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25話 紅の名家

伏線回収回!

『アカルージュ』家


紅の血統、宗家。攻撃力最強の騎士団『燃える鬣(ソルレオーネ)』擁する貴族界頂点の一角。当主は国家軍の総指揮を執る名将、次男は『燃える鬣(ソルレオーネ)』団長。さらに長女は『猛る双頭の番犬(オルトロス)』の団長であり国内最強と噂される『紅蓮の暴姫(テスタロッサ)』という規格外の人物を排出する名家だ。今や国家戦力の半分を担っていると言っても過言ではない。


「いや。なかったと言うべきだ!今となっては目下、最大勢力は間違いなく国王直属特務部隊だろう!」


グレンがきっぱりと断言する。


「すみません。色々と理解が追い付いていないです。グレンさんやフラムが貴族?特務部隊ってなんですか?それで、なんでおれが貴族に?」


疑問が多過ぎて状況が飲み込めない。


「まぁ、隠していた訳ではないがアタシとフラムは今言った通り貴族だ。一応な。むしろ今まで知らなかったことに驚いてるよ。」


さすがのグレンもおれの世間知らずさに珍しく戸惑っている。自分で貴族と名乗ることに抵抗があるようにも聞こえた。


「んで、ああ!特務部隊の話は機密事項だったが・・・。まぁ、いいだろ!あんたはどうせ知ることになるだろうし。それは追々説明してやるよ。」


「はい。ぜひお願いします。」


「それで最後の質問が・・・」


「おれが貴族ってどういうことですか!?」


いきなり降って湧いた一筋の光にすがるように身を乗り出す。


「一度、説明してたと思うんだがなぁ。アタシが持っている冠位が我が家で実質最高位の『紅蓮』、フラムが第二位の『深紅』。そして、あんたには名をやっただろ?」


つまり、彼女らのミドルネームはその家での冠位を表していたわけだ。そして、おれがもらった名は・・・


「『緋色(ヒーロ)』ですか。」


緋色。やや黄色がかった鮮やかな赤。純粋な赤ではないということから純粋な血統ではないことを意味しているのだろう。だが、おれはこの名前を気に入っている。だって『ヒーロー』みたいじゃないか。


「でも、そんな説明受けてないですよ!」


「あれ?名をやるときに『身内になった証として』って言わなかったけか?」


あ、そういえばそんなことも言っていた気がする。


「てっきり『猛る双頭の番犬(オルトロス)』団員としての証かと・・・。」


グレンが腹を抱えて大胆に笑う。


「あんた!可笑しいとは思わなかったのか!?自警団は仕事だよ?仕事のために自分の名前を変えるって。そんなことある分けないじゃないか!」


反論の余地もない。言われてみれば当然のことだ。おれが孤児であり、名字に対する認識が弱かったことを差し引いても、確かにおかしい。思い返すとただただ羞恥で身悶えする。


グレンは笑い終えると、片方の掌を立てて謝罪の意を示した。


「はぁ。でも悪かったねえ、説明不足で!」


「いえ!全然悪くないです!それどころか、とてもありがたいです!」


おれはグレンが立てた掌を両手で握ってぶんぶんと上下に振る。


『なっ、気安く姉様に触れるな!』というフラムの声など、今のおれの耳には入っていない。『僕はまだ、お前を家族だなんて認めてないぞ!』とも言っている気がするが、そんな事はお構いなしである。


おれは期せずして、勇者メンバーの選定に参加することができるのだ。このチャンスをくれたグレンには感謝してもしきれない。たが、どうしてもこの疑問にぶつかる。


「でも、どうしてそこまでしてくれたんですか?」


「アタシがあんたを気に入ったからさ。簡単な話だろ?」


グレンは即答。確かに以前にも同じように『気に入った』と言ってくれてたのを覚えている。だけど、そんな簡単な理由で貴族としての名前まで授けようとなるだろうか。


グレンはおれの疑問を察してか、少しだけ真剣な口調で理由を並べた。


「アタシはね。強いやつが好きだ!それは腕っぷしの話だけじゃない。人間としての芯の強さ、生き抜く強さ、絶体絶命を前にしても尚折れない心の強さ。その全部だ。そして、リュート。あんたは全て持っている。」


