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Google検索に新しいタームを追加するための小説

 ここは、赤玉国(せきぎょくこく)の青の都だ。今日も大きな赤い太陽と小さい青い星が綺麗に見えている。


 目の前には、祭壇が築かれ王と宰相、大将軍、大神官が揃っている。


 そう、僕らは、神聖なる大命を受けるため、祭壇の前に畏まっている所だ、幾ら綺麗といっても太陽に見惚れている場合じゃない。


 そして、国家の重鎮を代表して、大神官が僕らに話しかけた。


「なんじ、常盤(ときわ) (りん) その方ら、神聖なる大命を受諾し、全てを掛けて『暦』を持ち帰る事を誓うか」


「我ら7名、如何なる犠牲を払おうと、どれほどの屈辱を舐めようと、必ず生きて『暦』を持ち帰る事を誓います」


「では、行くが良い。赤玉国の全ての民が、待ち望む正確な『暦』を持ち帰るのだ」


 そう、何としても正確な『暦』を持ち帰るんだ。馬鹿げた悲劇を終わらせてみせる。



        ◇◆◇



 季節の廻りは春夏秋冬、とはいえ冷夏や暖冬が不規則に起きるし、季節の長さは年によってもバラバラだ。だから、農作物の作付けはある意味博打で、読みを外すと殆ど収穫が得られない。気まぐれな天意を読み解こうなどと、人の分を外れている。それが、この国の常識だった。


 しかし、実は、月の長さや年の長さと季節の巡りが関係していたなんて……


 2年前の事だ。天文所の長草舞博士が、赤い太陽の動きと春夏秋冬の意味について、長年の観測に基づく決定的な分析結果を遺言に残したのだ。

 それまでも、太陽が高く長く出ている時期が夏、低く短い時期が冬だという事は理解されていた。しかし、長草舞博士は、長年の観測により、後二つ要素があることを見出したのだ。

 ・同じ夏や冬でも太陽の高さは年によって異なる。

 ・太陽自体の大きさも季節によって微妙に異なる。


 特に、太陽が高く、大きい年は、短いながら強烈な酷暑になる。逆に、太陽は比較的低く、小さい年は、長い冷夏になる。そして、天球上で太陽が最も大きくなる場所と小さくなる場所は、年毎にどんどんズレている。


 さらに、それとは別に太陽の高さの振れ幅も年毎に変化している。


 これらの変動が組み合わさって、月の長さや年の長さが変わり季節の在り様も変わっている。


 余りにも複雑で、長草舞博士も法則性を見出せはしなかったが……『気まぐれに見えても何らかの法則が存在するのだろう。しかも、あたしが5人居れば、解き明かせるような……そんなあと一歩の場所に居るような気がする』……そう遺言書の末尾に記載されていたという。


 夏の暑さと冬の寒さを正確に予想出来るとすれば……それはどんな犠牲を払っても惜しくは無い。直ちに、占い所に魔術師達が集められ、神意を問うための大規模な祈祷が始まった。


 魔術師長他、高名な魔術師が何人も犠牲になった儀式の成果として、一つの予言が得られた。『東に8000㎞離れた場所に正確な解法……つまりは秘法だ……が存在する。最も数学に熟達した者達ならば、秘法を理解して持ち帰る事が出来るかも知れない。』


 秘法があるなら、どれほどの対価が必要でも入手すべきである。国家の元老院と国王は、そう断じて、『求暦遠征(きゅうれきえんせい)』を行う事を決断した。

 だが、8000kmは遥かに遠い。大国である赤玉国の端から端の5倍以上ある。


 直ぐに、国中からソロバンが達者な若者が集められた。そして、数に関係する全てを教え込まれ、さらには武術や魔術を含む旅に必要な全てを叩き込まれる、厳しい日々を送ることになった。そして、ついに今日、第一次求暦遠征隊として僕を含む7名に大命が下ったのだった。


 ただ、予言にある『数学』それを数の学問と解したが、どの古の文書にもない言葉、仮に数の学問では無く、別の意味だったら……。数が含まれる言葉も色々ある。仮に、階数だったら建築に関係する何かだろうし、巻数だったら糸に関係する何かだろう。さらには、手数だったら……将棋や囲碁に関係する何かの可能性もある。


 いや、僕らはどんな困難でも立ち向かう義務がある!


        ◇◆◇


 2年の厳しい旅、脱落者を2名も出した末、僕らは目的の場所、目的の人に出会った。その人は、天体物理学者と名乗っていた。何でも、宇宙船とやらの事故で、遭難して来ただけで、全く異なる世界の人らしい。


 そして、僕らの旅の理由と旅に至る経緯を聞いて、呆れかえって話始めた。


「正確な暦を知りたい? 計算尺も対数表も三角関数表も無しで? あんたら、正気かね? この星系は、連星系で惑星軌道の摂動量が半端じゃないよ。しかも、月の軌道要素の変動も激しい。正確な軌道予測は半端な作業じゃないよ。

 第一、物理数学すら勉強した事無いんだろ?」


 どうやら、『数学』は数の学問で良かったようだが、僕らの国で知られているソロバンの技とは、桁違いの技であるようだ。雪で作ったカマクラと都の大聖堂位にかけ離れている。そんな風に男は例えていた。


 でも、僕らは皆の期待を背負って命懸けで遠征してきたんだ。引き下がるわけにはいかない。言葉を尽くして、男に教えを乞うた。


「判ったよ。月謝をキチンと払ってくれるんなら、教える事は構わない。ただ、物になりえるかは保証できないよ」


        ◇◆◇


 5年間の厳しい修行、何度も発狂しそうになる、難しい学問の日々、それでも『これでも、相当端折っているんだぜ、基礎となる数の概念すら省略した。精度上、本来必要な、アインシュタインの一般相対論にも辿りつけていない』……男の要求は果てしなく高い。


 でも、配慮されていない訳では無いんだ。『ようは、来年の夏と冬の太陽の位置が分れば良いんだろ? だったら、外挿だけである程度予測出来るだろう。自転傾斜角の変化、近日点移動などの公転軌道要素の変化、これらの影響を数式に落とせれば何とかなる。

 1日程度のズレは、暫く我慢して、後でじっくり研究すれば良いさ』


 そう言って、観測に基づく暦作成方法を、開発してくれた。涙が溢れる。感謝しても仕切れない。


 しかも、餞別として何冊もの本を譲ってくれた。難解過ぎて、今は読めないけど……何時か解読出来る、いやしてみせる。


「後、半年位で救助機が到達すると思う。だから、二度と会うことは無いと思うが、私にとっても楽しい5年間だったよ。

 気を付けて旅をして、赤玉国に戻って活躍する事を期待しているよ」


        ◇◆◇


 帰りの旅も酷い旅だった。龍族の襲撃を受けて、一時は絶望仕掛けた事もある。でも、赤玉国を出てから10年、7人いた仲間が2人に減ったが、帰り着いた。


 救暦遠征の成功、僕らは永遠に語り継がれる偉業を成し遂げたのだ!


 そして、赤玉国の全ての言葉を収めた検索システムに、『”救暦遠征”』が追加された。



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