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22話 現実

勇者とは色んな魔物を倒して、色んな道具を手に入れて、最後は魔王を倒してこの国に平和をもたらす者。本気でそう思っていた時期が私にもありました。


そしてあの日、私は勇者になった。表向きには。現実はそんな絵本のようにメルヘンではなかったらしい。


『国王直属特務部隊 隊長』


これが実際に私に与えられた役職の名前である。表向きにはギルドの大型任務にて遠征中と発表されているがとんでもない。副都『ヴァイス』の統治が私達の主な仕事。


絵本では勇者は後に王様になるとあったけど、そこだけは馬鹿にならず、まさに一都市の王様だ。


実務者は私ではないので、基本的には承認印を押したり大型の魔物の討伐の指揮だったりと、せっかく磨いた力も見せ所が全くない。来るべき時が来たら、との話なのでそれまではこの生活が続くのだろう。


特務部隊の構成員は私の他に十二人の精鋭とそれぞれの副官。私の副官は『勇将グラン』『治癒術士ティーユ』、十二人の精鋭には『剣士セルヴェール』を筆頭に騎士や名を馳せた第一級冒険者が名を連ねている。


もちろんその中にリュートの名前はない。そして、それが一番の問題なのだ。ヒノボリ村を出て以来、リュートには一度も会えていない。リュート成分が足りていないのだ。


「リューくん、会いたいなぁ。」


口に出すと切なさで胸が苦しい。あ、涙出そう。


もちろん会えないように仕向けているのは私だ。リュートが治癒術士を目指していたのは知っていたため資格を取れないようにした。ギルド会員になることも禁じたのでギルドの依頼も受けられないはず。まさか、フリーランスで依頼を受けるなんて無謀なマネはしないはず。え、しないよね?


どれもこれもリュートが危険に晒されることがないように。心苦しいけど、腹をかっさばき血涙を流すほどの覚悟だった。


「リューくん、リューくん、リューくん…。」


なんであのときリュートの同行を断ってしまったのだろう。こんな体制になっていると知っていたら、副官にでも下働きにでも、何でもいいから任命してたのに。


しかも、心にもないのに『嫌い』なんて言っちゃった。あの時のリュートの顔を思い出すと自分で自分を殴りたくなってくる。代わりに、壁に自分の頭を打ち付ける。


私はあの日を絶対に忘れないし、

あの時の私を一生許さないだろう。


今、リュートは15歳。早ければ結婚していてもおかしくない歳だ。


「リュートが他の娘と…。結婚…。」


想像するだけで、その世界を滅ぼしたくなる。なんとか自我を押し留めるため、頭をさらに強く打ち付ける。


「あらあら、また始まってしまいましたね。『リュート欠乏症』。」


困ったようにティーユが頬に手を当てている。


「なんだ。また始まったか。嬢ちゃんもなかなか一途だのぉ。ワシがあと20年若ければなあ。」


「グランさん。それ、セクハラです。」


「ガッハッハ!」


ティーユが(なじ)るように指摘すると、グランは大笑いで受け流してしまう。そんな二人をみていると、もしこの歳で本当の両親が生きていればこんな感じなのかな、と思ってしまう。


私にはシスター以外に親と呼べる人の記憶がない。どうやら、本当の両親を失ったときのショックで記憶を無くしてしまったらしいのだ。


ふと我に返ると急に恥ずかしさから顔が熱くなる。


「紅いわねぇ。」


「紅いのぉ。」


などとやりとりをしている内にバン、と執務室の扉が勢いよく開いた。


「急報です!」


連絡者の慌てた声に身を強ばらせた。彼の様子からするにただ事ではなさそうだ。


「入る前にはノックだろ。礼儀を知らんのか。」


グランが厳しい顔つきで連絡者を睨む。


「ヒッ、も、申し訳ございません!」


グランの睨みは非常に威圧的だ。見慣れている私ですら気圧されてしまうほどだ。連絡者の彼では、化け物を前にしているのと同じくらい。いや、それ以上の恐怖を覚えているだろう。お気の毒に。


「で、急報とはなんだ。」


「はっ!申し上げます!第七席 ザンデル様並びにその副官二名が遺体となって発見されまさした!」


「なんだと!?」


グランの低い声が執務室の空気をヒリつかせる。これは緊急事態だ。毎回、特務部隊から死者は出るというが、それは三匹の怪物や魔王の討伐時に限ってのことだ。


特務部隊には『紅蓮の暴姫(テスタロッサ)』や各騎士団の団長を除けばこの国最強クラスが集まっている。それが突然、死んでいましただなんて通常考えられない。


「うむ、わかった。では第四席に死因の調査を。我々は王都に出向いて特務部隊の補充を国王に進言する。それでどうでしょう、ハルティエッタ様。」


使者の前という事で畏まった口調だ。


「いいでしょう。使者の方、申し訳ありませんが全隊員にその旨、伝えていただけませんか?」


「はっ!かしこまりました!」


そう言うと使者は踵を返し去っていった。


「嬢ちゃん、もう少しなぁ・・・。」


「威厳、ですよね?でも、やっぱり私にはそういうの向いてないんです。」


「だからと言ってなぁ。」


「まぁまぁ。いいじゃないですか。私はハルちゃんのそういうとこ、好きですよ。」


ティーユが後ろから私の肩に優しく手をのせた。私は使者に対してもなかなか命令する立場として振る舞えない。だから、私はお願いするのだ。


「はぁ。仕方がない。だがのぉ、十ニ席の件はそろそろ考えてほしいのだがの。」


「そう、ですよね。私のワガママで席を空けてはもらっていますが・・・。」


そう。本来、特務部隊の精鋭は私を除いて十ニ人。そこを私が無理を通して一席空けてもらっていたのだ。でも、状況が状況だ。もうそろそろ心を決めなければいけない。


「わかりました。次で第十二席の選定もしましょう。」


「悪いな、嬢ちゃん。こればかりは国を護るためだ。」


「いいんです。じゃあ、早速支度をしましょうか。出発は明日の早朝。それでいいですよね?」


こうして私達はいつぶりかに王都に戻ることになった。



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