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33話 九条一家




テクマクマヤコン・テクマクマヤコン、あなたはだぁ~れ?

鏡の中の人物に聞いてみる。

見た事の無い程美しい女性が、驚いたような、情けないような顔で見つめている。


ここはホテルの一室である。

あの深紅のドレスを取りに来た筈が、部屋に連れて行かれ、着替えさせられ、髪の毛を巻かれてセットされ、洋服に合わせた色の化粧まで施された。

黒の光沢ある長い手袋を嵌め、ピンヒールの黒い靴を履き、大きな鏡の前に立った私は別人のようである。

ドレスを購入した店の女性スタッフが数人がかりで仕上げてくれて、出来上がった私にウインクを投げて部屋を出て行った。その時、隣の部屋の周に声を掛けて行ったのだろう、直ぐにノックが聞こえた。


隣の部屋で待っていた周がこちらに顔を出し、やっぱり驚いた顔で私を見る。

私の手を取り、甲にキスをする。

そのまま手を強く引き、抱きしめられたかと思ったら唇が重ねられる。

「あ、あの、口紅が・・・」

そんなのはお構いなしに、段々と深くなる口づけに気が遠くなりそうだ。

「ドレスを脱がせたくなる」

背中に手を回しファスナーに手を掛けた時、またドアをノックする音で彼が現実に引き戻される。

「皆様、お揃いです」


お互いティッシュで赤い口紅を落とし、私は鏡の中の周を見ながらもう一度紅を塗る。

彼は光沢のある黒のスーツに深紅のワイシャツ、黒いネクタイには金色の流れ星の刺繍が有り、なんと靴まで深紅色である。日本から持って来たのか、現地で調達したのかは知らないが、物凄く私のドレスとシンクロする。

鏡に映る二人はまるで外国の映画を見ている様だ。

「ダメだ、緊張して来た」

「大丈夫、俺が一緒に居るから」

大きな手が私の手を包み、その暖かさに安堵する。


そう、今日は1月1日のニューイヤーである。

周の家族との顔合わせの日であります。

周の家族と言う事は、TTK技研工業の会長にも会う訳で、次期会長も居る訳で・・・

私は本当に嫁になって良いのかと不安になる。

そんな心配を余所に周に手を取られ、ホテル内のレストランへと向かう。

レストラン入口で名前を告げ、右手にある階段を数段上がった所の個室のドアの前に立つ。

周は私の顔を見て微笑み、繋いだ手をぎゅっと握ってから、そのドアを開けた。



「ルー!あなた痩せたんじゃない?」

「そんな事は無いですよ?きちんと食べてます。あ、でもユキさんの手料理が懐かしいかな」

「いつでもいらっしゃい」

「はい」

「ルー、凄い美人さんだったんだね」

「マキさん。色々とお世話になりました」

「日本に戻るの?」

「はい」

「またおいで」

「はい」


この部屋は、食事の前に寛ぐスペースになっており、ゆったりとしたソファがコノ字型に置かれている。

私達が入って直ぐに声を掛けてくれたのは、周の直ぐ上のお兄さん夫婦だった。

環さんは黒のスーツ。

雪さんは桜貝色のふわりとしたシフォンのドレス。


周に手を引かれて向かった先には、白い物が混じった髪と相応しい目じりの皺がやさしそうな男性と、栗色の髪の毛を低めに結い上げ年相応にふっくらとした女性が居る。こちらを見てニコニコしており、二人で何かを囁いては頷いている。多分周の両親だろう。

