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34話 結婚と離婚




「しづ、これは何だ?」

「んー? あ、それ?見れば分かるじゃん。離婚届」

「何でこんな物が結婚届と一緒に有るんだ?」

「え? 見たかったから?」

「・・・・・」

「だって、結婚届貰うついでに離婚届も見たくなったんだもん」

「縁起が悪いと思わないのか?」

「え・縁起・・・悪くなるのか?」

「はぁ・・・」


長坂秋弦ながさかしづる、明日から九条秋弦になります。

明日、10月20日は私の誕生日で、その日に婚姻届を出すと周が決めたから。

と言うか、お互いに昨年の暮れにモルディブで婚姻届を出した事ですっかり安心しており、あれは日本では有効では無い事を失念していたのである。

それに気が付いたのが先月で、それも御影さんに言われて思い出したのである。

だって、モルディブから帰って来てからと言うもの、本当に毎日忙しかったのだ。


1月10日に帰国してから、東京―仙台―札幌、と何往復したか知れない。

前にモルディブで周が気にしていた事が現実となり、私の父が結婚に反対したのである。

周が気に入らない訳では無く、結婚そのものが嫌で私を手放すのが嫌だと駄々を捏ねた。

何を今更?離れて暮らして何年経つと思ってるんだ?等と思ったが、父の寂しそうな顔を見ると、そんな事は言えなかった。

周には先に仙台へ帰ってもらい、私は一週間程滞在する事にした。

その間は今まで通りに生活をし、地元の友人が遊びに来たり、母と買い物に行ったり、父とチェスをしたりと至って平穏に過ごしていた。

そんなある日、三宅夫妻と池端家族が遊びにやって来た事で好転する。

三宅夫妻が揃って来てくれたのは、私に麻耶が妊娠した事を伝える為だった。タカシマヤは結婚して五年目のご懐妊に皆が喜んだ。麻耶は悪阻が酷くて少しゲッソリしていたが、体調は良いらしい。一緒に来たイッケの子供を見ながら、とても幸せそうだった。

イッケの子供は男の子で二歳、そして奥さんのお腹は六か月と結構目立ち始めた頃だった。

其処へ未来の旦那様(予定)が登場して、家の中は大層賑やかになった。

イッケとタカシマヤは前に周に会っているので、「久しぶりー」等と言いながら楽しそうに話している。

そして、その傍らでイッケの息子が何故かうちの父に懐いてしまった様で、父の趣味のプラモデル作りを手伝っている。

母がその様子が可愛いと、携帯で写真を撮っている。


「周君」

急に父が声を掛ける、が、こちらを見ていない。

「はい」

「私も・・・孫の顔が見てみたい、な」

「・・・はい!直ぐにでも!」

「ばか!何言ってるのよー!」

「お義父さん、お許しを頂けたと思っても宜しいのですね?」

「・・・まぁ、な」

うわ。どうしよう。凄く嬉しい。

嬉しくて父に抱きついて泣いてしまった私を取り囲むように、友人達が祝福の声を掛けてくれる。

「今夜は皆でお祝いしましょう」

母がそう言って、台所へ立った。

その翌日、周と連れ立って墓参りをした。


翌月になると、今度は志乃姉さんの出産が早まり急いで東京へと向かう事になった。

何か手伝いをするわけでは無いのだが、お産のお見舞いと出産のお祝いとで暫くの間、本家にお世話になった。

生まれたのは可愛い男の子の赤ちゃんで、「斗真」(とうま)と名付けられた。

モルディブの雪さんも来る予定だったが、漸くあちらにコウノ鳥が向かった様で、目出度く御懐妊となり今は大事を取っている。


何だか、私の周りにはお目出度が続出していると思うんだけど。何故だ?


