31話 欲望と理性
12月25日は自分にとって一生忘れられない日になるだろう。
自分の誕生日以上の意味で、この日は特別な日となっていた。
昨年のこの日、秋弦を探し、今年のこの日、秋弦を見つけた。
思い返せばこの一年、自分の今まで生きて来た人生の中でも必死に走ったと言える一年だった。
あれ程待ち望んだFCのバッテリーは性能が悪く、アメリカへ確認に行って見れば70%所か65%にも届いていなかった。
自分が焦り過ぎていたのを実感し、相手の話を鵜呑みにした自分が愚かだった。
あれ程夢を実現したくて研究を続けていたのに、途中からはその意欲も無くし、あの研究自体がどうでも良くなっていた。
サムに誘われるままアメリカへ行こう等と考えていた自分が情けない。
それに比べ、秋弦や大介達の研究は素晴らしい物だった。
よく半年間でこれだけの物を作り出したと驚くばかりだったし、FCVの性能を見切った大介にも好評価であった。今ではあの研究は私の手を離れ、大介と聡が中心となって進んでいる。俺はオブサーバーとなっては居るが、早い話が大きな額のお金が必要な時にハンコを押すのが仕事である。
これでゆっくり出来る。
漸く秋弦を探しに出られると喜んだのは、もう12月も過ぎた寒い季節だった。
仕事は御影に任せ、家に帰って佐々木のじーさんに彼女を探しに行くと言うと嬉しそうに顔を綻ばせていた。
彼女の携帯のGPSを辿っての旅だったが、GPSの指し示す位置が大雑把過ぎて笑える。
まずはプーケットへ行き2・3日探したが見つからず、次にモルディブへと来た。
家族が年末年始を過ごしに毎年来ているのでそれと合流する。
直ぐ上の兄がここに住んでいるのは知っていたが、遊びに行った事が無く、家族と過ごすホテルよりもゆっくり出来そうだったので、立ち寄る事にしたのだった。
昨年の今日の日を思い出し、今日も偶然が無いだろうかと考えていたが、残り数時間では期待も出来ない。
兄の家に足を運び、何処か懐かしい感じの住まいに笑みが漏れる。昔よく兄弟で遊びに行った祖父の実家に似ているのだ。
室内からデッキへ向かう兄夫婦が、誰かを呼んでいるのが聞こえる。
「ルー」
一瞬、秋弦の顔が浮かんだが、まさかそんな偶然は無いだろうと頭を振り、彼らの要るデッキへと足を踏み出した。
砂浜を駆ける一人の女性。
長い髪の毛にTシャツ、短パン。
それから伸びる細く長い手足が必死に動いていた。
片手にはビール瓶を握りしめて走る姿に、アイツらしいと笑ってしまう。
偶然では無く、必然。
驚いている兄夫婦を余所に、デッキを飛び出し追いかける。
やっぱり俺達は一緒になる運命なんだよ。
なあ、秋弦。
砂浜の真ん中で捕まえ、砂に足を取られて転んだ彼女と一緒に砂の上に転がる。
俺の目の前には驚きで目が丸くなっている秋弦がいる。
ああ、間違いなく秋弦だ。
力一杯に抱きしめ、砂交じりの口づけを欲す。
彼女が気にしていた大介との約束は、日本を出る前に解消されていた。
大介は今や時の人で、言い寄る女性も数多く、人生最大のモテキだと本人は豪語している。毎晩別の女生と遊び歩き、研究もせずに飲んだくれる大介に呆れていたが、そんな大介の心を射止めたのが、聡の妹だった事に皆が驚いた。
聡の妹は今年高校を卒業したばかりで、進学せずに家の手伝いをしている。
聡の方はどうやら彼女が居るらしいのだが、教えてくれる気は無さそうだ。
兄達に簡単な話をして、彼女を寝室へ連れて行ってベッドへ入る。何もしないで只抱きしめるだけだったが安堵する。直ぐに寝息が聞こえ、時折ピクリとする彼女の背中を摩りながら寝かしつける。
暫く彼女の香りを楽しんでいたが、眠れなかったのでリビングへ向かうと兄夫婦が起きていた。
飲むか?との問いに、遠慮なく頷き、今までの事の次第を打ち明ける。
兄は渋い顔をし、姉は涙を貯めながら聞いている。
どうやら俺は悪者になってしまった様だ。
それで構わないし、彼女の味方が増えるのは嬉しい事だ。
両親にも会わせるつもりだし、一番上の兄にも会わせたい。
そんな話をしている時、何処からか小さな声が聞こえた。
それは声と言う物では到底なく、心が千切れそうな程切ない泣き声だった。
慌てて部屋へ戻ると、容がベッドの中で小さく丸くなって泣いていた。
「しづ」
声を掛けて頭を撫でるが一向に収まらず、やっと開いた瞳は虚ろだった。
怖いと言う言葉が胸に突き刺さる。
