六話 少女の思惑
はい、どうも筧です。
今回も結局遅れました。ごめんなさい(*- -)(*_ _)
しかしやっと執筆のペースをつかめてきましたのでそろそろ隔日更新、守れそうです(∩´∀`)∩ワーイ
二人は月光の下見つめあっていた。
そして彼方は言った、「君は神や妖怪の類ではないか」と。
昔から妖怪などの言い伝えが大好きだった彼方は幼い頃から妖怪などの信仰や起源などを調べる為に本を読み漁った。まるで他の子供たちが動物図鑑や昆虫図鑑に目を光らせるように。
今だから分かるが、友達のいない彼方はきっと目に見えない不可解なものにきっと救いを求めたのだと思う。
結局、特別な能力で妖怪が見えたりとかそんな奇跡は訪れることは無かったし、彼方自身も妖の存在なんて半信半疑だったはずだ。
しかし今、あの頃の想いを馳せた存在が目の前にいる。
しかも自分にとって、これ以上なく特別な相手として。
そうやって自分の世界に没入している彼方を見やる夢乃。
「おーい、彼方くーん。聞こえてますかー」
「あっ、ご、ごめん。ちょっと昔のこと思い出してて」
「え?彼方くんの昔?あたしそれすっごい気になる!」
「僕の話はまた今度。それよりまずは夢乃のことが先決だろ」
「むぅー、けち」
頬を膨らませて上目遣いで彼方を見つめる夢乃。これがジト目というやつなのだろうか、見続けていたら夢乃のわがままをすべて許してしまえるような気がしてすっと目を逸らす。
「まあいっか、あたしの話が終わったらちゃんと聞きますからね」
「なんで敬語……」
「それで、彼方くんはどうしてあたしが神や妖の類だと思ったの?」
先程とは打って変わって真面目な顔に戻る夢乃。
「それはね昔読んだ文献に神隠しってのがあってさ、誰そ彼時にかくれんぼをして遊んでいると神様に異界へ連れていかれて、そのままそっちの住人になっちゃうっていう話なんだけど、
誰そ彼時って昔からこう、現実世界と異世界の境目があやふやになって妖が姿を現したりしてたらしいし、
夕暮れ時に家出した座敷童子に会った人の話も残ってるから。
夕暮れ時のことを逢魔が時とも言うしね」
彼方が一息に喋ると夢乃はその知識量に驚いたようで、ポカンと口を開けて、
「彼方くんは物知りだねぇ、あたしもそんなに知らないよ」
と言った。
「て言うことはやっぱり!?」
「そう、あたしはそっち側の者。神か妖怪かと言われると少し怪しいところがあるけど」
「おお!やっと会えた!」
彼方は念願叶って大興奮だ。
しかし夢乃の言葉が引っかかる。
「あ、でも待って、少し怪しいってどういうこと?」
「んーとね、あたし元々神なの」
「ええええええええええ!!!」
もう興奮ではない、驚きだ。
「か、カミサマー」
驚きすぎて単語しか出てこない。
「元だから!元!今は神様でも何でもないし、妖怪にもなり切れない半端者だから」
「あれ、なんで妖怪にならないの?河童も元々水神様でしょ?」
「彼方くん、本当によく知ってるのね……。でも河童とあたしは境遇は同じでも事情は違うの」
「というと?」
「河童は罪を犯して神の座を下ろされたのは知ってる?」
「うん、どんなことをしたのかまでは知らないけど」
「そこら辺はあたしも知らない。河童に会ったこともないし、聞いても教えてくれそうにないし」
そこまで聞くと彼方に疑問が生じた。
「この川には河童はいないの?」
「多分この川にはいないと思う。見たことないし、魚も鯉ばっかりで鮎がいないもの」
「そっか、鮎の匂いが好物で同じ匂いのするきゅうりを供えてたんだもんね」
彼方の回答に、はぁ、とため息を零す夢乃。その反応に彼方は何か知識違いでもしたのかと心配になる。
「何か間違ったこと言った?」
「ううん、彼方くんの知識量に驚いただけ。あたしの方が知ってて当たり前なのに、人間に負ける妖って……」
あからさまに落ち込んでいる夢乃に慌てて話題を戻す。
「それで夢乃はなんで神の座を下ろされたの?」
「それはね、人の信仰が無くなったから、かな」
寂しそうに呟く夢乃。
「神様っていうのは信仰心が力の源なの。あたし達の存在を信じてくれればくれる程力が増して、豊作の神だったら翌年は稲穂をいっぱいに実らせてあげらあれる。
逆に信仰が減るとあたし達の力も比例して下がっていって、そのまま信じられなくなって。
最後は神として神座に留まることもできない程力が弱っちゃうの」
「ってことは……」
嫌な予感がした。彼方の勝手な憶測だが、このまま妖にも神にも為れないいや、為らないままでは力を使い切って夢乃は消えてしまうのではないか。
