4 家族という繋がり
暗いのか明るいのかよくわからない展開。
がしゃん!僕の作ったスープが皿ごと地面に落ちる。目の前のお祖母様は明らかに怒っており、そのまま勢いよくビンタされる。あまりの勢いに思わず倒れそうになるがなんとか踏みとどまるとお祖母様は鋭い視線で言った。
「使用人みたいな真似はよしな。あんたはメダル侯爵家の当主になるんだからこんな貧乏くさい真似はよしな」
「申し訳ありません」
そう頭を下げると、お祖母様は鼻をならして言った。
「まったく、これだからあの悪女の子供は」
「すみません。ですが、母さんは関係ありません。僕が全て悪いのです。ですのでどうかお許しください」
「・・・なんでって、あんな女を庇うんだい。そんなにボロボロになってまで」
そう言われてから僕は言うべきか迷ってから言った。
「僕が母さんを嫌いになったら誰が母さんを愛してくれるんですか?」
「あんな女誰も愛しちゃいないよ。あの女自身あんたが憎くて仕方ないんじゃないかい」
「それで構いません。僕を憎むことで少しでも元気になれるならそれでいいんです」
そう言うとお祖母様は一瞬だけ何かを言いかけてから止めて言った。
「・・・気分が悪い。部屋に戻るよ。あんたは今日からきちんと貴族として学ぶこと」
「はい。必ずご期待に答えてみせます」
「ふん・・・」
部屋から出ていくお祖母様。割れた食器を片付けようとする侍女さんに近づいてから僕は頭を下げて言った。
「すみません。食器を割ってしまって。僕がやります」
「ら、ラルス様、いけません!危ないです!」
「いえ、代わりにやりますのでお願いしたいことがあるのです」
「なんなんだい、あの子は・・・」
自室に戻ってから、先程の言葉を思い出す。あれだけやっても、あれだけやられてもそこにはまるで、何かあるかのように信じている純粋な意思に思わず引き下がってしまった。
別に、ラルスが使用人の真似事をしようとも、ある程度なら見逃すつもりだったのについつい熱くなってしまった。そのことに少しだけ罪悪感が出てくると、不意にノックが聞こえてきた。
『大奥様。よろしいでしょうか?』
「入りなさい」
失礼しますと、入ってきたのは先程食堂にいた侍女の一人。彼女は何やら包みを持っておりそれを持ちながら悲しそうに言った。
「大奥様。ラルス様からの差し入れです。捨てても構わないから持って行って欲しいと頼まれました」
「なんだいそれは?」
「おそらく、ハーブのクッキーでしょう。庭師からハーブを貰ったと言っておりましたので」
「ふん・・・」
それを受け取ってから、何故だか反射的に一口食べてしまう。仄かなハーブの味わいに少しだけ落ち着くと、侍女は悲しげに言った。
「大奥様。無礼は承知で進言いたします。もう少しだけラルス様を優しく受け入れてはいただけませんか?」
「なんだい急に」
「無礼は承知です。ですが、私は辛いです。一途に大奥様のために尽くそうとするあの姿を見てしまうと」
「ふん、そんなに心配なら、あんたがあのポンコツの世話をしな。元々あのポンコツには専属の侍女なんていやしないんだからね」
その言葉に侍女は口をきつく結んでから頭を下げて出ていく。それを見てからクッキーをもう一口食べて呟く。
「本当に・・・わけわからないよ」
侍女さん達に混じって掃除をしていると、お祖母様への言伝てを頼んだ侍女さんが帰って来た。僕はその侍女さんに近づくと笑顔で言った。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ。あの・・・ラルス様。私があなたの専属侍女になってもよろしいでしょうか?」
「僕のですか?はい。僕なんかでよければお願いします」
「ありがとうございます。私の名前はシャロンと申します」
侍女さん・・・シャロンさんは何かを言いかけてから止めて、別の言葉を口にした。
「あの・・・ラルス様。ラルス様は大奥様のことをどうお考えですか?」
「お祖母様ですか?とても優しい人だと思います」
「優しいですか?」
「はい。だって、嫌いなはずの僕を必要だからといって引き取ってくれた人ですから。それに僕にとっては、お祖母様が僕を嫌いでも、僕はお祖母様を尊敬していますから」
そう言うとシャロンさんは頷いてから言った。
「私はあなたの味方のつもりです。ラルス様」
「?ありがとうございます」
どういう意味かはわからないけど、こうして優しくしてくれるのは嬉しいので微笑んでおく。