ここまで追い込んでしまったのかと思うと、自分自身が嫌いになる。
ドアには心配した兄夫婦もおり、泣いている姉さんの肩を抱きながら兄さんが静かにドアを閉めた。
水上ヴィラに来たのは正解だった。
秋弦の表情が格段に違うし、楽しそうだ。
昨夜の事が現実で、ヴィラの案内係りから「Mrs.クジョウ」と言われて顔を真っ赤にしている姿は可愛かった。
昼食は手軽なクラブサンドとワインを持って来て貰い、デッキで海を見ながら食事をする。
お互い話す事が有りすぎて、どれから話したらよいのか悩んだ末、メモ用紙とペンで三月からの月を一枚ずつ大きく書いて、古い月にあった事から話始める事にした。
床に広げた三月から十二月までの十枚の紙を見て、お互い苦笑いをする。
「なあ、しづ、話の前に聞くけどメガネはどうした?」
「視力矯正の手術を受けたんだ。前からしたかったから」
「メガネが無いと可愛いな」
「げっ、なっ、何を言うんだ!」
しどろもどろになるしづも大変可愛い。
昼食を取って少しすると、彼女が欠伸をし始めた。昨夜は余り眠れなかっただろうと、ソファにクッションを沢山並べて抱きかかえる様に横になる。
「サマンサは嫌い。私の出来ない事をするから。でも彼女が居なかったら今の私も無いのかと思うと複雑かな」
「そうだな。サムもまさかバッテリーの研究の為にトロントに行ったとは思っていなかっただろうね」
「やっぱりサマンサには悪い事をしたのかな・・・」
サムは結局何も手に入れられなかった事になる。仕事も俺も。
もしもあの時、間に合わなかったらと思うと、背筋が凍りそうな気分になる。
スースーと穏やかな寝息が聞こえ始めた。
それを聞いている俺も眠くなってしまった。
誰かの手が優しく頬を撫でる。
その手を摑まえて自分の口元へ持って行き、口づけをする。
目を開けると困った顔のしづが居る。
「起こしちゃった」
額にキスをして抱きしめる。
そのまま二人で海を眺めながら、ぽつりぽつりと今までの事を話し始めた。
夕暮れ時、デッキを下りて海に続く階段へ腰を下ろす。
俺はTシャツを脱いで海へ飛び込む。
水着が無いからと嫌がる彼女を引き摺り込み、海の中で抱きあったまま沈む太陽を見た。
彼女は結構潜れるし泳げるようだ。
明日はダイビングでもしに行こうかと尋ねると、笑顔で喜ぶ彼女が眩しい。
先に海から上がり、彼女に手を差し伸べる、一瞬躊躇するが手に掴まりデッキへ上がる。
水に濡れた衣服が体に張り付き、体のラインを強調する。
もう限界だった。
濡れたままの彼女を抱き寄せ、キスをする。
最初こそ拒むかのようだったが、少しずつ反応を示し始める。
押さえ切れなくて深く口づけを落とし始めると、彼女の口から深い溜息が漏れ始めた。
濡れた服を脱ぎ棄て、彼女の服も取り去る。
顔を赤くして首へしがみ付いて来る彼女をベッドへと抱き上げ、重なり合う。
「周、ありがとう」
愛おしかった。
彼女の全てが愛おしく、彼女の全てをこの手に出来る日が来た喜びに血が逆流しそうだった。
「優しくする自信が無い」
「えっ・・・んんっ!」
深く口づけを交わすと、小気味の良い反応が返って来る。
小麦色の肌はきめが細かく濡れた所為か吸い付く様に密着する。
腰から胸へかけて手を這わせる。
始めて会った頃より小ぶりになった胸の先端が固くなる。
口に含むと塩辛い。
「はぁっ・・・やっ・・・」
彼女の鳴く声が俺の感情に拍車を駆ける。
「しづ、俺を見て」
「あ・・・あま・ね・・」
固く瞑っていた目が開くと、彼女の緊張していた肢体も開き始める。
首筋に舌を這わせ、耳の後ろまでくると彼女の香が柔らかく香る。
俺の右手が彼女に染まる頃、彼女の足の間に滑り込み、ゆっくりと内へと潜り込む。
「あぁ・・・はぁっ!・・・」
ああ、こんな気持ちは初めてだ。
しづ、愛しいしづ、もう二度と離さない。
何度目かの絶頂を迎える頃、海の向こうから太陽が顔を出し始めた。
「周の変態!!」
「今更・・・だな」
ウインクをして見せると、ピンク色に染まった頬がぷっくりと膨らんだ。
R15です。多分。まずいかな~と思いながらも載せてしまいました。
ああ・・・チキンなハートが収縮します。。。
本編はここ辺りが終話になりますが、もう少しだけ続きます。
次話以降はエピローグ集と言うか、おまけと言うか、甘い内容となります。
但し、R15に引っ掛かる記述は多分・・・無いと思います。