表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/37

24話 嘘も方便




「じゃあ、行ってきます」

「ああ、早く帰るんだぞ」

「えー、久しぶりの大学の同窓会だもん。少しは見逃してね?」

「駄目だ。早く帰って来い」

「はーい」

ベッドに入って半分寝ている周の頬にキスを一つ落とす。

ふっと笑った周の顔を暫く眺めていたら、直ぐに寝息が聞こえて来た。

この3日間はシャワーも浴びていないのだろう髪の毛はゴワゴワしていて、顎の辺りには無精ひげが広がっている。

こんなに疲れた顔の周を見たのは初めてだった。

やっぱり男の人は仕事に前向きで、元気に胸を張って夢を語るのがカッコ良い。

周の笑顔を見たかったけど、何時か何処かで見られる事を信じて今は我慢しておこう。

(来週一緒に行く予定だったプラネタリウム、また見られなかったな)


表に出ると、車の脇で御影さんが待っていた。

後ろのドアを開けてくれる。

そのドアの中へ滑り込む。

ドアが閉められ、運転席に御影さんが乗り込んで車が動き出す。

「約束の物」

運転席の御影さんが黒くて小さな物を後ろ手に差し出した。

受け取ってみると、それは自社の車の形をしたUSBだった。

「ありがとう」

後はアパートまで無言のままに到着した。

御影さんはきっと怒っているのだろうと思う。

「後は着替えて自分で行きます」

ドアを閉めるとガラス越しに御影さんが私を見つめていたが、暫くするとゆっくり車が動き出して走り去って行った。


アパートに入り、パスポートと数日分の着替えを持って部屋を出る。

そのまま電車を乗り継いで、空港へと向かう。

空港ではサマンサが連れていた黒いスーツの男性が待っており、カナダのオンタリオ州トロントへの片道チケットと私が住むマンションの所在地と鍵、それと私名義で作られたカナダ銀行の通帳とカードを渡された。

