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30話 義理の妹




「はっ・・・あっ・・・やっ・・・」

砂の上だろうが服や髪が砂まみれになろうがお構いなしに拘束されて、一言の言葉も無く唇を奪われる。

狂おしい程に乱暴に頭と背中を抱きしめられて眩暈がしそうだった。

熱く強引に口づける唇が砂にまみれて「ジャリ」と音を立てる。

「秋弦、やっと見つけた」

目の前にいるのは間違いなく周であり、重ねている唇も暖かく夢ではなさそうだった。

「・・なんで・・・」



荷物の様に周の肩に担がれ家の中へと入って行く。幾ら歩けると言っても下ろして貰えず、そのまま奥の部屋へと行こうとするのを止められた。

「周、こっちに来て座って。ルーちゃんも」

マキさんにそう言われては流石に周も足を止めた。

「ルーちゃんが探し人なの?」

ユキさんにまでそう言われて小さく溜息を付く。

私をソファに降ろし自分も隣に座るが、腰に回した手は外れなかった。


マキさんは、九条環(くじょうたまき)、周の直ぐ上のお兄さん。

ユキさんは、九条雪(くじょうゆき)旧姓佐々木で、佐々木夫人の娘さんだった。

通りで、マキさんの後ろ姿に周が重なったり、ユキさんの料理が懐かしかった筈である。

ああ、とんでもない所に飛び込んでいたんだ、私。

知らなかった事とは言え、運命は恐ろしいものである。



「私ね、妹が欲しかったの。ルーちゃんみたいな妹が。それでね、マキの弟が独身だし、今回ここに来るって言うからルーちゃんを紹介しようかと考えていたの。何となくだけど、そろそろルーちゃんが何処かへ行きそうな気がして、どうやって引き留めようかと悩んでいたんだけど、そんな心配しなくて良かったんだね」

そう言って嬉しそうに笑うユキさんが可愛い。

「僕もね、ルーが可愛くてさ。妹がいたらこんな感じなのかなって思ってた」

マキさんまで嬉しい事を言ってくれる。

でもね、でもね、それは無理なの。


「一緒になる約束をした人が居るから、無理なんです」

俯いたままつぶやく。

聞き取れるか聞き取れないか位の小さな声しか出なかった。



それはトロントのまだ寒い春の時、大介に仕事を頼んだ時の約束であった。

大介が掲げた只一つの条件が、「ルーがオレの物になる事」だったのである。

大学の頃から大介の気持ちは知っていたが、何処まで行っても友人でしか無く、そのまま大学を卒業し、私は就職、大介は日本を離れた。

まさか、まだ思ってくれていたとは思わなかったが、あの時はそれも好いかなと思ったのは本当である。


九月の末、夏目さんから借りた研究施設もタイムリミットを迎え、それまで作った試作品や研究データ等を車に積んで大介のアパートへ移動した。

残るはデータ解析等でPCが有れば十分な仕事だと言っていたので、仙台の御影さん宛てのFedExを用意し、私は一足先にトロントを出る事にしたのだった。

もしかしてのどんでん返しが有ったら、私はここに居たらマズイのだ。サマンサのヒステリックな怒鳴り声を聞きたい気もするけど、それだってどうなるか分からない。

大介もそれを了解し、後片付けが終わったら連絡すると言っていた。


大介からの連絡が来たのはバリ島からプーケットへ移動する時で、自分の研究が認められたと言ってはしゃいでいた。これから日本へ帰ってTTKの研究チームに加わるのだと嬉しそうに話していた。

次に連絡が来たのはプーケット最終日で、TTKとの正式な契約がなされた事とバッテリーの生産は小野原君の実家の「小野原製作所」で作る事になったと言っていた。

小野原君の実家が製作所だったとは驚きで、これからは小野原製作所の社員として研究を続けるらしい。どうやらTTKと小野原製作所が資本提携を結んだようだ。

小野原君はもう一年大学に通って、きちんと卒業してから社員になるらしい。でも、研究ばかりで大学に通っているのか心配である。

大介からはそれを最後に連絡は来ていない。


日本へ戻る時は大介と一緒と決めていた。

そうでもしないと、不安で日本へ帰れそうに無い。

日本に戻った途端周に見つかり今の様な状態になったら、私は結局大介との約束を守れなくなってしまう。

寝る間も惜しんで私に協力してくれた彼に、恩を仇で返す事は出来ないと考えていた。

だからあちらこちらの国を転々としていたのだ。

周に見つからないようにと。



「その約束なら無効だ」

周はそう言って自分の携帯電話を取り出し、ピッピッと操作すると私の目の前に差し出す。

携帯画面が動き始め、少しふっくらした大介が話し始めた。どうやら動画を再生させたらしい。

「・・・ルー、連絡してなくてごめん。あのね、僕、恋人が出来たんだ。だから、君との約束は取り消して欲しい。こっちに帰ってきたら連絡してよ。紹介したいから。・・・それと、君も大変な人に好かれたね?・・・僕の」ピッ。

まだ途中なのに、周が携帯を取り上げポケットにしまってしまう。

「まだ途中だよ?」

「あれだけ見れば十分だろう」

なーんか隠してるよねえ?

