第九話 死して尚。
え、待って、書いてなさすぎじゃない自分!?
一年に一話って……もうこれは遅筆とかそういう部類にすら入れて貰えないですね……。
「ふわぁ、いつの間にか寝ちゃってたみたいだな、僕」
目を覚ますといつも通りの朝の光景だ。
「あれ、そういえば夢乃はどこに!?」
上半身を起こして部屋を見渡すが、どこにも夢乃の姿は無い。
「また、か……。僕が寝ちゃったばかりに夢乃と会えなくなっちゃうなんて、そんなの嫌だよ……!」
後悔と寂しさが入り混じったような声が誰もいない部屋に響く。
「いやあ、そこまで言われちゃうと出づらくなるなぁ……」
すると突然左斜め後ろからあの少女の声がした。
「ゆ、夢乃!? まだいてくれたんだね! 良かった――ってなんで僕のベッドの中に!?」
「そ、それはその、何というかね……眠っている彼方くんの顔を見ていたらいつの間にか入っていたというか……」
「そ、そんな……」
思いもよらぬ夢乃の言葉に顔を赤くして答える。
と思ったがそう言った夢乃本人の顔も赤い、甘く気まずい空気が二人の間を流れる。
こんな空気感も心地いいななんて思っていると、
「彼方ー! 朝ご飯できたわよ、起きてきなさい!」
無情にも空気を切り裂く一撃を食らったのだった。
「ほら、彼方くんはご飯食べてきていいよ、あたしはここで待ってるから、ね」
「で、でも……」
また消えてしまうんじゃないか。そう言いそうになるのを我慢する。行ってしまったら本当にそんなフラグが立ってしまう気がしたから。
しかし夢乃はそんな僕の気持ちを知ってか知らずか、
「安心して、あたしは消えない」
幼い見た目に不相応な優しい微笑みをたたえて言う。
そんなに優しい顔をされては駄々はこねられない、「分かった、すぐ戻ってくるからね」そう告げて駆け足で食卓に向かうのであった。
~~~夢乃パート~~~
昨日二度寝したせいか少し早く目が覚めてしまったようだ、「ふわぁ」と小さいあくびをする。
「彼方くん……」
ふと右隣に目をやるとすやすやと気持ちのよさそうに寝息を立てる男の子、空囲彼方がいた。
彼方はこちらを向いて寝たようで、夢乃は今彼方とベッドの上で向かい合っている状況にある。
ジーっと彼方の顔を見つめる夢乃。底抜けに優しくて、自分の為に一生懸命尽くしてくれる人。
「……ちゅー、しちゃおっかな」
夢乃は少しずつ彼方に顔を近づけて行き、お互いの息が肌で感じられる距離になって再び見つめる。
「起きないの? 本当にちゅーしちゃうよ?」
言葉とは裏腹に彼方が起きないくらいのこそこそした独り言を言っている自分に対して笑いがこみあげてくる。
ああ、本当に私はこの少年が好きなんだと改めて実感させられた。
「彼方くん、――好きだよ」
『チュッ』
してしまった、ついにやってしまった。男の子とキスしちゃった! おでこだけど! 唇じゃないけど!
キャーッと心の中で悶えていると、突然もぞもぞし始めた彼方。
そしてそのまま目が覚めたようだ、二言目にあたしの話をするなんて、恥ずかしい……。
一通りやり取りを終えた後朝ご飯を食べに行った彼方を待つ間、夢乃は
「ファーストキスってどんな味がするんだろう……?」
キスのことばかり考えていたのだった。