後は関係無いとばかりに、黒いスーツの男性はスタスタと出口へ消えて行った。

飛行機の出発時間まではまだ十分に時間がある。

近くのコーヒーショップへ入り、携帯でカナダのトロント大学を検索し、接触を図りたい相手のメールアドレスにメールを送る。

その返事が来るまでの間、家族や友人に電話を掛けて暫くの間カナダの大学へ留学すると話しておかなければいけなかった。

急でごめんね、と言う一言を忘れないで付け加えておこう。

それが終わる頃、いよいよ搭乗手続きが始まった。

カナダまでの長い道のり、退屈しない様に空港内のコンビニへと足を向けた。









もう四月だと言うのにトロントはまだ冬の寒さだ。

最低気温こそ氷点下からは脱出したが、朝起きると5℃前後の気温に吐く息もまだ白い。

隣の部屋を覗くと、点けっぱなしの電気の下で机に突っ伏して寝ている大介が居た。


彼は菊井大介。

トロント大学工学部の臨時講師。

大学の同期で超変わり者。

自分の興味のある研究には頭脳を使うが、興味の無い事には無知に近い。

高校の頃に手がけたソーラーカーのシステムが実用化され、その特異な能力を買われて東北大に推薦入学する。

しかし、漢字は読めない、常識を知らないと同期からはKYな人間と言われている。

あの大学の生徒殆ど全てがKYだと思って居る私は、自称常識人だと思って居る。

彼は大学院へ進んだが、教授との衝突が激しく周りの人間をはらはらさせていた。

自分の理論は間違っていないと、それを証明する為【持ち出し禁止】の薬剤を持ち出し、自宅で研究していたらしい。

しかしそれが発覚した為、大学院を追い出された。

何の研究をしていたのかは定かでは無いが、噂話ではシロアリ駆除に関する事だったらしいと言われている。


「大介、買い物に行ってくるけど、欲しい物ある?」

「んー チョコレート買っておいて」

「分かった。ベッドに入って寝るんだよ」

「・・・・・」

ベッドは要らないと言った意味が分かる。

大介は何処ででも寝る。

その能力は私も欲しい。




数年ぶりに会った大介は変わっていなかった。

身長は私より5cm大きい170cm、体重は少し増えたか60kg位、真っ黒い髪の毛は変わらず短髪で、変わったのはメガネが緑色のセルフレームになった事だろうか。

二重で丸い目と薄い唇は相変わらず幼く見え、弟だと言っても信じてくれそうだ。

その大介がメールで教えたおいたこのマンションに、何の連絡も無しに突然やって来たの

は、私が住み始めて5日目の夕方で、会った早々に腹の虫が「グゥー」と鳴ったのだった。

近くのレストランで食事をし、お互いの近況報告をしながらも楽しかった大学時代の話で盛り上がった。

シロアリ駆除の話は本当で、その後は何処の大学からも受け入れを断られ、高校の先生の紹介で今の大学の臨時講師をしているそうだ。

前の大学の教授から要らぬ噂話を流されて、日本の大学間で総スカンを食ったと本人は言っている。

今はこれと言って力を入れている研究は無く、前に作成したソーラーパネルの軽量化を考えていると教えてくれた。

そこで、私が今しようと思っている話を打ち明けて見る。

見る見る大介の顔色が変わって来た。





周の考えているのは着脱式充電器の開発だった。

それは何処の会社でも研究している物で、その先陣を切っているのがTTKなのである。

バッテリーを着脱式にすると言う事は、軽量化が実現でき、長時間の走行が可能でなければならない。

それでもって短時間で高速充電が可能なら、文句なくヒット商品になるだろう。

例えて言えば、電動自転車が最も身近な商品だと思う。

売り出した頃は20万円程の値段だったが、今では10万円以下で購入出来る。

バッテリーも小型化され、前よりも短い充電時間で今まで通りに利用出来る様になった。

それが車にも応用されたら、それは楽しい事だと思うのだ。

そろそろ日本もガソリンからの脱却を本気で考える時期に来ているのだろう。


一般的に今の主流はリチウムイオンバッテーである。

それの小型化が進んでいるのがFCエレクトロで開発された、FCVと呼ばれる物である。

最近の電気自動車に積まれているバッテリーは各社様々だが、これからはFCVの時代になるのではないかと言われている。

最近では更なる小型軽量化が実現し、周が構想している着脱式の充電バッテリーとしての実現が可能な状況が出来つつあるのだ。

しかし小型軽量化にした事で走行距離が現バッテリーの65%と短くなり、実用化するにはまだまだ問題が有る。

今の段階での提携はまだ無いが、80%まで伸びた時点で交渉は始まると見られている。


その差15%。

それを埋めるのに要する期間は八か月だろうと予想される。

それまでにFCVより優れたバッテリーを開発出来れば、あの毛皮の女性サマンサの鼻をへし折ってやれる。

その為には人材と資金が必要だ。

人材は今の所大介一人なのが不安要素であるが、彼も何か考えが有るらしくもう少し様子を見る事にする。

資金はサマンサから受け取った100万ドルを使う事に決めている。

その為に100万ドルを要求したのである。

彼女はそれだけ?と聞き返したが、半年分だと考えれば妥当な金額だろう。

(富豪の金銭感覚は庶民と桁が違うという事を痛感した)

実際100万ドルの研究費では半年持てば良い方だと思う。

サマンサのお金で夢のバッテリーを開発出来たら、彼女はどう思うだろう。

それを考えるだけでも楽しいものだ。

私が只黙って引き下がると思ったら大間違いなのだ。


でも、彼女は美人だし教養もある。

もし、周が彼女を選んだ時は・・・素直に喜べる自信は無い。

それでも周が望むバッテリーが出来れば、それが私からの感謝の標になる。

それだけで良いのだと思う。

サマンサの鼻を折る事より、周の喜ぶ顔を見る事の方が楽しいのだから。

その為にも、大介には半年で作って貰わなければいけない。


大介はこの話に興味を持ったようで、直ぐに大学を休職しこのマンションに泊まり込むようになった。

半年で100万ドルと言う言葉に「ぎりぎりかな」と考えていたが、条件を一つだけ付けて了承してくれた。










騙される振りをして騙してみようかと思うのですが、これがなかなか上手く行きません。小説も、現実も・・・(あ~)orz


バッテリーに付いては自分の分かる範囲内で書いてます。これ以上はつっこめません!後はこれから先の夢も若干入ってます(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