桜が散るのだ
春になった。桜が舞っている。孤独に苛まれて人生をお仕舞いにする人のように美しく散っているのだ。
歩道に落ちた桜の花びらを、茶色く黄ばんだスニーカーでしっかりと踏みしめていることを黙視しながら歩く。いつもなら、うつむきながら歩いていても十分に人が避けてくれるほどの人通り。しかし今、周囲の目は上にある。散る直前の、何億というピンク色を見るのだ。そうして、また、彼ら、彼女らは、そのピンクの、空中を滑空する姿の本当の美しさなんてものを、知らずにいる。パラシュートのないスカイダイビング。さぞかしそれは綺麗だろう。それが最も、謙虚さと誠実さとあきらめと勇気を表す、最初で最後の最高の時間となるのだ。
そうやって、桜を写真で撮っている人間なんかを見ては呟き、ぼつぼつと、愚痴を撒き散らす。どっかのウイルスみたいに、これが感染していけば面白いのに。そうしたら、もしかすると、この人たちも桜の本当の美しさに気づくかも知れないのに。