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特殊適正魔法の冒険  作者: ちーき
メリシア皇国と脱出
1/2

召喚と鍛錬

 テンプレ


 つまりそういう事だ。


 メリシア皇国の皇王パグマ・ドゥノウス・ベルサ・メリシアという呪文みたいな名前の皇王様の説明を要約すると。


 魔王が世界征服しちゃうから助けてね。

 支援は金貨20枚と聖剣と皇王への謁見優先権だよ。

 あと1人じゃ寂しいだろうから皇国のちょっと強い騎士を1人付けるね。

 鍛錬したかったら王城の修練場使っていいよ。


 以上である。


 ハァ?死ねよ。とは言えないので胸中で壮絶な罵詈雑言を浴びせておいた。

 いきなり前置きもなく見知らぬ地へ拉致された挙句殺し合いを強要されるなんて、浮かぶ感想はファックユーしかない。


 日本に帰ろうにも皇王曰く送還魔法は現状発動に必要な魔力が無いらしいし、可能だとしてもわざわざ呼び出しておいて素直に帰してもらえるとも思えない。


 そんなこんなで現在与えられた一室で付き添い騎士と顔合わせし、雑談(一方的)中だ。

 この騎士もおおかた監視と魔王へのヘイトの剃り込みが目的だろう。

 先程から魔族による被害やその残虐性の話ばかりだ。

 しかも、しかもだ!ここまでテンプレなのだから騎士も女騎士だろうと思って少し期待していたのに、30代前後のおじさんだった……。

 名前はルシア・ベルモンドというちょっと美人っぽい(偏見)名前なのに……。


「勇者殿、一先ず現在の実力を知りたいので修練場へ行きましょう。これでも私は皇国でもトップクラスの実力を有しております故、お相手は私が致します」


 漸く魔族怪談が終わったかと思えば今度はそれか。

 いや、気になってはいたよ?

 召喚された時点で頭の片隅では考えていたよ?

 テンプレだよな。チート能力。


「それはいいんだけどさ、俺って魔法とか使えるのか?召喚前は魔法なんて無い世界にいたからこの世界の子供より知識はねーぞ?」


「ご安心ください。勇者殿からはかなりの魔力を感じますから、恐らく皇国の宮廷魔術師筆頭クラスの魔力は有していますでしょう」


 ほお、つまり一国のトップクラスの魔力はあるようだ。

 そういえばステータスとかは無いのか?

 それらしい単語を頭の中で並べてみても特に変化はない。

 声に出はないといけないのか、それともそもそも無いのか?


「えっと、魔力量とか、そういうのって視覚的に確認する方法はないのか?数値化したり、こう、適正毎に色が変わったりする何かとか」


「魔力量と適正属性を測る魔測水晶ですね。修練場に行く前にそちらから確認しましょうか」


 そう言って立ち上がるルシア。付いて来いという事だろう。





 王城内で測るのかと思っていたが連れてこられたのは冒険者ギルドだった。

 これまたテンプレだ。併合酒場には酔った強面が6人騒いでいるし、受付嬢は3人それぞれ美形だ。ギルドの顔だからそれに相応しい人選なのだろう。残念ながらケモミミやエルフっぽい人はいなかった。


 ルシアは迷いなく一番手前の受付嬢の元へ行く。東洋系の美人だ。金髪のせいでちょっとギャルに見えるが、この世界だと普通なのだろう。

 ルシアに気付いた受付嬢が軽く会釈した。


「ようこそ冒険者ギルドへ。ご用件をどうぞ」

「この方の魔力測定を頼む。」


 この方って、そんな偉い人みたいに言われると何だか誤解されそうだな。貴族とかじゃないかとか。


「かしこまりました。それではそちらのお方、ご案内致します」


「あぁ、頼むよ」


 なるべくフランクに人当たり良く〜なんて考えて僅かに微笑みながら応えてみる。

 美人には良く見てもらいたいという男のサガだ。

 まあニコポみたいな反応は皆無で変わらずの営業スマイルだった。ちょっと残念。

 ルシアはそのままカウンターで待機するようだ。

 一人でついて行くと地下に降りていき、何やら色々な球の置かれた部屋に通された。


「それではご説明致します。左の赤い玉から、火・水・土・風の魔測水晶となります適正があればある程強く輝きます。そして、奥の2つは左が魔力量の魔測水晶、右側が特殊適正水晶です」


