五話 夜、月。
どうも、筧です。
結局更新遅れました、ごめんなさい(*- -)(*_ _)ペコリ
どれだけの人がこの作品を楽しみにして下さっているか分かりませんが(一人もいない可能性もある)、
読んで下さる方がいる限りなるべく初心者なりのハイクオリティでお届けしたいと思っております。
推敲を重ねるので、また遅れるかもしれませんが楽しんで頂けると幸いです。
少し真面目な筧でした。
ちなみに!隔日更新は出来るだけ守るつもりですので!
空囲彼方は不器用な人間だった。
昔からコミュニケーションを取るのが苦手な性質で、学校以外で遊んだりするのが本当の友達だとしたら、それは片手で数えられる程しかできたことがない。
しかも遊びに誘われるのも新学期の初めの頃の、殆どレクリエーションと言っても過言ではないであろう、友達の見極めを行う時だけ。
その後は一度も誘われない。
初めの頃は自分で誘おうと、張りぼての友人関係を結ぶ友人たちに声を掛けようとしたことは何度もあったが、寸前で自分は迷惑な邪魔者ではないのか。この行為によって張りぼての、首の皮一枚繋がった友人関係でさえ壊れてしまうのではないかと、恐れていたのだ。
そんな彼方にはもちろん恋の経験も無い。かわいいなと思う女の子はいるがそれまでだ。
だから彼方は自分の中の夢乃への気持ちがよく分からなかった。
あの少女はすれ違えば誰もが振り向くほどの美少女であるが、同時に行動には幼さも垣間見えて可愛らしさも同居している。
さらに見た目だけではなく、言動に関しては逆に大人びていて、夢乃の全てが彼方にとって魅力的であった。
「ふぅ、今日は色々ありすぎて頭の中がパニックだ」
彼方は自室で呟いた。
「しかも完璧に不完全燃焼だよ」
名前を付け終わってすぐ、夢乃は「もう時間がない」と言い始め、「明日また誰そ彼時にこの場所で。待ってるよ、彼方くん」というだけ言ってまもなく消えてしまい、
彼方は必死に引き留めようと声を掛けたが、健闘虚しく最後は夢乃の申し訳なさそうな「ごめんね」という言葉と、学校に置きっぱなしだったはずの彼方の学生鞄と黒いママチャリだけがその場に残されていた。
夢乃が居なくなった後の空に太陽はもう居らず、代わりに月だけが彼方同様空にポツンと浮かんでいて、急に物寂しくなり家に帰ってきたという顛末だ。
「でも彼女は一体何者なんだろう」
自室のベッドに寝転がって微睡みの中暫く自問自答を繰り返していたが結果、夢乃の存在や彼方の恋心についてはまともな答えは出ず、そのまま眠りについた。
翌日は鈍色が空いっぱいに広がっていて、入道雲程厚い雲が太陽の光を全て遮っていた。
しかしその天気とは正反対に彼方はウキウキと浮ついた気持ちであった。
今日は夢乃と河原で会う約束をしたからだ。
彼方は学校を終えるとすぐに河原に向かい夢乃を待つことに決め、いつもの場所に腰を下ろして、いつ夢乃が姿を現してもいい様に準備をする。
大体夢乃が来る時間、正確には分からないが大体陽が沈み始めると現れていたので、おそらく午後五時半から六時の間だろう。
「まだかな……」
しかし、六時を過ぎても一向に夢乃の姿は見当たらなかった。
挙句、小雨まで降り始め、上はワイシャツ一枚の彼方は体温が低下してきて体の震えを感じる。
さらに運悪く急いで学校を出たため置き傘も忘れて成す術無しの状態だ。
「夢乃ー!いないのかー!」
何度かそうして名前を呼んでみたりして待ち続けたがその甲斐も虚しく、その日夢乃が彼方の目の前に姿を現すことは無かった。
次の日には風邪を引いて高校を休むのはやはり自然な流れで、びしょ濡れで震えながら家に帰った彼方は「そんなになるまで何をしていたんだ」と両親にこっぴどく叱られ、返答もままならないまま寝かしつけられた。
「ふわぁ、今日は晴れているな」
ベッドから上半身だけ起こして、窓の外を見た。
「よく寝たな」
寝起きの熱でぼうっとした頭で考える。時間は丁度午後五時を回ったところだ。ふと頭をよぎる疑問。
今日はあの少女はいるのかな。
夢乃に聞きたいことが沢山ある。なぜ昨日は来なかったのか、一体何者なのか、昨日名前を付けてあげた時の涙の意味は。
考え出したら止まらず、気づいたら寝巻のまま寝癖も直さずにベッドを抜け出していた。
彼方の両親は共働きで今家にいるのは彼方一人だけだ。
幼いころには両親も看病のためにどちらかが家に残っていたこともあったが、もう彼方は高校生ということで仕事に行ってしまったのだろう、そのお陰で家を出るのは容易かった。
しかし、河原までの道中は困難を極め、普段なら遅くても徒歩十数分で十分に着く距離なのに今の彼方の体力とふらつく足では結果一時間近く要した。
河原へ着く頃には意識も朦朧とし始め、元々身体の弱い彼方はこのまま倒れてもおかしくは無く、そんな彼方を突き動かすものはただ、夢乃への想い。
