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《短編》不運な私の逃走記

作者: 神泉 苑

 私の平和な日常が激変した理由。

 それは―……。

「エンキ!」

「来た!」

 隣国の王子達による口説き大作戦だ。根本的な原因は隣国に女児が生まれなかったことだ。これは数百年に一度の単位で隣国には男児しか生まれず、我が小国アルグレッテ森林王国の女児が隣国の男児に合わせて生まれる摩訶不思議な現象らしい。年頃になった男児はアルグレッテ森林王国にやって来て番を見つけ国に帰る。

 しかし、今回はそう簡単にいかなかった。隣国八ヶ国に対して女児は九人。異例なのだ。

 その異例が、私アルグレッテ森林王国の末姫エンキ・アルグレッテなのだ。

「エンキ!なんで逃げるの?」

「追いかけてくるからです!」

 逃げる私を追うのはメルシェラント・アルガティス。アルガティス鉱炎皇国の第一皇子。火山と鉱石が有名な国。純粋で姉達からも人気な一人。常に姉達からお誘いがあるはずなのに何故か私を追いかけている。

 しつこいメルシェラントを撒くために転移の魔法を使って消える。後ろから「あっ!」と言う声が聞こえたが無視だ。

 メルシェラントを撒いた私は私しか利用しない古い図書館に来た。ここなら誰にも邪魔されずに過ごせる。

「クスクス。本当にエンキはここが好きだね」

「……マルグリータ兄様」

「エンキが諦めて私の所に来れば追いかけっこは終わるよ?」

「可愛く首を傾げても口調が疑問系になってません」

 私が逃げ込んだ先にいた先客。それは隣国の従兄になるマルグリータ・スーシェン。スーシェン水郷国の第一王子にして我が国王の姉の子。幼い頃から遊んでもらっていた相手であり、私を溺愛している一人。もう一人は我らが兄で王位第一継承者だ。そっちは奥方がいるのでどうでもいい。問題なのは今目の前にいるマルグリータだ。こいつは何をするかわからない。用心するに越したことはないと私が一歩後ろに下がると何かにぶつかった。そして、お腹に回された手。恐る恐る見上げると甘いマスクのお方がいた。

「マルグリータより私になさい。エンキ」

「シルメリア様……」

 エデン太陽国の第一王子シルメリア・エデン。神の彫刻と言われる整った容姿を持つ鳥翼種の王子。誰もがまともにその姿を見ることが出来ず敬遠していたのに私だけが普通に接してしまったが為に起きた悲劇。

 シルメリアは私を抱き締めて愛おしそうにしている。目の前には面白くなさそうなマルグリータ兄様。私に残された逃げ道はただひとつ。

「シルメリア様」

「なーに? エンキ」

「裂きますよ?」

「……」

 甘い声を出すシルメリアに笑顔で放った死刑宣告。私が風の魔法を放つ準備をして言うとシルメリアは私を放して距離をとった。

 鳥翼種は羽をもがれると死に絶える。私はそれを利用してシルメリアを引き剥がした。

 シルメリアが離れてから私はすぐに転移の魔法を使って逃亡。お決まりのパターンと化してきたこの行動もお見通しのようだ。

 私が向かった先は聖堂。そこにも先客がいた。

「お待ちしておりましたよ、エンキ」

 待ち受けて居たのはアルティナ教主国の教主マダグレーナ・アルティナ。

 何故こうも行く先々に待ち構えているのか。物凄く不愉快だ。

 私の怒りの感情を読み取ったマダグレーナは苦笑した。

「エンキ、怒りを鎮めなさい。この事態を引き起こしているのはあなた自信なのです。あなたの生まれ持った魅力に皆、魅了されるのです」

「私は平和に過ごしたいの!」

「それは無理です。だってあなたは王族にとってはとても魅力的な存在なんです。私達という存在を認めてくれる唯一の存在なんですから」

「ッ!」

 危うく飲まれかけた。マダグレーナの瞳は魅魔の魔眼と言われていて見るもの全てを魅了する。私も長時間直視すればたちまちにマダグレーナの虜となるだろう。それでは奴の思う壺。

 とっさにマダグレーナから距離をとって聖堂から出ていった。向かう先は謁見の間。

「父様!」

「来たか、エンキ。さぁ、選べ。お前の結婚相手を」

 私が謁見の間に入るとそこには王子たちがいた。父親が私に王子たちを選ぶように催促する。父親すらも敵に回ったようだ。その状況に不利を感じた私は国を出ることを決意した。

「エンキ、迎えに来たよ」

「セルシア!?」

「じゃ、貰っていくから」

「エンキ!」

 突如現れたのはレンファルエン魔王国魔王セルシア・レンファルエン。セルシアは私の学友だ。

 セルシアは私を姫抱っこして華麗に拐っていった。誰も手が出せないように素早く転移の魔法を使って。

 謁見の間に響く叫ぶ声は兄のものだった。一瞬、居たのかと思った私だった。

 セルシアにより拐われた私はレンファルエン魔王国にいた。そこでは今までと変わらぬ生活をしていた。

 だが、セルシアからの過剰なスキンシップに私のストレスは爆発寸前だった。

「セルシアさん」

「なんだい?エンキ」

「ベタベタし過ぎ」

「今までエンキ不足で死にそうだったんだ。これぐらい良いだろ」

「良くない」

 執務の時も人形のように私を持ち歩くセルシア。レンファルエンの家臣も何も言わない。誰か反抗してくれ!と言うのが私の本音だったりする。

 私がどうしようかと思案していると家臣が入ってきた。

「失礼します、陛下。お客様がお越しです」

「そうか。わかった」

「では、失礼します」

 家臣が来客を告げて出ていくとセルシアは私を膝から下ろし椅子に座らせた。そして、セルシアは部屋を出ていった。残された私は首を傾げ、セルシアの後を追いかけた。

 私が謁見の間に着くとそこには王子達とセルシアが対立していた。

「エンキ!大丈夫!?」

「大丈夫だ。お前たちが考えるような事はまず無い」

 王子達が私を見付けると騒ぎ出す。呆れるしかない私。ここまでくると引く。これは異常だと本能も告げる。

 私はある決断をする。

「わかった。アルティナ教団に入団する」

「!駄目だよ!エンキ!」

「そうです!入団は許しませんよ!」

 一斉に私を説得し始めた。さっきまで対立していたのが嘘のようだ。その説得は私が頷くまで続いたのだった。


「誰かこいつらの目を醒ましてくれ!」

 私の心の声が届くことは無かった。



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