魔王と2人の勇者④
「うう・・・は!・・ここは・・俺は生きているのか」
ウィンは見知らぬ場所で目が覚めた。
「俺は森の主と戦って負けたはず、どうなっているんだ」
ウィンの体はまだ痛みは残るものの傷はほとんどが治っていた。
「あっ目が覚めたんですか、魔王様、冒険者のお兄さんが目を覚ましました!」
ウィンが部屋の中を観察していると、10歳くらいの黒髪の少年が入って来て、こちらを確認すると、すぐに外に出てしまった。
「ツタの家?それに今魔王って」
ウィンは取合えず起き上がり、ベッドの側に置いてあった剣を取ってから外に出た。
「ここは漆黒の森の中なのか?」
自分が何度か漆黒の森に入った経験を思い出す、森の主以外にも多くの危険な魔物がいる森だが、そのほとんどが縄張りを持つため比較的安全とされているルートもあるので、運搬の護衛などでなんどか入っていた。
確かに漆黒の森が持つ独特な雰囲気は感じるが、辺りから危険な魔物が放つ殺気などの気配はまったく無かった。
「あっ冒険者のお兄さん、僕アイルって言います、大活躍だったらしいですね、あの森の主を何時間も足止めしたんですよね、すごいなー。あっ、いけない、魔王様から連れてくるように言われていたんだ、こっちに来て下さい」
「ああ、魔王?」
この世界にも魔王と呼ばれる存在はいる、かつてこの世界を滅ぼしかけた邪悪な存在、だが勇者が現れその魔王を封印してしまったという、よくあるおとぎ話だ。
そんな存在が漆黒の森に居るなどという話は聞いたことも無く、もし居れば大騒ぎ所の話では無い、つまりこの世界での魔王はおとぎ話の中の存在でしかない。
歩いていった先に見覚えのある男がいた。
「貴様は野次馬の男!」
戦いの準備をしている時、戦いのさなか、そして戦いの結末、いたる所で現れてはちゃちゃを入れてきたベリアルが、白いテーブルの前の白い椅子に座り、同じ様に紅茶を飲んでいた。
「やあ勇者君、お目覚めはどうかな?体はもう大丈夫なのかい?」
「ああ何ともないけど、あんたが直したのか?」
ウィンに取って理解できない事が多い現時点で、その全ての答えを知るであろう人物は、もう目の前の男、ベリアルしか考えられなかった。
「いや私の部下にやらせようかと思ったんだが、エルフ達が是非自分たちで助けさせてくれと懇願するからね、彼らにやらせたよ、後でお礼を言いに行くと良い、彼らも君に感謝していたよ」
「そうなのか、分かったそうするよ・・。色々分からないんだが、まず、あんたは何者なんだ?」
兎に角ウィンにとっては情報が欲しい、目の前の男ベリアルは何一つ隠す様子を見せないので、素直に一つずつ疑問を投げかける事にした。
「私かい?私はベリアル、なにただの野次馬だよ」
「魔王なのか?」
「確かに前の世界では魔王だった事もあったが昔の話さ、今は引退してここでのんびり過ごしているよ」
ウィンは疑問がいくつか浮かんだが、先に気になる点からつぶしていく事にした。
「森の主はどうなった?」
「ヘビ君の事かい?彼とは話し合いの結果、元エルフの村があったあの場所を彼の新たな縄張りにする事になったよ」
「話し合い?」
「人間の言葉は話せないが、知能は高かったからね、意思疎通は難しくなかったよ、それより今回の事はすまない、私のミスだ」
「なんの事だ?」
「いやね、最近私はこの森に住み始めたのだが、どうやらこことヘビ君の縄張りが近かったらしくてね、私たちに警戒したヘビ君が私から距離を置く為に新たな縄張りを探す事にしたそうで、それが原因で今回の事件が起きたようだ」
「じゃあやっぱり、お前が犯人じゃないか!」
「いや私も驚いたよ、まさか直接関わらずとも存在するだけで影響を与えてしまうとは思わなかったよ、これからはもっと気を付けねば」
ベリアルのまったく反省を感じさせない態度に、ウィンは少しイラつく。
「あそこに住んでいたエルフ達をどうするつもりだ、あそこのエルフは部族間の争いに負けて、仕方なく危険な漆黒の森の端で暮らしていたんだぞ」
「だから今回の件は、一部は私にも非が有るのは認める、だから新しい村としてこの場所を提供しよう、そういう事で話は着いた」
「この場所って、ここも漆黒の森の中なんだろ?」
「ああそうだとも、だがこの森で一番安全な場所だ、なにせこの私がここにいるのだからね、森の主ですらここには近づかないし他の獣もある程度の知能が有ればここへは近づかないだろう。なに私の事なら心配するな、私の領地はこのテーブルとイスが有ればいい、紅茶をゆっくり飲むこの場所さえあれば私は問題ない」
ベリアルはそう言うと、とても美味しそうに紅茶を飲んだ。
「だれもあんたの心配はしてないよ、勝手に原因を作って勝手に解決して、俺は戦い損かよ」
「そんな事はない、君ともう一人の勇者が居なければ、私は彼らを救いはしなかっただろう」
「もう一人の勇者?」
ベリアルは楽しそうに話を続ける。
「君をここまで案内してきたアイル君だよ、彼は君が戦って時間を稼いでいる間に、エルフ達をここまで誘導して来たんだ、もう一つのエルフの村は彼らを森の主への生贄にするつもりだったようだから、反対側に逃げていれば助かる所か殺されてただろうね」
実際あのエルフの村は、エルフの部族間の争いで負けた一族であった。森を追われたエルフだが、自然と共に生きる彼らにとって人間の町などでは暮らせなかった。
仕方なく漆黒の森の端とはいえ危険地帯の中で暮らす事を余儀なくされていたのだ。
「それにもう一つ、エルフ達をここに住まわせて欲しいと頼んだものアイル君だ、「別に手を貸さなくてもいい、ただここに住むだけで関わらなくていいから」と、なかなか私の事を理解している、私が無意識に森の主へ影響を与えた様に、逆にそれを利用して安全なスペースにエルフを住まわせるとは、彼もなかなか考える」
その時の勇気と決意に満ちたアイルの顔を思い出し、ベリアルは嬉しそうに笑った。
「そうか、良かった、村は無くなったけど皆無事に生きて行けるんだな」
「ああ、君とアイル君が戦ったからこそ手にした勝利だ、エルフ達にとって君達二人は勇者だよ」
ベリアルは大げさに手を広げ、2人を讃えた。
「勇者か・・俺はまだまだそれを名乗るには力不足だな」
「そんな事はない君も言っていたでは無いか、「勇者とは勇気ある者」だと、私は君たちを勇気ある者と認めたからこそ、願いを聞いたんだ、そうでなかったら見捨てていたさ」
魔王ベリアルのその言葉にウィンは背筋が凍った、実際にこの男なら、そうしたのだろうと確信の様な予感がしたからだ。
「半分以上あんたのせいな気がするけど、一応礼は言っとくよ、ありがとな」
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