「特殊適正?」


「はい。ごく稀にですが、4属性以外の属性に適正のある方がいらっしゃるのです。多いのは聖属性ですね。回復魔法等の補助魔法が得意です」


「なるほど、まあとりあえずやってみようかな。どれからすればいい?」


「どれからでも構いませんよ」


 なら説明された順で行こうか。

 火の魔測水晶に触れて見た。


 ……


 あれ?


「反応無しってことは適正ゼロってこと?」


「残念ながら……。」


 なんてこった。幸先悪い……が、後4つあるし魔力量はルシアの保証付だ。

 次々と触れていく。


 水、無反応

 土、無反応

 風、無反応


 NOOOOOOOOOO!!!!!

 俺はその場に崩れ落ちた。


「え、えっと……稀にですが、そういう方も御座いますので……その……」


 受付嬢のフォローが辿々しくてなんとなく嘘なんだなぁと察してしまう。


 ヤケクソ気味に魔力量を測ってみると目の前が見えないほどの輝きに襲われた。


 目がああああああ!!!!


「す、凄いです!これほどの魔力量の方は見たことありませんよ!」


 受付嬢ちゃん、俺にはね、適正がね、無いんだよ?


「宝の持ち腐れじゃねーか!!」


 ゴンッ!!

 思わず壁に軽く頭突きしたら壁が凹んだ。


 ……ゑ?


「…………」


 受付嬢も唖然である。

 壁が脆いとかでは無いはず、だって見るからに岩だもん。昔の塀みたいな石を詰め固めたみたいな壁。


 パラパラと崩れた壁面の音で二人同時にハッとする。


「あ、あの、特殊適正を測ってみてください!」


「お、おう!」


 促される通りに魔測水晶に触れてみる。

 すると。


「ほぉ……」

「わぁ……」


 部屋全体がまるで虹色の水面のように輝いた。

 綺麗だ。

 受付嬢と二人で暫くボーッとその光景に見入っていると、やがて輝きは薄まり、そして消えた。


「あっ、おめでとうございます!特殊属性の適正最高ランクです!」


「よっしゃあ!」


 適正ゼロだと思わせてのここにきて特殊属性最高ランク!下げて上げるとはやるな俺!