河原へ降りる階段も手すりにしがみついて一段、一段ゆっくり安全に降りる。
昨日同様定位置に腰を下ろそうと川へ向かって歩いていくと見覚えのある後ろ姿、白いフリルのついた女の子らしいワンピースに、同じく白く透き通った髪。
「夢乃!」
思わず口から出た少女の名前。
彼方の声を聞いた少女は向日葵のような笑顔でこちらを振り向く。が、今の彼方の状況に気づくと駆け寄ってきた。
「彼方くん!!大丈夫!?しっかりして!」
駆け寄ってきた夢乃はふらつく彼方を抱きしめるように前から体を支えて、ひどく心配しているのだろう、彼方を抱く腕が震えている。
「夢乃……やっと会えた」
「なんで、ここまでして!?」
「会いたかったから」
「そんな、そこまでして……」
「いい匂いする。でも少し肌が冷たい」
彼方は夢乃に抱かれたまま頭を項垂れて首筋のあたりで虚弱な呼吸を繰り返していた。
夢乃はその状況下でとてつもない罪悪感を感じていた。
再び会おうと夢乃から約束をしておいて、それをこともあろうか自ら破りいや、破らざるを得ない事情があったのだが、完全に守れると言い切れない約束をした自分が浅はかで、みじめで、そんな自分勝手な行為によってこの少年巻き込んで。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。あなたを傷つけるくらいならもう会おうなんて思わないようにするから、お願い許して……」
そうして彼方はボロボロと両の瞳から大粒の涙を流しながら謝る夢乃の声が徐々に遠くなって行くのを感じながら、「謝らなくていいよ、泣かなくていいよ」腫れあがった喉で呟きながら意識を失った。
「んん、ここは……どこだ」
視界がぼやけて上手く焦点が合わない。しかし嗅覚は機能していてふんわりと花畑のような匂いが心地いい。
暫くボーっとしていると五感が目を覚ます。顔周りが何か温かいものに包まれていて、それなのに顔に雫のようなものが滴り落ちてくる。
スロースターターの彼方の視界にゆっくりと映り込んできたのは寝息を立てながら泣いている夢乃の顔だった。
どうやら自分は下から覗き込んでいるらしい。
やはりこの少女はどんな角度から見ても美少女に変わりないなと寝ぼけた頭で考えていると膝枕されているという事実に気が付くのは必然だった。
その状況に一気に眠気は何処かへ吹き飛んでこの嬉恥ずかしい事態をどう切り抜けるかについて思考回路を擦り切れんばかりにフル回転させる。
「うう、恥ずかしい……」
思わずそう呟くと夢乃はぴくっと身体を揺らした後、眠り目を擦って微睡んだ瞳で彼方の顔を覗き込む。
顔を真っ赤にして羞恥に悶えていると、熱のせいだと思ったらしく先程と同様、心配そうな顔で額に手をやってきた。
「もう、大丈夫だから」
もうこれ以上耐えられない。
「ほんとに?凄いフラフラしてたのに」
「うん……」
とりあえず夢乃の太ももから頭を上げ、背中を向けながら返事をする。
そんな彼方の様子にほっと胸を撫で下ろした様子の夢乃。
「その目の方が心配なんだけど」
先程まで泣いていた夢乃の目は真っ赤に充血してしまっていて少しだが隈もできていた。
「その、これは違くて……」
「本当にごめん」
「え?」
「いや、きっと僕の所為で泣かしちゃったんだろうと思って。ごめん」
夢乃の方に向き直って頭を下げる彼方。正座をしているのでさながら土下座だ。
「いやいや!何で彼方くんがあやまるの!?こうなっちゃったのはあたしの責任だよ!ごめんなさい!」
「いやいやいやいや、僕が無茶しなければこんなに夢乃を泣かせることはなかったから。全部僕の責任だ」
「あたしの責任!」
「僕の責任!!」
「あたしの!!!」
「僕の!!!!」
こうして二人で押し問答を続けているうちに何故か可笑しくなってくる。
彼方は遂に耐え切れず笑ってしまった。
「ふふっ、あははははははっ」
「ぷっ、ふふふふふっ」
夢乃も釣られて笑ってしまい、責任の被りあいは見事、両者引き分けで幕を閉じた。
暫く笑いあって落ち着きを取り戻した彼方はある違和感に気付いた。
「もう夜だ」
「うん、夜だね」
「なんで夢乃はまだいれるの?姿が現せるのは誰そ彼時だけじゃないの?」
「お!よく気づいたね、彼方くん!これには深ーい訳があってね。じゃあまず、なんで誰そ彼時にしか出てこれないかっていうのはなんとなく分かってる?」
「それは……」
「夢乃が……神様とか、妖の類だからかな」
彼方と夢乃はこれまでにない程真剣な面持ちで互いの言葉を一言も聞き漏らすまいとしている。
二人を照らす月はいつもよりやけに大きく見えた。
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