プロローグ①
とある国,とある城の奥,部屋には二人の男が向かい合って座っている。
本来広い部屋のはずだが、多くの実験器具が置かれそれを感じさせない暗い部屋。
「ああ~、私はなんて愚かなんだ。そう思わないかローレンス?」
若い方の男が話しかける。
オールバックに色の薄いサングラスそしてタキシードの様な服を着る男。タキシードは高級な素材で作られており、かなりの地位を持って要ることが分かる。
発する言葉とは裏腹に顔には自信が溢れ、対面する自分より年上で有ろう老人にも対等以上の態度で接している。
「君が愚かだと?この大陸に存在する全ての国をまとめ、平和な争いのない世界を作った君がか?冗談はよしてくれ、君ほど優秀な男をワシは知らないよ」
分厚いローブを纏う老人が答える。
この老人も衣服や振る舞いからかなりの地位を持つことがうかがえる。
「そう、そこだよローレンス、私はこの世界を誰よりも楽しみたくて魔王になった、確かに全ての国をまとめる為の交渉や戦争は楽しかった、そこに後悔は無い。だがしかし今はどうだ、争いも無く平和な日常が続く世界の何処に楽しみを見出せばいいのだ」
魔王と名乗った男は自信満々に自らの功績の話をする。
「なにが不満なのだ、平和であることはよい事ではないか、民は安心して暮らし、経済は発展している、ワシは好きな魔法研究をここで好きなだけ出来る、君に魔王の地位を譲ったのは間違いではなかったと、ワシは自信を持って言えるがね」
老人は難しそうな顔をして答える、この男が何の意味もなく世間話をしき来たわけでは無いと理解しているローレンスと呼ばれた老人は真意を確かめようと、問答を進める。
「もちろん、魔王の地位を譲ってくれた事に関しては今でも感謝しております、しかし、魔族とは己の欲望に忠実なもの。私はね、ただ口を開けて待っていれば平和が降ってくると、安心して暮らす民や部下を面白いとは思えない、自らの命を掛け全力で挑む、そんな時に見せる輝きが私は好きなのだ」
ローレンスも彼とのやり取りに馴れているのだろう、演技がかった彼の話し方を気にもせず、普段通りに語り掛ける。
「なるほど、それで何故その様な話をワシに?国を半分に割って争いでもさせる気かね?」
男は少しばかりニヤリとして椅子から立ち上がり答える。
「いくら私でも、自ら作り上げた国には愛着がある、また仮に二つに割って争わせても、私の道楽に付き合う兵士達は、真剣には戦わないだろう、そこに私の求める物は無い」
身振り手振りを使い、まるで舞台に上がった役者の様に応える。
「ふむ、つまりどうするつもりなんだ?答えが決まっているのなら教えて欲しい」
「ええ!その為に今日はここに来たのですから」
男は待っていましたとばかりに、前のめりに応える。
「……私はこの世界から出ようかと思います」
「別の世界へと渡る気か、下準備は出来てるのか?」
流石にローレンスも驚いたのか、声上擦らせた。
「すでに研究と実験はしています、ですが私も別世界へ渡るための次元の壁を越えるのはなかなか難しくてね。そこで、この世界で最も優秀な魔法研究家でこの国の先代魔王である貴方に協力をお願いに来たのですよ」
実に楽しそうに語る男の口調に、冗談では無い事がうかがえる。
「お前が居なくなった後の事はどうするつもりだ、大混乱だろう」
「なに、その程度で壊れてしまう様な国造りはしていませんよ。とりあえずは№2であるエノク君に丸投げして、後は残った者たちに決めさせれば良いでしょう。」
困った身振りはするが、その顔は笑顔が溢れている。
「まあ多少は混乱するでしょうね、私自身がそれを見れないのは誠に残念ですが。むしろ問題はあなたです先代魔王ローレンス」
「なぜワシが?」
「現魔王である私が居なくなるのですよ、混乱する国を治める為に先代である貴方が担ぎ出されるのは必然、これでは貴方の好きな魔法研究が続けられない」
恐らくこの国で最も彼を理解している、老人は彼の言いたいことを直ぐに理解する。
「つまりワシも一緒に来いといことだな」
ローレンスの答えに、さらに演技がかった身振り手振りで男が答える。
「ええ!その通りです、もちろん無理強いはしませんが、あなたも別世界には興味あるでしょう、知識を得るための研究という己の欲望に従う為に、魔王という地位を私に譲ったあなたなら」
数秒の沈黙の後、ローレンスが応える。
「いいだろう、ワシが断ってもどうせお前なら時間を掛ければ自らの手で別世界への扉を開くだろう、ワシも静かに研究が出来ればこの世界で有る必要も無い、手伝おう」
理想通りの答えを出すローレンスに男は満面の笑みを見せる。
「貴方ならそう言うと思っていましたよ」
「出発は何時だ」
「貴方に協力してもらっても魔方陣の調整なのどに1カ月は掛かるでしょう、しかし準備が出来たら直ぐにでも行くつもりです。」
「分かった、ワシも準備しよう」
「ああこれで、毎日毎日「異常なし」としか言わない報告を聞くだけの日々が終わる、次の世界ではより長く楽しむ為に上手くやらねばいけない」
喜びを表す為か、その場で体を回転させ手を組み、ローレンスに感謝を表現している。
「まったく、君はいつもワシを飽きさせないよベリアル」