「それで、これは身体強化とかそういう魔法って事でいいのか?」


 さっきの壁頭突きでの予想だ。


「えっと、すいません、先程の反応は初めて見ましたので断言はしかねますが、それも含めた魔法適正なのだと思います。身体強化魔法の適正の場合黄色っぽい光の筈なので」


 ふむ、身体強化以外にも色々できるかもしれないということか。


「なるほど。あっ、そういえば冒険者登録ってできる?」


 そうだ、皇王に貰った金貨20枚もそのうち尽きる。無くなったらまた貰えるという保証もないし、魔王と戦うのもできれば避けたい。

 となればいずれこの国を出るべきだろう。

 そのためにも冒険者ってのは想像通りだとしたらなるべきだろう。


「勿論です!貴方ならきっと高ランク冒険者になれますよ」


「ならお願いするよ。そういえば君の名前は?」


「あっ、申し遅れました、私メリシア支部受付嬢のセラと申します。では、こちらの書類に必要事項をご記入頂けますか?筆とインクはそちらをお使いください」


 そう言って紙を渡され、側の机を示された。


 名前、トモキ・カスガ

 年齢、18

 出身、不明

 身分、平民

 犯罪歴、無し

 特記事項、特殊適正魔法有


 セラに色々聞きながら書き埋めた。

 出身に関してはニホンとは書けないので分からないと言っておいた。

 たまにそういう人もいるらしく、問題はないらしい。

 苗字持ちなのに平民だという事に関しても、商人の後継から溢れた人や、貴族位を剥奪されたというケースも稀にあるため問題無し。

 特記事項は指名依頼等で適正判断の為にあるらしい。

 例えば言葉を話せない、目が見えない等も特記事項に当てはまるそうだ。


「トモキさんですね。それではお連れの方もお待ちでしょうし一旦戻りましょう。カウンターでギルドカードの作成と冒険者ギルドのご説明をさせて頂きます」


 カウンターに戻りルシアに冒険者登録するというと僅かに眉を潜めていた。

 なるほど、やはり俺の手綱を握るつもりか。

 今後ルシアには十分警戒しておこう。


 セラのギルド説明を受けつつ内心で決めておく。


「それではこちらがギルドカードになります。現在はFランクですが、以来の達成度やギルドへの貢献度次第で昇格できます。その判断はギルド職員並びその上層部で毎日審査しておりますので、条件を達成されましたらこちらからご提案致します。何か質問は御座いますか?」


 なるほど、ギルド職員は毎日そんな仕事もするのか。パソコンもないのに膨大な数の冒険者のデータ審査とは。


「大丈夫だ。ありがとう」


「それでは、トモキさんのこれからの冒険者生活に幸あらんことをお祈り致します!」


 ああ、そこは皇国らしいんだ。

 苦笑いしつつルシアに視線で促されてギルドを出た。


 さて、先ずはこいつどうやってを撒くべきか。まだまだこの世界の事もわからないし、ある程度知識を得てから考えるべきか、しかしあまりこの国に、特に王城に居続けると何をされるか分からない。

 ルシアも信用できないからできるだけ早く行動を起こすべきだろう。


「それでは、修練場に参りましょう。魔法に関しては明日までに相応しい者を呼びつけておきますので先ずは剣による戦闘で実力試しです」


 しかし、こいつは戦闘狂的なやつか?微妙に笑ってやがる。

 もしくは暴力が好きな狂人か……。


 何はともあれもう暫くはこいつに従っておこう。

 明日魔法について学べば何か案が浮かぶかもしれないからな。





 さて、修練場に着いて木剣を渡されたのだが、もちろん剣なんて握ったことがない。つまり……。


「えっと、こうか?」


「いえ、右手をもう少し手前に、そうです。そしてできるだけ側面を向いてください」


 現在剣の持ち方と構え方を教わっています。


 いや、だって普通そうだろ!?日本に住んでて剣の振り方やら何やらが分かるわけがない!

 剣道とかの構えとも違うみたいだし……というか見様見真似だけど剣道の下段とかそんなやつで構えたからこの状況なんだよ。


「いいですか勇者殿、人体の急所は大まかに頭、首、胸です。他は多少傷ついても死にはしませんが、それらは下手をすれば即死する場所です。であれば、先ずは急所を狙われ難い構え方をするべきです」