「兄さん、俺としづの婚姻届をだしておいてくれ。今日付けで頼むよ」

「へっ?」

「これ以上コイツを野放しにすると、宇宙まで行きかねない」

「了解。ここの市長とは友達だから」

「きゃー!ルーちゃんが本当に妹になった!」

「そう言えば、ルーちゃんのフルネーム聞いてなかったね」



マキさんにパスポートを渡すと、また周に担がれて今度こそ奥の寝室へと連行された。

私はベッドの上に放られ、そこから動くなと睨まれる。

部屋から出て行ったが直ぐにグレーのスエットを手に戻り、私を睨みながら着替え始めた。

前回は熊に睨まれた兎と表現したが、今現在は蛇に睨まれた何とかである。

そう言えば今夜の周は光沢のあるグレーのスーツ姿で、大変素敵である。

「あ、あの、シャワーを・・・・」

そう言えば砂だらけだったのを思い出してあたふたするが、ギシッと音を立てて着替え終わった周がベッドへ入って来た。私を後ろから抱きしめた格好で何も言わず黙っている。

耳に当たる周の息がくすぐったくて身をよじる。

「愛している」


こんなシチュエーションなのに、物凄くドラマチックな状況なのに、私は夢の中を漂っていた。

こんな幸せな夢なら毎日でも見ていたいと。

それどころか、夢から覚めなければ良いのにと思っていた。

でも現実は残酷で、ベッドで一人、目を覚ます。

余りにリアルな夢に涙が零れ、こんなに彼の事を切望している自分が惨めになった。

嗚咽が指の隙間から流れ、止めどなく溢れる思いに胸が押し潰されそうだ。

「しづっ!」

この声は現実なのか?髪を撫でる大きな手は夢なのか?目を開ければまた消えてしまうのかと思うと目も開けられない。こんなに臆病な自分が何処に隠れていたのかと詰りたくなる。

「しづ、目を開けてごらん」

そーっと目を開けると、少し困った顔の周がいた。

「・・・・・、また、夢だったと思った、怖かった・・・」

「大丈夫、俺は此処にいる」

「・・・うん」

そのまま暫く微睡んだ。

不意に目が覚めても、私の目に映るのは彼の胸だった。




翌日の朝の事。

「兄さん、ありがとう」

「ゆっくりしておいで」

「お正月には顔を見せてね?」

「はい」


水上ボートに乗って桟橋を後にする。

向かうのは北マーレ環礁のワン&オンリー リーティラと言う所。

マキさんがニューイヤー用に予約していたコテージを私達に提供してくれたのだ。

君達は二人きりになる事が必要だと言って、朝食を食べると直ぐにピックアップトラックに乗せられ、追い出されるように桟橋へと連れて来られたのである。

今朝方の私の泣き声が皆に聞こえていたらしく、私はかなり心配され、彼はかなり叱られた様である。

昨夜の事は、本当に夢かと思うほどにあっと言う間の出来事で、今もまだ彼が隣に居る事が不思議でならない。


連れて来られたのは美しい海岸線に沿う様に建てられた美しいヴィラ。私達が向かったのはそれより先の海に突き出した水上ヴィラだった。

ヴィラの天井は驚くほど高く、白い壁とタイルにブラウンの家具が置かれ、アジアンテイスト溢れる内装。デッキから海に張り出したハンモックが気持ちよさそうで、ここから眺める海は飽きる事が無かった。









病院でお医者様が処方する薬は十分注意事項を守って服薬して下さい。

事実、私の知り合いで睡眠導入剤を長い事服用していた方が、その薬を止めてから数日後に別人になりました。

それはまるで痴呆かボケかと思う症状と酷似しておりました。

日中に大いびきをかいて寝、夜中に手を叩いて楽しそうに歌を歌い、それまでは一緒に旅行をするほど仲が良かった人が悪人になったりと、それはもう一緒に生活している家族が可哀想な状況でした。

それでも二週間ほどで薬の副作用も抜け、突然正常に戻った事に家族や親せきはほっとしたそうです。


本人曰く、夢の中で夢を見ている自分を見ていた。と言っており、その間の出来事を克明に覚えているそうです。


皆様方もお薬の服用には十分ご注意下さいませ。ね。(笑)

私自身は鼻炎薬でも睡魔が襲うので、極力薬は飲みません。花粉症だけど・・・

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