魔王と少年②
※少年視点です
「ここは・・・」
黒髪の少年が眼を覚ますと、緑の天井が広がっていた。
植物のツタが編みあがるようにし壁と天井を作り出している。
「そうだエミ!」
少年は妹の事を思い出し慌てて、ツタで出来た家から飛び出す。
そこは少し開けた森の中に、白いテーブルと白い椅子が置いてある不思議な空間だった。
「やあ目覚めたか少年、君の妹は君より1時間も早く目を覚ましたというのに、いつまで寝ているつもりだい?」
中心にある白い椅子に座った男がこちらを向いて話しかけてきた。
「あのう・・ここは・・そうだ僕の妹を知りませんか?」
聞きたい事はいくつもあったが、自分が最も大切にしている妹の安否を確認するのが、何より先決だと思い、目の前の男に尋ねる。
「ここは私の領地といった所かな、君を私の部下として歓迎しよう。妹の方はすぐに来るよ、ほら」
男が顔を向けた方から女の子が一人走って来た。
「お兄ちゃん」
「無事なのかエミ」
妹が生きている事に安心し胸をなで下ろす、そんな少年にエミは赤い果実を渡す。
「うん、はいこれ、お兄ちゃんの分だから食べて」
「なんの実だこれ?・・・すごく美味しい」
口に入れた赤い果実は、シャリッとした触感の後に甘い味が広がり、少年が食べてきたどの果実より美味しかった。
「気に入ってくれて良かったよ、それは私の世界でよく食べられていた果実で、リオの実と言う、この世界でも上手く育ってなによりだ」
「育ったって・・・なんだこれ!」
妹の無事が分かり少し落ち着いた少年はあたりを見回すと、先程自分が寝ていた植物のツタで出来た家が建ち、その後ろには先程食べたリオの実が沢山なっている大きな気が生えていた。
そして家前にはスカートとローブを纏ったスケルトンが1体立っていた。
「これは君たちの食事用のリオの木と、君たちの寝床となる家さ、そしてそこのスケルトンは君たちの世話係だ、名前はなんと言ったかな?」
「エリザですベリアル様」
どこからともなく現れたメイドがベリアルと呼ばれた男に答えた。
「有難うアルドラ、そうそうエリザだ、君たちと同じ村出身なのだろう?」
さも当たり前の事の様に言うベリアルに少年は少し恐怖心を感じ始めた。
「そんなエリザお婆ちゃんは死んだのか、しかもこんな骸骨にするなんて、なんて酷い事をするんだ、何者なんだよお前」
「命の恩人にその言い方はないだろう、私の事なら最初に名乗ったはずだが、だがあの状況では覚えて無いのも仕方ないか、では改めて私はベリアル、前の世界では魔王をしていた」
「魔王・・」
「スケルトンに関しては事前に了解は取っている、老婆のまま生き返らせても直ぐにまた死んでしまうからね、喋れなくなったりと不便もあるがスケルトンの方が都合がいい」
「そんな了解なんて取れるはず無いだろ、エリザお婆ちゃんは死んだんだぞ」
「それが出来るのがアルドラだよ、彼女は死んだ者とも会話が出来る、何百年も経ったミイラならともかく、死にたての死体など、彼女には生きているのと変わらんよ」
「そんなバカな事が」
「まあ余り怖がってやるなよ少年、本人とも君たちが成人するまで面倒をみるという契約で生き返らせたのだ、仲良くしてくれ」
スケルトンとなったエリザをみると、優しく手を振ってくれた。
「じゃあこのツタが絡まって出来た家はなんなんだよ」
「よく出来ているだろ、使い魔に君たちの村まで様子も見させ、それを基に私が作ったのだ」
「作った・・」
「私が得意とするのは魔法は土属性でね、土や鉱物や植物に関わる事で私に不可能はほぼない、まあ私レベルになればその他の属性魔法も一流と呼べる水準で使えるがね」
「そんな事・・・ありえない・・・」
自分のこれまでの経験で理解出来ないことが立て続けに突きつけられ、目の前の男が魔王なのだと、自分には理解できない高位の存在なのだという現実を受け入れるしかなかった。
「さあ少年、私は名乗ったのだ次は君の番だよ、名はなんと言う」
「アイル、俺の名前はアイルと言います」
少年はまっすぐ魔王ベリアルを見つめて話す。
「アイル・・いい名前だ、それではアイル君、そこのスケルトン・・えっとエリザからだいたは聞いたが君の口からも、君たちの事、この世界の事を教えてくれるかな?」