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おまけ「例の男」

おまけ②【例の男】














 「ねえねえ」

 「なんだ?」

 「あの時の人って、確か引退した人だよね?」

 「ああ、そうだな」

 ある日の昼下がり、珍しく仕事がなかった紅蓮と渋沢は、のんびりしていた。

 隼人は隣の自分の部屋で筋トレをしている。

 「名前ってなんだっけ?」

 「名前、か」




 とある事件の日。

 叶南と貴氏の腕を引っ張って歩き出した男は、見た目より強かった。

 ぐいぐい二人を引っ張ると、男は時咲たちの会議室へと迷わすに入る。

 そこでようやく二人の腕を解放し、鍵をかける。

 「まあ、まずは座って寛いでよ」

 「「はあ・・・」」

 椅子は丁度三脚あり、そこに一人ずつ座って行く。

 「あの、それで話というのは」

 「時咲たちのことは、以前から調べてたんだ。けどなかなか尻尾を出さなくてね。今回は運よくというか、現行犯だから、早く決着がつけられて良かったよ」

 「そうですかー。じゃ、俺はこの辺で」

 良くない予感を感じたのか、叶南は席を立ちあがってさっさと部屋から出て行こうとした。

 「まだ本題に入ってないよ、叶南」

 ひゅっ、と後ろを向いていた叶南の髪と頬を掠めて、ドアに突き刺さっているナイフ。

 石のように固まってしまった叶南は、ぎこちない笑みで再び座った。

 「君たちを呼んだのは、他でもないよ。時咲たちの失脚により、責任者と参謀がいなくなっちゃっただろ?そこで、貴氏と叶南に、役職に就いてほしいと思ってるんだ」

 「俺とこいつに、ですか」

 男は頬杖をつくと、にっこりと笑って首を少し横に動かす。

 「どの役職に就くか、それは君たちで好きに決めていいよ。それから、君たちの異動によって、北と南の監獄支部長が不在ってことになるから、そこの穴埋めもよろしくね」

 「穴埋め・・・」

 「適任だと思う人に頼むんだよ」

 ふふ、と笑ってはいるが、なんとなく言い返せない空気を持っている。

 きっとこの空気が、時咲たちでさえも従えていた男のものなのだろう。

 貴氏はよく考えてから決めようと思い、腕組をして片方の手を口元にあてる。

 うーん、と貴氏が悩んでいる間に、叶南にしてはとても積極的に手を挙げた。

 「はいはいはーい!」

 「はい、叶南」

 「俺、参謀がいいかなー」

 貴氏は当然だが、男も、まさか叶南が自分からなりたいなんて言うとは思っていなかったのか目をぱちくりさせていた。

 だがすぐににこりと笑い、どうしてかと理由を聞いた。

 「なんとなく一番楽そうだから」

 叶南の口から出てきた言葉に、貴氏はなんてことを、と思って男の方を見たらしいが、男はククク、とお腹を抱えて笑ってたとか。

 「叶南らしい理由だね。じゃ、頼んだよ」

 「よし!これでまたしばらくは貴氏に責任押し付けて自由に出来る!」

 「おい」

 両手を上にあげ、歓喜を表現している叶南に対して、男は冷静に貴氏にこう告げた。

 「となると、貴氏には総責任者を任せるしかないね」

 「へ?」

 「だって、総責任者が不在で、副責任者と参謀だけなんて、有り得ないでしょ?だから、貴氏は総責任者で決定だね。よしよし」

 何がよしよしなのか分からない上に、納得出来ない貴氏だったが、本当によしよしらしく、男も叶南も席を立って部屋から出る。

 その二人の後を着いて行くと、男はくるっと二人の方を見た。

 「じゃあ、よろしく頼んだよ」

 そう言って、男はまた何処かへと旅をしに行ったのか、それとももう戻っては来ないのか、分からないがとにかく見送りをした。

 「貴氏、というわけだから、俺は参謀として、ちょっと敷地内を散歩でもしてくるよ」

 「ふざけるな。お前、最初から参謀になれば俺が総責任者になることを分かってて参謀に立候補なんかしやがったな」

 「えー?なんのことー?」

 「惚けるな」

 こんな決め方があるかと、文句を言いたい貴氏だが、ちょっと他所見をした隙に、叶南は木の葉のように去ってしまった。

 「もうよろしいので?」

 「うん。これからどうなるかは分からないけど、見守るしか出来ないからね」

 馬車のような乗り物で、しかし綱を引いているのは馬ではなく、翼が生え、美しい竪琴を演奏している不思議な生物だ。

 その乗り物が男を乗せて走りだすと、男は静かに目を閉じ、竪琴の音色に耳を傾けるのだった。



 「でさ、名前思い出した?」

 「ダメだ。思い出せない」



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