第四回『ツミツミツミ』
罪は償え 死は受け入れよ
パトロールを始めてから1時間経っただろうか。俺は殺気を感じた。
いや、さっきと言うよりも殺人の雰囲気を感じ取った。
「ここから5キロってところだな」
これは、あくまでも第六感というやつであり、あくまでも一族の血というやつである。
「にしてもだ・・・・この殺気は異常だ」
もはや死そのものというべきか。実に漠然とした力を感じる。
しかも5キロも離れたところで、この圧迫感とでも言うべきもの。
大体、5キロ先のものを感じ取るなんていうことですら、『無残』以外感じることがないくらいだ。
最初は無残の雰囲気かと思ったが、それ以上に黒い雰囲気である。
「こりゃあ、有無家の人間か?」
ただ憎愛ではないことは確かだった。むしろ憎愛は雰囲気というかそういうオーラを消すのが得意なため違う。
「やはり、そうなると『長男くん』か・・・」
有無 愚狡。異名は表裏殺し。
殺人鬼一家『有無家』の長男である。その殺すスピードと残酷さは他の有無の者とは比べ物にならないほどで、もう一つの異名が『残酷な残酷』と言われるくらいである。
行きたくない・・・わけではない。
「だが・・・・・部が悪い」
ここは無視をしなければいけない。人を殺す事を、無視しなければいけない。
「・・・・・くそ」
血が騒ぐというやつである。体中が熱く熱く死にそうだ。
断罪したい。裁きたい。償わせたい。
俺は、ナイフを確認して、表裏殺しのいる方向に体を向け歩き出す。
「断罪を・・・・始めるしかねえな」
「ここか」
何時間歩いたかわからないくらい歩き、殺人の雰囲気を感じる中心に近づいた。
殺人の雰囲気を感じるのは路地裏だった。
この先に、あの『残酷な残酷』がいるのだ。
俺は路地裏の中に一歩ずつ突き進んでいく。
路地裏の中は夕方でもあり暗くなっている。そして何よりもかなりの異臭だった。
腐った野菜やゴミの匂いで吐き気を覚えるくらい強烈になっていた。
しかし
進めば進むほど。ススメバススムホド
血の匂いがしてきた。チノニオイガシテキタ
肉片が落ちていた。ニクヘンガオチテイタ
臭う臭う臭う。ニオウニオウニオウ
触れたくない触れたくない触れたくないフレタクナイフレタクナイフレタクナイ
そこには、
有無愚狡がいた。
「・・・・・・・・・・」
表裏殺しはこちらに気づき、こちらを見やる。
その視線は刃物、日本刀のように鋭い切れ味のありそうな抉るような眼だった。
無言にも関わらず、圧迫感は尋常じゃなかった。プレッシャー、否殺気。
「・・・・俺に何か用か?」
低い声が聞こえる。少年の声だった。少年の声だったが、そこに込められているものは殺意だった。
俺はそれに応える。
「・・・・まあ、そんなところだ。にしてもひでえ有様だな」
表裏殺しの周りは血しかなかった。
正しく血の湖の上に立っているに等しかった。
「これでも、抑えたつもりだ」
「そうなのか・・・・これでな」
「人を殺すことに変わりはない。ただ単に方法が派手なだけだ」
派手・・・・という言葉ではない残酷なのだ。やり方も表裏殺しの心も残酷なだけだ。
ただ、人じゃない何かなのだ。
「お前は、弟が捕まったことを知っているのか?」
そう問うと、表裏殺しは頷く。
「勿論だ。もう手は打ってある」
「そうなのか」
「・・・・・・・話はそれだけか?」
表裏殺しは、手短にしたいらしく話を切ろうとする。
そうやって俺の命の線も切られるのだろうか。
「・・・・・フン。ナイフ5本で俺に勝てると思っているのか?」
勝てるわけがない。多分、戦車一台でも勝てないだろう。
「貴様、見るからに断罪者だな」
「ああ、そうだ。ただ今日は勝てそうにない」
そういうと、表裏殺しは頷く。
「ああ、無理だ。・・・・一生な」