グレンにここまで持ち上げられるとは思っておらず、言葉に詰まる。なんと言えばいいのだろうか。


「それにね。アタシは何も感情だけで決めている訳じゃない。あんたの才能とその特異体質は、他にやるには惜しい代物だ。」


その言葉を聞いて、嬉しさはさらに膨れ上がる。内面を気に入られるというのは確かに嬉しいことだ。だが、他でもないグレンに実力を認めてもらえるということが何よりも嬉しかった。


でも。待った。おれがそこまで言われるほどのものを持っているとは思えない。心当たりがほとんどない。


「待ってください。才能?特異体質?何のことですか?」


グレンの鋭い目が、驚きで少しだけ大きくなった。


「な、あんた本気で言ってるのか?」


「本気です。確かに『強化』には多少自信ありますけど、筋力への変換だったり他者への治癒術はまだ課題が残ってます。」


グレンはフラムと見合った。信じられないもの見ているような動揺が見てとれる。おれの言葉を真実として受け取っていいのか判断できていない感じ。


「リュート、まさにそのことだ。」


フラムが低いトーンで指摘する。


「まず、一つ確認する。お前は『感知者(ソーナル)』、つまり魔力を感知できるか?」


「できる。」


フラムはその答えを聞いて納得したように頷く。


「そもそも魔力を感知できる者は多くない。僕が知る限り姉様を含めても片手で数えるほどしかいない。かくいう僕も感知できていない。」


その言葉を聞いて唖然とした。魔力を感知できない?ではどうやって魔法を使っているんだ?


「もしかしてエリスやアサヒも?」


二人を見ると両者首を縦に振っている。つまり、答えは『イエス』だ。


「じゃあ普段、魔力の操作ってどうやってるの?」


「僕たちは操作なんてしていない。『意識を集中させる』『雑念を取り払う』『魔法をイメージする』。これらを『精神的行動』と言うがそもそも何も感じられていない。」


つまり、フラムいわく『魔力』とは『エネルギー』ではなく、『エネルギー源』なのだ。物理的に例えるのであれば、筋力による『エネルギー』を感じることは出来ても、『エネルギー源』となる体内の糖分や脂肪を感じることはできない。そういうことらしいのだ。


「そして、魔力が何かしらの効果を発揮することで熱や光といった形で現れる。ついでに、体内魔力の減少は疲労や集中力の低下として認識できるようになる。」


要するに、普通の人は魔力を感じ取ることができないということだ。だが、難しい話は今のおれでは理解できまい。


「それでだ。あんた、魔力量は?」


グレンはパンと手を一度叩くと、話題を変える。


「確かBクラス相当です。」


普通の人よりは多いが、腰を抜かすほどではない量。


「そのクラスでは中級魔法を上級魔法並みに昇華させたり初級魔法で上級魔法を相殺させるほどの『強化』はそう乱発できないはずなんだ。だが、あんたはやってのけた。」


一呼吸おいてグレンは続ける。


「それがあんたの特異体質。『感知者(ソーナル)』のアタシだから分かる。体感的に、あんたは体内魔力の生成速度が常人の千倍を優に越えてるよ。」


確かに言われてみて初めて気がついた。おれは魔力量とは最大出力を指し示すものだと思っていた。なぜなら今まで魔力は消費したそばから急速に回復し、すぐに最大値まで元に戻るものだと思っていたから。


「その域になるとな、魔力量が無限にあるに等しい。アタシの陣営に引き入れる理由としては十分だとは思わないか?」


グレンがふっ、と笑うと場の空気が少しだけ緩む。


「ま、あんたに『緋色』の名をやったのは、あんたが『勇者の仲間になる』と言っていたからだ。それが必要になると分かっていたからな!」


おれは全ての話を理解できたわけではなかったが、理由についてはなんとなく納得した。そして分かったことが一つある。にかっと笑うグレンはまさに女神であるということだ。


『女神か。』と呟く俺に『当然だ。』とフラムが答えたのだった。

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