 敵に身体の正面を向けるのは基本的にダメ。

 足の先から頭の天辺まで剣が届くようにできるだけ腰を下げるが、背筋を曲げすぎて面を増やさない。

 足を開き、踏み込みに力が入りやすくする。


「基礎の基礎ですが、これらが基本的な構え方です」


 なるほど、注意点は多いがわかりやすい。

 言われた通りに構え、相対するルシアを見ると同じ構えをしていた。

 確かに素人目にも隙が無いように見える。


「とりあえずまずは軽く模擬戦をしてみましょう。この修練場には回復魔法陣が敷かれていますのである程度の怪我はすぐに治ります。遠慮せず好きに打ち込んでみてください」


 ちっ、完全に見下されてるな。

 仕方がないといえばそうなのだが、やはり男としては気に食わない。

 何が何でも参ったと言わせてやりたくなる。


「行くぞ」


 試しに相手の剣の届きにくい背面目掛け横払いで打ち付けてみる。

 しかしルシアは前足を軸に反転し俺の剣を受け止めた。

 なるほど、そうすればむりな態勢にならずに受け止められるのか。


 ルシアの動きを観察しつつ、様々な角度から打ち込んでみる。

 足、腹、首、頭。

 突きや払い、振り下ろし等色々試していく。


 ルシアはその全てを受け止め、時には受け流し対処していく。


 カン、カンと修練場に木を打ち付ける音が響く。


 5分か10分か、それなりに攻め続け息もかなり上がってきた頃、ルシアがバックステップで距離をとり、ストップをかけた。

 思わずその場に座り込んでしまう。


「そこまでです。打ち込みの威力、剣の振り方共に申し分ありません。攻めに関しては鍛錬を続けていくうちに極まるでしょう」


「ハァ……ハァ、そうか」


「しかし、持久力に乏しいですね。こちらに来る前は何をされていましたか?」


 高校三年退学目前だったよコノヤロウ。


「学生、だけど。スポーツもあまり、してなかったな」


 運動なんて体育の授業か、たまに喧嘩する程度だ。地元の同世代でちょっと知られてる程度の不良だ。たかが知れてる。


「なるほど、しかし才能はありますね。たしか、特殊適正の魔法に身体強化があると仰いましたね?今は使用していますか?」


「いや、というか使い方が、イマイチわかんねーんだけど?」


 かなり息が整ってきた。

 もう少し休憩したらもう一回頼もうか。


「ふむ、ではそのままで結構ですので、目を閉じて私の声をよく聞いてください」


 言われた通り目を閉じる。


「ご自分の中心、そうですね……ヘソの上辺りに手を当てて下さい」


 ヘソの上……こうか?


「そのまま、その手を当てた部分の奥には火があると想像して下さい。暖かく、僅かに輝く火です」


 火……んーイマイチ分からん。ライターの火でも想像してみるか。タバコ吸いてぇ……。

 ん?

 何か身体が暖かくなってきた気がする。


「そのまま、そのままです。その火が段々と身体全体に燃え移り、やがて勇者殿が火に包まれます」


 言われた通りに想像すると身体がフワフワとしてきた。


「いい感じです。その感覚を忘れないように。目を開けて下さい」


 何だか今ならルシアに一発いいヤツお見舞いできそうだ。


「それでは再開しましょう。今度は私も少し攻撃します。限界を感じたら剣を離してください」


「分かった。いくぞ!」


 素早く構え、一気に踏み込む。

 さっきまでと全く違う。速さも鋭さも、そして力も。全てがさっきとは比べ物にならないくらい上がっている。


「ハァッ!」


 ルシアの背面から袈裟に斬りつける。

 流石にルシアも面食らったようだ半歩下がり剣を躱し逆手に切り払って来る。剣を振り下ろしたばかりで右腕に迫る攻撃に対処できず直撃する。

 しかし、ガッとおおよそ人体に打ち付けた音では無いものが鳴り、俺には痛みを与えなかった。


 チャンスだ!


 ルシアの伸び蹴った右腕を潜るように下から打ち上げる、狙いは腹。


 しかし流石に経験が違うのか、鋭いステップで背後に回られ、首筋に剣を突きつけられた。


「素晴らしいです。先程までとはまるで別人ですね。このレベルの身体強化は中々お目にかかれませんよ」


「その割に余裕そうじゃねえか。くそっ」


 簡単には勝てそうにない。

 こうなりゃ勝つまで何度でもやってやる。


 結局夜まで続けたが、ルシアには終始勝てなかった。


 明日は魔法について教えてもらえるらしいし、それでまた活路を見出せるだろう。






 そういえばいつ逃げようか……。

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