八話 互いの誓い
一年以上開けての投稿再開。
本当に待っていた方々申し訳ありませんでした。
これから徐々に投稿スパンを縮めていければと思っています。
これからも彼方と夢乃の二人をどうか、よろしくお願いします。
自室から母親が去ったあと彼方は一人考えていた。
夢乃がこの世のものではない存在だということ、なぜか風邪と同じような症状に見舞われて倒れてしまったこと。
そして夢乃が調子を崩すのとほぼ同タイミングで自分の身体の熱が下がって調子が良くなったこと。
もしかしたらたまたまなのかもしれない、いやあんなに酷い風邪が一瞬で治るものだろうか。
しかもかなり長い間河川敷にいたのだ、治るものも治らないだろう。
「ということは、だ」
自分のベッドですやすやと寝ている夢乃を見ると先程よりも症状は落ち着いたようだが、まだ脂汗を掻いている。
「僕の代わりに風邪を引いているのかな、やっぱり」
彼方の知識は妖怪に関するものだけではなかった。日本各地で信仰されている神様なども珍しいものや有名なものなら何となく知っているのだ。
その知識の戸棚から導き出された、今の状況に最も近い答えは――
「う、うぅ……、ここは、どこ?」
そうこうしているうちに夢乃が目を覚ます。
「あ、目覚めた? ここは僕の家だよ、余計なお世話かもしれないけどあのまま河原に寝かせて置けなくって。それにそろそろ帰らなきゃいけない時間だったから夢乃も一緒に連れてきちゃったんだ」
「彼方君の、お家? ベッドふわふわ……」
どうやら目を覚ましたものの全快とはいかないようだ。
寝ぼけた様子で掛布団の端をつかむ夢乃がとてもかわいらしい。
こうしてみると神様だなんて、到底思えないよなぁ、と思うが口には出さない。
神様だからこそ自分の代わりに苦しんでいるのだ。
精一杯看病しよう、この幼気な元神様を何があっても守り抜こうと、と人知れず、いや神知れず彼方は誓うのであった。
そして夢乃が二度寝から抜け出したころ、当の彼方は看病の疲れと風は治ったものの、回復しきっていない体力のせいでそのままベッドにうつぶせになるように寝落ちしてしまっていた。
「えっと、ここは?」
ベッドから上体を起こしてキョロキョロと部屋を観察する夢乃だが、部屋の電気は点いておらず窓から差し込む月明りだけが頼りだ。
彼方の全力の介抱の甲斐があり、ほぼ全快の夢乃はそのままベッドを抜け出そうと、端に手を掛けようとしてそこに彼方がいることに気づいた。
夢乃はまた彼方が風邪を引いたのかもとハッとして再び身代わりを行おうとしたが、すっかり熱が引いていることを知って安心して、
「彼方くん、また助けられちゃったね」
と、彼方の頭を優しく撫でながら独り言ちる。
しばらくそうしていた夢乃だが、まだ回復しきっていない彼方を地面に寝かせっぱなしにはできないと、そっと起こさないように起き上がりあの不思議な風の力を使って彼方を布団に寝かせた。
「これでよし、と。そろそろ私も戻ろうかな、いやでも戻らなくても別に平気だし……」
夢乃は非常に迷っていた、いや迷っているふりをしていた。自分の中で既に結論は出ていたのだ。
このまま彼方を置き去りにして自分のいるべき世界に戻るべきか否か。
「き、きっとこのまま消えちゃえばまた彼方くんが風邪引くまで川で待つかもしれないし!? そんなことまたさせないためにもあたしがここにいないとね!!」
そう、ここに留まる理由を探していた。
やはりこれでも神の端くれだったのだ、人に余計に干渉するのは憚られる。
「うん、そうだよ! 彼方くんのためにもあたしがここにいてあげないと!」
ふと横目でちらりと眠っている彼方を見やる。
「ほんとに無茶苦茶だよ……、神に恋をしてその上、両想いになっちゃうなんて……」
そして今一度彼方の傍に寄り、頭を撫でる。
「彼方くん、……大好きだよ。これから何があってもあたしが守るから」
この夜お互いに人知れず、神知れず、誓いを立てあった二人だった。