「それで最終的にあたしが祀られていたところは建設予定地になっちゃって、もう神の座を降りるしかなくなったってわけ。えへへ、ドジな神様でしょ?」
苦笑いで表情を隠していたが目には涙が溜まっていて、いまにも爆発しそうだ。
彼方ももう我慢の限界だった。
いまこの一人の少女に何もしなければきっとその信仰心を無くした村人たちに呪いでもかけそうな勢いだ。
「え?」
夢乃は思わず声が出た。
彼方が自分を抱きしめてきたからだ。驚きで何も言えずにいると彼方は喋り始める。
「本当にごめん。僕ら人間のせいでこんな目に遭わせてしまって。
生まれて初めてこんなにイライラした。
生まれて初めてこんなにもどかしい気持ちになった。
生まれて初めてこんなにも人を憎んだ。」
そうやって優しい言葉を耳元で聞いていると夢乃は自然と心が溶かされていく。
やばいと思った。このままじゃ知り合ったばかりの少年に甘えてしまうと。
元神様なのに。人間にすがったらだめだ。きっと裏切られるんだ、そして捨てられるんだ、だめだ……。
しかし優しく自分を抱きしめる彼方の腕は振りほどこうとしても身体に力が入らない、もう完全に身を委ねてしまっている。
最初はからかうだけのつもりだった。「現実逃避しよう」とか言って不思議少女気取りで声を掛けて。
自分に気があるなんて直ぐに分かったし、面白かったから空も飛ばせた。
それで怖がられておしまい。そうなる予定だったのに、彼方は荒んだ夢乃の心に浸け入ってくる。
ぬるま湯のように優しく、夢乃の心を癒してくれる。それはもう離れがたく、名前を付けられた日は本当に嬉しくて、自分の名前を呟きながら明日の夕方を待った。
雨が降った時は心底悲しくて彼方が心配でならなっかった。
翌日、自分の身を顧みず夢乃に会いに来る彼方を見た時、「ああ、あたしはなんてことをしてしまったんだろう、そもそもこの少年に罪は無いのに」自分が情けなくなった。
そうなったのは全て彼方にまた会いたいと期待して、河原に佇んでいたせいだ。
もうこの少年に甘えてはいけない、彼方が起きたら別れを告げてまたどこかに旅に出ようと、決断した。
なのに、なのにどうしてそんな固く誓った決断でさえ鈍らせられるのであろう、謝って別れを告げようと思っていたら先に謝ってくる。
「彼方くんは何も悪くないんだよ」そう心で呟きつつも、すべて今までのことを話して許してくれるのならば、許してくれたのならば、あたしはこの少年の隣にいてもいいかもしれない。
そして今この少年は自分の為に怒ってくれている。悔しがってくれている。悲しんでくれている。
見ればその瞳にはあまつさえ涙まで浮かべてくれている。
そんな彼方の様子に思わず心の声が口をついて溢れた。
「さみしかったよぉ……、人がにくらしかった、でも一番つらかったのは……」
そこまで言ったのにもかかわらず一番伝えたいことが言えない。
「甘えたかった」それだけなのに、夢乃の中に微かに残る神のプライドが邪魔をする。
「あ、あっ……」
だめだ、どうしても言えない。神とは、自分とはこんなにも情けない生き物なのか。自分自身に失望する。
「甘えたっていいんだ」
突然彼方が言った。
「夢乃、君は甘えていいんだよ。ずっと一人きりで頑張ってきたんだ、甘えたってお咎めあるはずないだろう、君はもう神様じゃないんだから」
「う、あぁ、うわああああん!!!ひぐっ、ぐすっ、うわあぁぁぁぁぁん!!!」
箍が外れたかのように泣き出す夢乃。彼方の背中を力いっぱい抱きしめて、まるで赤ん坊の様だ。
彼方は静かに背中を擦る。
河原には小一時間夢乃の鳴き声がこだました。
「うえぇん…、ひっく、うぅ…」
「落ち着いた?」
「う、うん」
夢乃の顔はひどくやつれていて、泣き腫らした目も充血して真っ赤だ。
「あのね、夢乃。僕やっと分かったんだ」
「え?」
「僕の中の夢乃への気持ちが何なのか。きっと僕は……」
「僕は夢乃のことが好きなんだ。多分初めて会った時から」
泣き腫らした目を丸くして数秒間動きを止める夢乃。
彼方の顔もゆであがったタコみたいな色をしている。
そしてやっと言葉の意味を理解したのか、夢乃は叫んだ。
「もうこれ以上涙でないよぉ~!うわあぁぁ~ん!!!」
夢乃がとうとう泣き止んだ時、彼方の襟首はびしょ濡れになっていた。
こうして二人の夜はまだまだ更けてゆく……。
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