第六回『洗礼断罪』
罪を裁けば裁くほど、罪を縛り縛られる
海。途方もなく永遠に続く物。
に見える有限の物。
その海は、俺の見る海は黒く汚い。
異臭もしてくるような、そんな液体。
俺は、そこに浮いている。
俺は確信したのだ。
これは海ではない。血だと
ヌルリとしたから。
これは液体だけではない。死体もあると
髪の毛が見えたから。
分かった。
これは俺が殺してきた人間の溜まり場だと。
あれは爆弾魔の死体だ。
あれは通り魔の死体だ。
あれは詐欺師の死体だ。
あれは殺人鬼の死体だ。
あれは偽善者の死体だ。
あれは政治家の死体だ。
あれはあれはあれはあれはあれは
波が押し寄せてくる。
俺はその波に飲み込まれ、水中に
血中に沈む。
どんどん下へ下へと、堕ちていく。
視界には何も見えない。
ただの赤。
ただの黒。
ただの液体。
所詮は人間の欠片。
俺はどんどん沈んでいく。
少しずつ、赤がなくなり視界が開けてきた。
地面が見えてきた。
地面には今は生きている人たちがいる。
そこには鬼流がいて、名残がいて、無残がいて。
篠儀がいて。そして概念破壊がいて。
ただ・・・・・
一人。生きているはずのない人間がいる。
死んだ人間。
死者。
亡者。
亡き人間。
そこには
『千枚 時見』
がいた。
俺はそこで目を覚ます。
そこは自分の部屋だった。
無機質な天井。
いつもと変わらない日の光。
「最悪な夢だ」
俺は、ベットから起きる。
そのまま洗面所に向かう。
そして、コップいっぱいの水を飲む。
さっきの夢はなんだったのだろうか?
俺の希望を表したものだろうか?
それとも、俺の罪悪感を表したものだろうか?
背徳と正義。
あってはならない二つ。
持ってはいけない二つ。
やつに近づくから持ってしまう二つの情。二つの思想。二つの思惑。
「概念破壊」
不意に放ってしまう。最悪な人間。
奴を殺して時見を忘れなければいけない。
忘れなければ俺は自分を保てない。