春になる頃、今度は自分達の披露宴会場を決めたり、ドレスだの指輪だのと外出する事が増えた。

衣装に付いては全てをカレンさんが取り仕切り、デザイナーから生地選びと私を引っ張り廻すことを楽しんでいた。でも流石モデルだけあって、私に似合い、私が好む物を把握するのが上手い。


そのカレンさんも、やっと御影さんが結婚を申し込み、六月に結婚したのだ。カレンさんの誕生日ってのもあったけど、カレンさんはジューンブライドに憧れていたのだそうだ。

「ルーちゃんのお蔭なのよ?」とカレンさんが嬉しそうに言っていたが、はて?私は何もしていないと思うんだが。

その御影さんも、最近は私に対して愛想が少しだけ良くなった、ような気がする。相変わらず口は悪いが、時々ケーキとか買って来てくれるのが嬉しい。なんか、自分にお兄さんが居たらこんな感じ?みたいな気がしてる。

そうそう、御影さんの名前がやっと分かったのも嬉しい事の一つで、御影惇(みかげじゅん)と言う名前から、最近は惇ちゃんと呼んでいる。初めは嫌がったがカレンさんから了解を頂いているので、そう呼び続けている。(だって、御影さんって何時までも他人っぽくて嫌なのだ。それに苗字で呼ぶと二人共振り向くのも問題だしね)で、カレンさんの事はレンちゃんと呼べと言われている。

この二人、結婚の少し前に駅前の新築マンションに引っ越した。はずなのに、週の半分はここの家に来ているから、周の機嫌が悪かったりする。


今も居るから、物凄く機嫌が悪い。

「へー離婚届って初めて見たわ」

「でしょ?見て見たかったんだ」

「でも、縁起は悪そうだな」

「えー、そんな事知らなかったしー」

「普通は、両方なんて貰って来ないだろう」

「・・・ごめんなさい」

ダブル御影が腹を抱えて笑う姿を想像出来ますか?最悪だあー。

「何?どうしたの?」

と顔を出したのは雪姉さんである。


雪姉さんは六月の御影さんの結婚式に合わせて帰国し、そのままこちらでお産をした。

環兄さんも一緒に来ているが、今は一時モルディブに行っており、一週間後には戻ると言っていた。

雪姉さんの赤ちゃんも可愛い男の子で、「碧海」(あおい)と名付けられた。

佐々木夫妻も目出度くおじいちゃん&おばあちゃんである。

今仙台の家は住人が多く、佐々木夫妻も娘のお産等で大変な事もあり、新しくお手伝いさんが三人と厨房係を二人雇う事になった。


それと時を同じくして札幌の麻耶が男の子を出産した。

直ぐには行けなかったが一月ほど経ってからお祝いに行くと、もうお母さんの顔になっていた麻耶が寝不足だの何だのと言いながらも、生まれたばかりの赤ちゃんを抱かせてくれた。「遥大」(はるき)と命名され、すくすくと育っているようだ。

札幌に行ったついでに「小野原製作所」へも寄ってみる。

相変わらずの小野原君と大介、大介の彼女であり小野原君の妹の「沙知絵」(さちえ)ちゃんが出迎えてくれた。

彼らは最近太陽電池パネルの制作をしているらしい。


「へー、離婚届って婚姻届の色違いみたいな感じなんだね」

「やっぱりそう思うよね」

「なーんかこの縁の緑色が落ち着けって言われてる気がしない?」

「あー分かる気がする」

「・・・お前達、何だか楽しそうだな」

私と雪ねーとレンちゃんの三人で離婚届を手に騒いでいたら、周に叱らてしまった。

「しづ、行くのか?」

「アパート?行くよ。志乃ねーからも頼まれてるから」

「俺もこれから会社に行くから一緒に出よう」

「はーい」


惇ちゃんの運転で、私と周とレンちゃんが乗る。

雪ねーは赤ちゃんと一緒にお昼寝タイムである。

私のアパートの前で私とレンちゃんが降りる。

「仕事が終わったら迎えに来る」

「「はーい」」

と二人揃って返事をすると、車の中の二人が揃って笑っていた。


前まで住んでいたアパートは私の仕事部屋と様変わりしている。

志乃ねーの言葉通り、立花製薬から漢方の生薬が棚ごと送られてきたのは桜の花が咲く頃で、それ以来身内の為に漢方の処方をしている。

もともと置いて在った家具も大して無かったから、薬師棚が増えても大して狭くもならなかった。

今ではレンちゃんが私の助手となって手伝ってくれている。

初めは好奇心で始めた薬学も、勉強する程楽しくなったようで、今では私の手伝いをしながら専門学校へ通うほどになっている。だからかモデルの仕事も減らし、殆どを仙台で暮らしている。

しかし、時々東京へ行って雑誌などの仕事をしているのだが、その時に私を連れて行き、一緒にカメラの前に立たせるのは止めて欲しい。


長坂秋弦の名前で過ごせる最後の日も、なんだか慌ただしく終わりそうだ。








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