「親父、お袋、彼女が長坂秋弦さん」

「初めてお目に掛ります。長坂秋弦と申します」

お辞儀をするが、靴のヒールが高くて転がりそうになる。それを周がそっと支えてくれる。

「初めまして。父の雅弘です。この度は会社の為に素晴らしい人材を探し出してくれてありがとう!本当に君には感謝しているよ」

「まあ、あなた!こんな時に仕事のお話なんていけませんわ。秋弦さん、母の桃子です。ゆっくりしてらして下さいね」

「あ、はい。ありがとうございます」


次に紹介されたのは、長男の亘(めぐる)さんと、奥様の志乃さん、と娘の桔梗ちゃん。

亘さんは見た目、兄弟の中では一番おっとりとした雰囲気を持っているが、最初に目が合った時の眼光は結構強く、このお兄さんには隠し事が出来ないだろうなと感じた。

身長も周や環さんと余り変わらず高いが、年齢の所為かお腹周りが他の二人より一回り程大きいようだ。

「周を頼むよ。それと早目に東京に帰って来てくれ」

これは、私と言うより、周に早く本社に戻って来いと言っているのだろう。

「そうね。こんな可愛い義妹が出来るのなら、早く帰って来て欲しいわね」

私より背の高い奥様の志乃さんは、迫力のある美人だ。でも、何処かで見た事が有る気がするのだが、さて何処だろう。

夕日の様な濃いオレンジ色のカシュクールドレスが、ほんのり日に焼けた肌に似合っている。ウエストはゆったりとしており大きなお腹を抑え付けない様になっている。

予定日は2月の末だと教えてくれた。

「ママ!シュウちゃんのお嫁さん?」

六歳の桔梗ちゃんは、六歳とは思えない位大きい女の子だ。小学校3・4年生位の子供と同じ位の身長があるだろう。この両親のDNAを受け継げば嫌でも大柄になると想像出来るが、顔は小顔で大きな目と笑うと両頬に出来るえくぼが可愛らしさを印象付ける。着ているドレスも白くて妖精みたいに可愛い。

一通りの挨拶が済む頃、奥の個室へのドアが開き、長くて大きなテーブルが目の前に現れた。


食事は和やかに進んだが、緊張の余り何を食べたのか、どんな味がしたのか全く覚えていない。それに加えて、何の話をしたのかさえ記憶に無かった。

食事の後、同じ部屋の奥まった所に置かれたソファに移動し、兄弟三人はグラスを片手に楽しそうに話している。

その傍らで女三人は紅茶を頂きながら、何故か私の事を根掘り葉掘り聞かれている。

ご両親は桔梗ちゃんを連れて、すでに部屋へ戻っている。

「えっ?ルーちゃん薬学科だったの?」

「はい。特に漢方薬の研究してましたね」

「それなのにどうして就職先が別の分野だったの?」

「ああ、それはですね、就職先が少ない事が原因です。製薬会社は少ない上に競争率は高いです。私の場合は漢方の比重が高かったから余計でしょうね。薬局の薬剤師も考えたんですが、それはもう少し年を取ってかられでも出来そうなので、今は別の事をしてみようかなと思ったんです」

「そっか。そうね、薬剤師はまだ早いわよ」

「・・・ルー、頼みがあるんだけど」

志乃お姉さん、もう呼び捨てですか。全然OKです。下っ端ですから。はい。

志乃お姉さんの頼みとは漢方の処方だった。

眠りが浅いのが悩みで、些細な音に目が覚め、酷い時は時計の秒針を打つ音で眠れない事があると言う。

じゃあ私もお願いと言い出したのはもう一人のお姉さんの雪さんだ。

雪さんは時々偏頭痛に悩まされているらしい。出来れば市販の薬は飲みたくないと言う。どうやら薬を飲むと一日寝てしまうし、翌日もぼんやりしてしまうらしい。

「そうですね、処方してあげたいですが、薬草を揃えるのに時間が掛かるのと、あの・・・高額なので仕入れが出来るかどうか・・・」

「ああ、ごめん。それは大丈夫よ。用意させるから、必要な薬草をリストアップしておいてくれるかしら?」

「・・・はぁ・・・」

「くすくす、ルーちゃん大丈夫よ。志乃ねーさんの実家、製薬会社だから」

「・・・えっ?」


あー思い出した!

「志乃お姉さん、もしかして女優の立花志乃さんでしたか・・・?」

「ふふふ、気が付いたわね」

やっぱりか。

どうりで見た事が有る筈だ。

桔梗ちゃんが六歳だから・・・もう七・八年位も前になるのか、芸能界を引退してから。

立花志乃さんは、父親が立花製薬会社の社長で母親が元宝ジェンヌと言う生い立ちの人だ。

彼女は三人兄妹の三番目の長女、上には二人の兄がいて長男が後を取ると言う話を聞いた事がる。

志乃さんは年齢イコール芸能界と言う人で、赤ちゃんの頃からTVに出ていた人である。

日本の国民が彼女の成長をテレビの画面を通して見ていたと言っても過言では無い人である。幼い頃から絶対美人になると言われていたが、幼い頃から美人だったから、何時から美人になったのかは誰も解明出来ない謎である。(例えて言うなら、欧米版米倉涼子さんって感じでしょうか)

しかし好きな人が出来たからと言って結婚を機に早々に芸能界から引退して、その後一度もテレビに出て来ない事に、結構残念がった内の一人である。

で、その志乃さんがその頃と変わらず、嫌、それ以上に美しい姿で目の前に居る訳で。


「志乃姉さん、雪姉さん、これからどうぞ宜しくお願い致します」

「「ルー、宜しくね」」








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