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3話 どれが偶然?



「駅でいいのか」

「はい」

「これから帰る訳では無いだろう」

「明日、帰ります」

「そうか、夕食を一緒に取ろう」

「は?」

「風邪を引くぞ」

周は自分の上着を脱ぎ、私に掛けてくれた。

私の上着はキャリーバッグの中に入っている。

濡れたワイシャツが気になってはいたのだが、トランクに入れられた為に取り出せない。

周は何を考えているんだ。(でも、暖かくて気分が解れる)


九条周、彼は良く行くバーで度々会う常連のシュウである。

周という漢字は普通読みなら「シュウ」だろう。

しかし、秘書課の同じ高校だった彼女から聞いた読みは「あまね」である。

「あまね」と呼ばれたく無い気持ちも分からない訳でも無いが。

嫌々、それよりも自分が勤める会社のライバル会社の御曹司だったとは驚いた。

見る度にセンスの良い高級そうな洋服を着ていたので、金持ちだろうとは思っていたが、私の想像する金持ちとは桁違いだ。


九条家とは元々は貴族(華族)で、古くは源氏の血を受け継ぐ血族だと言われている。

戦争での敗戦に伴い貴族(華族)制度は廃止され、貴族は消滅しているが九条家や西園寺家など、未だにその名を知らしめている貴族は多い。

その中でも九条家は時代の波に乗り、車産業や重油の貿易、銀行・学校・医療・ホテル経営等とあらゆる方面で活躍している。

TTK技研工業も初代創業者は九条家の人であり、周の祖父にあたる人だ。

現会長も創業者の息子で周の父親で、次期会長もその息子の長男だろうと噂されている。

世襲制は何時でも問題とされるが、この家の血筋は優秀な人間を生み出している為か、余り問題視される事が少ない。


そんな高貴な方と何の因果か向かい合わせで食事を取っているが、たまたま顔見知りだったからの気まぐれだろう。

(自分のジャケットはレストランに入る前に取り出せたので、礼儀には差し支えないだろう)

高級ホテルの高級フレンチは美味しいのか美味しくないのかさえ分からなかった。


「九条様、今夜は大変御馳走になりました」

深々とお辞儀をしてエントランスで別れる事にした。

「泊まる所は決まっているのか」

「いえ、駅前のビジネスホテルに泊まるつもりです」

「ここに泊まればいい。荷物も部屋に上げてある」

「!?そ、それは、遠慮致します」

あーもー面倒だし。荷物を取りに行かなきゃ。こんな高級ホテルに泊まれる身分じゃ無いんだよ。

等と内心焦っていた為、私を呼ぶ声が聞こえなかった。


「おい!ルーだろ!?」

肩を思い切り掴まれ、後ろへよろけたのを支えているのは懐かしい顔だった。

それは高校の同級生の池端君。

「あ?えっ? おー イッケ!」

「久しぶりじゃん!帰ってるんなら連絡よこせよな!」

「仕事で来てたから時間取れなくてさー」

「何時帰んのさ」

「明日」

「じゃあ、今から飲みに行こうぜ!タカシやマヤも先に飲んでるしさ」

「おー懐かしいメンツじゃん!」

「彼氏も一緒に行こうよ!」

「邪魔じゃ無いかな?」

「気にしない、気にしないって!」

「待て、イッケ!彼氏じゃないってば、会社の知り合いだって!」

「いーからいーから、ほら、行くべー」

男二人は何やら楽しそうに会話をしながら先を歩いて行く。


待て、何故九条さんが一緒に行くんだ。


ああ、もう知らんぞ。



・・・チリリリン・・・チリリリン・・・チリリリン・・・

んー・・・携帯・・・何処だー・・・

あー・・・面倒・・・


「・・・ああ、分かったよ。伝えておく。そうだね、また飲もうな。楽しかったよ」


ん?

誰?


ベッドが軋み、私の髪を撫でる人が居る。

「?」

あー瞼が重い・・・でも何かがおかしい。

眼球に力を込めて一気に瞼を持ち上げる。

「・・・・・うわっ!」

目の悪い私が驚く程、直ぐ目の前に周の顔があった。

「やっと目を覚ましたか」

「・・・何で?何であんたが居る」

「ここは俺の部屋だが」

「か・・・鍵を掛けた筈だ」

「ドアは一つじゃ無い」

周の顔が楽しそうに歪んでいる。


昨夜は記憶を失くす程飲んでいない。

ってか、記憶を失くした事が無い程強いんだが。

(只、一度寝ると起きれないのが問題だったりする)

