであればハル姉になるかもだし?まぁ、前者だろうけど。


「私はこれからガーネットと話すことがある。とりあえずこの館はもう君の家でもあるわけだから、好きに見て来なさい。」


おれが謝意を述べて部屋を出る直前。


「あぁ、一つ言うことを忘れていた。」


お義父さんはわざわざ席を立ち、扉の前で待つおれの肩に手を置いた。グレンには聞こえない大きさの声で。


「家族とは言っても血は繋がっていない。もしガーネットに変な気を起こしたら・・・。」


言葉はそこで途切れる。表情こそニコニコしているが、声はかなりヒンヤリしていた。





「彼、いい眼をしていた。ガーネットが惚れ込むのも分かる。それにしても驚いたよ。まさか娘からの初めてのお願いが『養子をとってくれ』だなんて。」


「しょうがないだろ。こればっかりはアタシではどうもしてやれなかった。」


絶対に他人には見せない、父親にだけ見せる拗ねた表情というものがある。


「今まで自分の矜持を曲げてでもどうにかしようとしたことがあったかい?」


「悪いか。」


「いいや。誇らしいよ。」


何が、とは言わない。娘が人のために矜持を曲げられる人間に育ったことかもしれないし、娘からの初めてのお願いに応えることができたことかもしれない。


なんにせよ、二人の間に確かに有ったある種の気まずさがあの少年のお陰で少しだけ解消されたような気がする。


娘の頭に手を伸ばすと以外とあっさり届いた。少しだけ昔の素直さも戻ったみたいだ。



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