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27話 夏目の本心は。




「凄い所に住んでいるね」

「・・・・・」

「この高級マンション、昨年の暮れに販売されて即完売。その殆どが海外の富豪。実質住人は三分の一位らしいよ」

「・・・・・」

「そうそう、FCの娘も買ったらしいから、偶には遊びに来るんだろうね」

「・・・知ってるんですね」

私の部屋に行くと言って聞かない夏目をマンションへ連れて来た。


このマンションはクイーンズ公園の近くに位置し、トロント大学もクイーンズ公園の隣に隣接いている。

マンションの十二階からの眺めは素晴らしく、クイーンズ公園の緑もトロント大学の構内も見渡せる。


「しかし、何も無い部屋だね」

「生活には困りませんよ」

部屋数は多く、寝室と思われる大きなベッドが置かれた部屋は三つある。その部屋にはバス・トイレが併設されており、好きな部屋で休むことが可能である。それ以外にもビリヤードの台やダーツが置かれた部屋もあり、今居るこの部屋もソファーが四つも有る広いリビングである。対面式の広いキッチンにも調理道具は全て揃っており、無い訳では無いのだが、生活感が皆無に感じられるのだろう。

実際に使っているのは一つのベッドルームのみで、キッチンさえ使用していない。

今もこのリビングに似合わない紙コップが二つ、テーブルの上に載っている。

途中のコーヒーショップで買った物だ。


「去年、お前に言わなかった事があった」

「去年?」

「山本さんの贈収賄の事は知っていたし、その事でお前が問われる事も承知だった」

「ああ、懐かしいですね」

「分かっていたが助ける事をしなかったのは、HIHを辞めるのが少し早くなるだけだと考えたからだ」

「辞めるのが早くなる?何ですかそれ」

「周とお前が一緒になれば、当然お前はHIHを辞めただろう」

「・・・・・」

「オレはそうなると思って居た」

この人はどうして私を追い詰めるんだ?

お願いだから放っておいて欲しい。

窓辺に立って、窓の外を眺めながら話す夏目の表情は分からない。

私はソファから立ち上がり玄関へと足を向ける。

「鍵は掛けなくていいから」


ジャラジャラン・・・・

手に持っていた車のキーが床に落ちる。

「夏、目・・・なにを・・・やっ・・・」

突然私の前に回り込んで来た夏目に唇を塞がれる。

昔を思い出す冗談の様な口づけとは違い、強引で私の心をこじ開ける様な口づけだった。

「オレは周を買いかぶり過ぎていた」

体の後ろから救い上げられる様に抱き上げられて、そのままベッドへと連れて行かれる。

「夏目っ!やめろ!」

以前とは違い体力に自信の無い今は、幾ら抵抗しても自分より大きな体を持つ男性を動かす事は出来ない。

「オレが間違えたんだ」

夏目の瞳は淡く揺らぎ、その瞳の中には悲しみが彷徨っている。

「ルー・・・」

「やめろ・・・たのむ・・・あっ・・・」

重ねられる唇は痛いほどに強引だ。

ボタンを外されたブラウスの中に夏目の手が滑り込む。

「お願いだ・・・やめ、て・・・」


夏目の手が離れ、私の頬を撫でたかと思ったら、体の上から重みが消えた。

「泣く程アイツが好きなのか」

零れた涙は止まらない。

何時からか泣くのを止めた私は自分の感情を何処かに置き忘れていた。

こんな風に強引に思い出させるのは残酷だと思う。

ああ、違うか、私が何時までもこのままなのがいけないのだ。

心を落ち着かせて涙を止める。

ベッドから起き上がり、身なりを整える。

「夏目さんは悪くないよ」

床に落としたキーを取り上げ、そのまま玄関から出て行った。



大介達の居る研究室へ向かう予定だったのだが、直ぐ後から来た夏目にキーを奪われ、今は助手席に座っている。

「何処にいくの?」

「行けば分かるよ」

着いた先は2m以上も高さのある立派な門の前だった。

夏目がポケットから小さな物を取り出し「ピッ」と音を立てると、目の前の立派な門がゆっくりと開き始めた。

大きな白亜の邸宅、その横には大きなプール、それらを通り過ぎた先に四角くて白い箱の様な建物が見えた。

それはまるで大学構内に在る研究施設を思わせる様な建物で、二階建のビル程の高さが有り窓の少ない外壁には大きな排気ダクトが数か所設置されている。

「これって・・・」

「どうぞ」

簡素なドアを開けた先には、沢山の機械やモニターが並べられた研究施設そのものがあった。それも全てが最新の物の様でビニールが被せられている。

「どうしたの?」

「後一カ月後に、うちでも充電式の研究が本格的に始まる。その為の施設」

「ここで?」

「そう。でも使うまで一カ月あるから、此処を使うといいよ」

「何で?」

「お詫び、かな。それに、夢のバッテリーを作ってくれればこっちも助かるしね」

「でも先に渡すのはHIHでは無いよ。それでも?」

「構わないさ。こっちだってこれから始めるんだ。その前に成果を見せて貰った方が助かるしね」

「夏目さん、ありがとう」


今日の最終便でアメリカへ飛ぶと言う夏目を空港まで送って行く。

不思議に思うのだが、この人は荷物と言う物を持って居ないのだろうか。

「ん?財布と携帯があれば十分だよ」

やっぱりこの人は分からない人だ。

空港に着いて車から降りた夏目は、車の中の私に笑いかける。

「一カ月後は何してる?」

「んー、そうだね、南のリゾート地でのんびりしてたいな」

歯を見せて笑う夏目に、私も笑い返す。

空港へ消えて行く夏目を一瞥して、彼らを迎えに車を発進させた。






もう時間が無い。

この一カ月で何処まで仕上げられるかに掛っている。

大介と小野原君も寝る間を惜しんで取り組んでいる事は知っている。

これ以上頑張ってくれとは言えないが、せめても最高の施設で思う存分自分の力を試して貰う他無いのだ。


研究室へ戻るとピザを食べている二人に出くわした。

大介に頼まれた資料は借りられなかった事、教授の部屋へも私はもう入室出来ないだろう事を話し、これから別の研究室へ移ると説明して荷造りを始めた。

一度に全てを持って行く事は出来そうに無いので、後日もう一度取りに来る事にして最低限必要な物だけ持って車へ乗り込んだ。

車で移動中、大介が急に笑い出してこう言った。

「そろそろルーも限界だと思っていたんだ。あの教授も意外としつこいからさ。で、どうやって振ったの?」

「はっきり言っただけよ」

「教授の顔が見たかったなー」

そう言いながらまだ笑っている。


新しい研究所へ着くと、二人とも顔色が変わった。

被せてあったビニールを全て外し、それぞれの電源を入れ始めた。

大介は「お゛―!」と声にならない声で叫んでいる。

小野原君は声こそ出さなかったが、頬がピンク色に変わり口角がいつも以上に上がって嬉しそうな顔をしている。

(良かった)

二人の興奮を黙って見ながら、その日はこの研究所で夜を明かした。











ちょっと妄想が止まらない~♪ ハハハ



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