荷物を取って別のホテルに行くと言ったが、もう遅いからここで寝ろと押し問答をした。

最上階のペントハウスで寝室が3つも有るし、鍵も掛かる、一人で寝ても二人で寝ても金額は同じだから、タダで寝て行けとの言葉に思わず乗ってしまった。

少しは酔っていたし、眠かったのだ。


あーこいつの言葉を信じた自分が呪わしい。


周を部屋から追い出し、全てのドアの鍵をかけ(二か所もあった!)急いでシャワーを浴び、身支度を整えてホテルを出る事にする。

「この度はありがとうございました」

「もう行くのか」

「はい。千歳までは時間が掛かりますので」

札幌市内には近距離間の空港しか無い為、千歳市の千歳空港まで約1時間掛けて行かなければならないのだ。

窓辺でコーヒーを飲みながらこっちを振り返る姿は、少しだけカッコ良かった。

長身にスリムな体は無駄な贅肉が無く、薄っすらと割れた筋肉が程よく盛り上がっている。

腰履きのグレーのスウェットは、長い脚を覆い隠すようにゆったりとしている。

早い話が上半身裸で、これ見よがしに色気を漂わせているだけなのだ。

これで性格が良ければモテるだろうに。

嫌、このままでも十分モテるんだっけ。



飛行機の中でコーヒーとサンドイッチを頬張り、やっと生きた心地がした。



週末の金曜の夜、いつものバーに足を運ぶ。

扉の片隅の薔薇の花を見て安心すると、重そうな扉を開いた。

「おう、お帰り」

「ん、ただいま」

「ルウくん!ありがとうね!カニ!」

「あーいえ、お世話になってるから」

先週の札幌出張の時に、カニを送っておいたのが届いたのだろう。


カウンター奥の席に座ろうと目をやると、先客が居た。

(周に取られたか)

椅子を二つ空けて座る。

お互い軽く会釈を交わし、一言も会話も無く、ぼーっとしながらウイスキーを飲んだ。


翌週も、その翌週もカウンター奥の席には座れなかった。

十一月も中盤になる頃、早目の忘年会の人出でこの店も混むようになっていた。

そんなある週末、何時もより少し遅く入ったバーの中は満席だった。

「おう、ルウ、カウンター入れ」

「えっ?」

「ルウくん!こっち来てー」

ママの声に、しょうがなくカウンターの中へと入って行く。

「ごめんね?おつまみが溜まっちゃってねー、急いで作るから、その間カウンター頼めないかしら?」

「ああ、そういう事なら良いですよ」


カウンターの席には半分以上が見知った常連さんで埋まっていた。

奥の席から、三輪さんの知り合い、三輪さん、倉沢さん、白さん、白さんの連れ、私の知らない人三人。

「ルウくん、僕にハイボールお願い」

ジャケットを脱ぎワイシャツの腕まくりをしてカウンターに立った瞬間、オーダーを入れたのは三輪さんだ。

「オレ、ハーパーロック」

これは倉沢さん。

ボトルで飲んでいる人のグラスを見ると、まだ半分以上入っているから、この二人の分を作る事にする。

後は、グラスの減り具合を見ながら適当に足しておけば良いだろう。

白さんは連れの人と何やら話し込んでいるから相手は要らないだろう。


奥の席に座っていた三輪さんの知り合いが、三輪さんを残して帰って行った。

その人と入れ替わる様に周が入って来た。

私の特等席に腰を下ろす。(もう少し遅くに来るんだったな)

マスターが周のキープしてあるジャックダニエルをカウンターに置く。

私は氷と水とグラス二つを用意して、JDに手を掛けた所で声を掛けられた。

「山崎、ダブルで」

周の前にはジャックダニエルが鎮座しているが、山崎とは。

「お前も飲んだらどうだ」

「ん、サンキュ。そっちでも良い?」

目の前のJDに目をやる。

「ああ」


奥から出てきたママと、グラスを取り出そうとした私とぶつかった。

パチッ、と音がして髪の毛を止めていたヘアクリップが飛ぶ。

「「ごめん」」と言い合い、クスリと笑い合う。

ヘアクリップを探すが何処にも無い。

後で探すことにして今は注文を捌く事に専念する。

胸元まで伸びた髪の毛は癖毛で広がり易い。それを耳に掛け片方に流してワイシャツの胸元に突っ込んでおく。

それでも少しずつ髪の毛が顔に掛かってきて大層邪魔だった。


「はい、山崎さんのダブル。私はジャックのダブルを頂きます」

グラスを合わせて、相手が一口飲んでから自分も御馳走になる。

「経験者か?」

「何が?」

「手馴れてる」

「ああ、大学の時にバイトしてたから」

「ええ?ルウ、ホステスしてたの?」

この横槍は三輪さん。

「私にホステスなんぞ務まりませんよ。小さなカウンターバーで働かせて貰ってたんですよ」

「へー、長坂さんの意外な一面を見たな」

「倉沢さん、会社では内緒ですよ」


カウンターの飲み物を捌き終わった頃に、テーブル席からの注文が入った。

殆どがカクテルだったので、こちらはマスターにお願いする。

カクテルは作る人によって味が変わるのだ。

私は横で飾り用のライムやレモンを切っておく。

ピュッ と果汁がメガネに飛んだ。

メガネを外してその辺のふきんで拭き取る。

メガネを掛け直してカウンターに目をやると、そそくさと皆の視線が逸れた。


気のせいだったかな。


何故か周に睨まれた。







雨の中を走って行く男性、それもスーツ姿の男性だと男前度が30%は増すと思ってます。女性の場合、軒先で雨宿りしているんだけど、雨が掛かって濡れたブラウス、それも白いブラウスで少し体に張り付いて、中に着ている下着が見えたりしたらドキッとしませんかね?

私的には萌度50%です。これが男性だともっと確率が上がりそうな気がしますが、周はどう感じたんでしょうか。(笑)

3話では周の強引な所を盛り込んでみましたが、いかがでしたか?


さて、名前の記載で九条と言う苗字を使用させて頂きましたが、実際の九条家とは何ら関係は御座いません。

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